2008年09月14日
エクストレイル ディーゼル 試乗インプレッション
前日の記事を書いていたらいてもたってもいられなくなり、日産の本社ショールームで試乗できるというので早速行ってきた。ちなみにこの日の朝一番での試乗希望者の全員がエクストレイルディーゼル目当てという人気ぶりであった。ATが無きゃ意味ないじゃんみたいに書いていた新聞記者には、そーれ見ろと言いたい気分である。
そもそもATが必須などというのは、どれを買ってもドッチコッチ無いような白物家電的なクルマには当てはまるかもしれないが、こういう特徴のはっきりしているクルマに関しては、ATだろうがMTだろうが関係なく指名客がつくものだ。件の新聞記者のようにありきたりのマーケティング論だけで考えていたのでは、クルマは一生分かるまい。
そのようなわけでエクストレイルディーゼル、しばらく本社ショールームの人気者になりそうなので、フラっと行ってパっと試乗できると思わない方が良い。行く場合はきちんと対策を。
さてインプレッションである。このエクストレイルのディーゼルエンジンも、CDIに積まれているエンジンと全く同じ傾向である。すなわちレスポンスがトロく、トルクの出方にタイムラグがある。シグナルスタートで一番になるのは普通に可能ではあるが、しかし得意か苦手かと聞かれれば、明らかに苦手な方である。やはりCDIと同じく、ある程度スピードが乗っている所からさらに加速しなければならないような、そういう本当にトルクが必要なシーンでこそ本領を発揮するだろう。いわゆる中間加速というやつだ。
それにしても、現代のターボディーゼルはもはやこういうトロいレスポンスでしか成立しないのだろうか? 「低速トルクが大きい」などという常識は過去のものと思った方がいいかもしれない。確かにガソリンに比べれば低い回転数でトルクを発生するものの、そこには回転数の読み替えが必要なのだ。ディーゼルの2000回転は実質ガソリンの3000回転ぐらいの感覚で、ディーゼルの3000回転はガソリンの4500回転ぐらいの感覚である。もしディーゼルで低回転型の印象を出そうとすると、1000回転をちょっと過ぎたあたりから急激にトルクが立ち上がらねばならない。しかしエクストレイルもCDIも、トルクの本領は2000より少し上あたりで出てくるから、実用上は低回転型という印象はほとんど無いのである。
いずれにせよ、トルクが大きい=ゼロ発進が得意とか、トルクが大きい=レスポンスが良いとか、トルクが大きい=町乗りが得意とか、そういうことは全くあり得ず、むしろ正反対なので、そこだけは間違わないで欲しいと思う。MTであってもそういう印象は全く覆らなかった。
いったんトルクに乗ればこれはもう速い速い。回転上昇と加速感とが見合わないという、電車か飛行機チックな加速はエクストレイルでも楽しめる。ただしMTであるが故に、性能を100%引き出すにはオーナーでなければ難しいだろう。この辺が、ベタ踏みすれば誰でも異次元の加速を楽しめるATのCDIと異なる所である。
MTであるが故のメリットは加速時より減速時にある。CDIのATは、欧州車ということもあるのだが、減速時に律儀にシフトダウンしていく。これはスロットルを駆使して車速をコントロールするには具合が良いものの、減速時にまで燃料を食うというデメリットもある。律儀にシフトダウンするから、完全にアクセルオフできる時間がきわめて短くなってしまうのだ。
とあるサイトによると、ディーゼルはガソリンと違って理論空燃比が存在しない分、パートスロットルの多用により大きく燃費が悪化してしまうらしい。もしそれが本当だとすれば、ディーゼルの場合はガソリン以上に、完全にアクセルオフできる時間を長く取る事が重要になってくる。
MTであるエクストレイルならそれが可能なわけだ。もともとさほどエンジンブレーキは強くないので、ギヤを動かさずにそのままアクセルオフすればよい。CDIより300kgも軽い上に排気量も2/3、さらにこのエンジンブレーキの弱さとMTであることを駆使すれば、相当良い実用燃費が得られるのではないかと思う。
ただし、低回転を好むあまり、ノッキングさせてしまうことだけは絶対に避けたい。 ここでいうノッキングとは、ハイギヤで低回転運転させてエンジンをカラカラ言わせてしまうような現象である。これはかなりエンジンに良くないと言われているので、絶対に避けよう。いつまでもハイギヤで粘っていないで、早めにクラッチを切るのが無難である。
さてMTそれ自体は典型的な国産MTというか、AT感覚でズボラに運転できてしまうMTである。クラッチはシンクロが強力なのか、どんなヘタクソな操作も受け入れ、シフトストロークはひたすら短く軽い。エンジンブレーキが弱いのは燃費的には利点であるが、ドライバビリティの点では問題無しとはしない。こういうMTはきっと、長時間運転しているうちになんだかどうでも良くなってきて、ズルズルのダラダラな操作になる事だろう。どっちが先なのかは知らないが、こんなダラダラしたMTばかり作っていれば、ATばかり好まれるようになっても当然である。ATみたいなMTだったら、最初からATの方がいいに決まっている。せっかくMTにするのだったら、ATとはガラっと違うものにしなければ意味が無い。
ちなみに欧州で走っているMTは、例えその辺のオバチャンが運転しているミニバンであっても、日本で売られているロードススターのMTよりもよっぽどスポーティーである。欧州ではそういうMTだからこそ広く支持されているのであり、日本ではそんなMTしか無いから廃れていく一方なのだ。
足回りはまだ本当のおろしたての新車で、確か100kmぐらいのオドメーターだったから、まだ本領発揮とは言えない。しかし相変わらず素直で自然な乗り心地であり、ハンドリングである。
SUVやミニバンの足回りの素性を見抜く、最も簡単なテスト方法を伝授しよう。座るのはセカンドシートが良い。そして誰かに運転してもらう。乗り心地の固い柔らかいは、足回りのデキにはまったく関係ないので無視する事。そして自分の頭の動きを観察する。路面の状況や加速減速状況に応じて前後左右上下に動くのは、そのクルマが良い足である証拠である。しかし路面の状況や加速減速状況とは関係なく、頭がナナメにゆすられるような動きをしたら、これはダメグルマである。セダンの場合はさすがにそこまで酷いクルマは少ないのだが、SUVやミニバンの場合はそういうヘンなのがゴロゴロしているのが実情だ。エクストレイルはもちろん合格である。
ディーゼルモデルの場合は標準がクロスシートになるようだ。一部レビューで述べられているが、座り心地がいいのは防水仕様である合成革シートではなく、普通のクロスシートである。長時間乗っているとかなり差が体感できるかもしれない。クロスシートを選んでおいて、現地に着いて必要な時だけシートカバーでもかぶせるというのが、ひょっとしたら賢い使い方かもしれない。
それからディーゼル関連ではあと一点、これは私が確認するのを忘れてしまったので誰かに見て欲しいのだが、給油口のフールプルーフである。日本ではディーゼル乗用車が普及するのにもう少し時間がかかるだろうから、間違えてガソリンを入れられてしまうケースが心配だ。CDIの場合は給油キャップ全体が黄緑色に塗られ、それはスタンドの軽油ノズルと同じ色なわけだが、そこに白抜きの文字で「軽油」と書かれている。これぐらいやればまず間違われないとは思うのだが、エクストレイルのディーゼルはどうなっているかが気がかりである。
苦言を一つ。リアシートをたたんで荷室を作った時、荷物が前席に飛び込んでこないようなパーティションネットのようなものが、オプションにさえ存在しないのは理解しがたい。カタログではMTBをバラさずに二台積んでいる写真が出ているが、いくらフロアが防水でもリヤシート座面の裏は防水ではなく、簡単に破れてしまいそうなフツーのファブリックである。もしリヤシート座面を取り外したとしても、今度はフロントシートバックが犠牲になる。特にディーゼルモデルの場合はクロスが標準で、防水ではない。
これは国産車全体に言える欠点であるが、とにかくパーティションネット等、ラゲッジとキャビンを隔てる装備が貧弱である。これは単に安全面のみの問題ではなく、かさばる荷物を安定して積むという実用的な効果や、ドライバーの背後をガチャガチャと鬱陶しくさせいないなどの精神衛生的な効果もある。…というとどうせまた「ニーズが無い」などという言い訳に終始するのだろうが、その便利さを知らないユーザーがどうやってそれを要望できるだろうか。
Eクラスワゴンの場合は荷室と乗員との隔離が徹底しているばかりではなく、リアシート直下にまで荷物固定用のフックが用意されており、これによりほぼ完全に荷物が運転席に飛び出してこないよう固定することができる。しっかりしたパーティションやネットはコストがかかるもので、今すぐの実現は難しいかもしれないが、リヤシート直下のフックごときのコストなど知れていよう。こういうお金のかからない事はどんどん真似すべきである。ちなみにリヤシート直下、もしくはそれより前方のフックは、国産ワゴンの雄のように言われるレガシィにさえ付いていない。というか輸入車を含めてもそうそう無いだろう。全体的に、フックが後方に集中し過ぎなのだ。
それからこれは余計な事かもしれないが、ハイパールーフレールは実物で見るとかなり子供っぽい。確かに夜中の山中ではできるだけ明るいライトが欲しくなるから、着眼点としては一応まっとうだと思うものの、デザインはかなり奇異だ。オプションで付ける場合は一応実物を確認してからの方が良い。カタログの写真だけを見て判断するのは危険。
最後に、私はこれを買うだろうか? もし買うとしても、一応ガソリンのMTモデルも試乗してみてから決めると思う。というのは、これはエクストレイルの単なるディーゼルバージョンではないからだ。これは同時に、現行エクストレイルにおける最速のハイパフォーマンスモデルであるという面もある。本来ディーゼルが苦手とする馬力においても、2.5Lのガソリンエンジンとほぼ同等だ。2.5Lなみのパワーに、3.6Lなみのトルク。まさに名実共に「GT」バージョンなのだ。
もちろんそれは今日試乗する前に分かっていた事ではある。だが実際に試乗してみて、ますますその感を強くした。というのは、ここまで速い必要があるのだろうかと思ってしまったからだ。クルマ自体にその速さの必然性が無く、いわばオプション的な速さと感じられたのだ。
とはいえ、エクストラな支出を払ってまでとにかく速いクルマを求める層というのも常に一定以上いるわけだし、これはそういう人の為のグレードであると断言してしまおう。旧インプレッサでいえば、WRXを選ぶようなものなのだ。燃費の良いWRXだ。
そういう風に「GT」モデルを買うという意気込みであれば、2.5Lガソリンに比べて数十万円高い価格も、十分納得できるだろう。しかも世にはびこるガソリンGTモデルに比べればバカみたいに燃費が良いのだし、燃料代そのものもハイオク比30円ぐらい安いのだから、信じられないぐらいおトクに思えてくる。「経済的なのに速い」ではなく、「速いのに経済的」という風に発想の順番を変えれば、このクルマの存在意義がはっきりしてくるし、またそれこそがこのクルマの成り立ちの本質だろうと思う。
エクストレイルディーゼルは、ハイパフォーマンスバージョン。そう思って買って乗るなら間違いない。
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Posted at
2008/09/14 23:55:22
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