★おんちゃのブログ一覧

春ですね

けれど夏はすぐそこです
桜に早くも緑の葉が
生命力ってすごいですね


物語思い出したので書きます。




さとしくんの家の庭には、一本の桜の木がありました。


さとしくんが物心ついた時には、すでに花を咲かせていました。

さとしくんは明日、留学の為にロンドンへ旅立ちます。


荷造りをしながら、ふと庭をみると…
見知らぬ犬が、桜の木の下にちょこんと座っていました。

お前どこから入ってきたんだよ？どこの子だ？

さとしくんが話しかけても、犬はただ黙ってさとしくんを見つめています。

赤い首輪をしているから、多分飼い犬でしょう。

タロウ と首輪にかかれています。

お前タロウっていうの？こっちきなよ

さとしくんが手を伸ばしたその時

さとし！

さとしくんのお母さんの声が、部屋の奥からしました。

さとしくんが振り向き、返事をしました。


なに？庭にいるよ！今犬がさ…

赤い首輪の犬は、いませんでした。

あれ？

さとしくんのお母さんが庭にきました。

あんた何してるのよ？

いや、今さ、その桜の木の下に…


言いかけて、さとしくんはハッとしました。


タロウ？
赤い首輪のタロウ？

さとしくんは思い出しました。
小さい頃の記憶。

さとしくんがまだ保育園に入る前、家にタロウという名前の犬がいた事。
茶色の体に似合うから、と赤い首輪を選んだ事。
字を覚えたての自分が、首輪にタロウと書いた事。

そして死んでしまったタロウを、火葬にしないで、そばにいさせてと泣きついて、桜の木に下に埋葬した事。

なんで忘れてしまっていたんだろう。

さとしくんは泣きそうになりました。
タロウはきっと、初めて家を離れるさとしくんを、見送りたかったのかもしれません。

さとしくんのお母さんが、不思議そうに言いました。

あなた、どうしたの？

桜の木が…なに？

さとしくんは言いました。

なんでもない。

と。

心の中では、

タロウごめんね。

行ってきます。

と言いました。


桜の木が、優しく揺れた気がしました。