
内科医で作家の南杏子の2018年に刊行された医療長編サスペンス小説です。
私が最近ハマって.いる南杏子さんの小説で「ディア・ペイシェント」(改題「ディア・ペイシェント 絆のカルテ」)は2作目にあたります。
イントロダクション:公式サイトより
クレーム集中病院で、若き女性医師が“モンスター・ペイシェント"に狙われた!?
失敗しようと思う医師はひとりもいない。けれど、医師と患者が解りあうのは、こんなにも難しいのか――。現役医師が、現代日本の医療界の現実を抉りながら、一人の医師の成長を綴る、感涙長篇。
病院を「サービス業」と捉え、「患者様プライオリティー」を唱える佐々井記念病院の常勤内科医になって半年の千晶。午前中だけで50人の患者の診察に加え、会議、夜勤などに追われる息もつけない日々だった。そんな千晶の前に、執拗に嫌がらせを繰り返す“モンスター・ペイシェント"座間が現れた。患者の気持ちに寄り添う医師でありたいと思う一方、座間をはじめ様々な患者たちのクレームに疲弊していく千晶の心の拠り所は先輩医師の陽子。しかし彼女は、大きな医療訴訟を抱えていた。失敗しようと思って医療行為をする医師はひとりもいない。しかし、医師と患者が解りあうことはこんなにも難しいのか――。座間の行為がエスカレートする中、千晶は悩み苦しむ。
現役医師が、現代日本の医療界の現実を抉りながら、一人の医師の成長を綴る、感涙長篇。
私見:
本書は第1章「午前外来」、第2章「夜間当直」、第3章「オアシス」、第4章「豹変」、第5章「攻撃」、第6章「崩壊」、第7章「日常」迄の7つに区分されていますが、各章毎に何かが完結する訳ではなく、最後迄物語は連綿と続いて行きます。
主人公は女性内科医師の真野千晶で、小説のタイトルは「ディア・ペイシェント(親愛なる患者)」ですが、作中に登場するモンスターペイシェント(難渋患者)を相手にして行きながら、医師として成長して行く物語です。
私の琴線に触れたところは。
真野千晶医師の先輩の浜口陽子医師が執刀した手術で、医療ミスではない不可抗力で患者が亡くなり、医療訴訟で敗訴してしまいます。
多くの医師や看護師、患者やその家族からの信頼の厚い浜口陽子医師にとって、敗訴と言う現実は重く彼女は服毒自殺してしまうのですが、読んでいて遣る瀬無い気持ちになりました。
後に、真野千晶は浜口陽子の親御さんに「医療とは不確かなもの、訴えた患者がどう言うか?裁判所が何をどう判断するか?私には分かりませんが、確かなのは、失敗しようと思って医療行為する医師は一人もいないと言う事。陽子さんが精一杯頑張っていた医師であった事は、傍で見て来た私が断言出来ます。」と話しています。
病院が乱立する川崎市で佐々井記念病院は経営を維持する為、患者対応マニュアルが導入されています。
そこには、モンスターペイシェントに対応する場合、クレームとは言わず、リクエストと表現する様にとあります。
この本を読んで初めて知ったのは、医師には「応召義務」と言うのがあって、それは医師法第19条第1項の定めで、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、拒んではならない」のだそうです。
こう言った応召義務を逆手に取った患者が、モンスターペイシェント化している要因かも?
後半で、千晶を励ます父親の真野徹医師が「誠実に患者を癒し続けなさい。その医療が如何にささやかであろうが、愚鈍に見えようが、誤解を生もうが、力不足であろうが…」と言います。
「ささやかな医療であっても誠実ならば、その気持ちは必ず患者に伝わる。愚鈍に見えても、いつかそれが王道だと知って貰える。誤解を生んでも、時を超えて理解される時が来る。力不足だったと言う経験を糧に精進すればいい。最初から完璧な医師なんていないのだから」の言葉は医師でない方々の心にも響くのではないでしょうか?
最後に、千晶医師が病院を「治療の場を、争いや対立の場にしたくない。…、誠実であり続けよう、温かい言葉で満たそう。いつ迄も癒しの場でありますように…」と願いながら、物語は閉じます。
私の説明だと、サスペンス物と理解されないと思いますが、本書はしっかり推理小説の体を成していました。
これから、読書の秋に向かって行きますが、その際にお勧めしたい1冊です。
Posted at 2022/08/20 07:14:26 | |
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