
内科医で作家の南杏子の医療長編小説で2020年に刊行されています。
7/16のブログ「映画「いのちの停車場」を観て…」でも触れましたが、主人公は東京の救命救急センターから都落ちして、地方の「まほろば診療所」で在宅医療医師の白石咲和子。
その父親の達郎が骨折を機に誤嚥性肺炎、脳梗塞、脳卒中後の疼痛と矢継ぎ早に病魔に襲われます。
その痛みに耐えかねた達郎は咲和子に早く楽にして欲しいと懇願します。
映画のクライマックスで咲和子が、父親の願いを叶え様と日本では犯罪になる積極的安楽死させる事を決意しますが、実行したのか?は明らかにされていませんでした。
それが気になって映画の原作になった小説「いのちの停車場」を読んでみました。
小説はプロローグから始まって、第1章から第6章迄。
第1章「スケッチブックの道標」は、脳出血後の胃瘻患者の並木シズを在宅治療しますが、その際の夫の徳三郎が行う老々介護問題を取り上げています。
第2章「フォワードの挑戦」は、IT企業社長の江ノ原一誠が社内ラグビー同好会の紅白戦(映画ではトライアスロンの自転車パートで落車に置き換わっていましたが…)で頸椎損傷の四肢麻痺になります。
江ノ原は再び四肢が動かせる様にと、最先端医療の幹細胞移植に希望を抱く内容。
第3章「ゴミ屋敷のオアシス」は、「ホーダー」と言われる精神疾患、ゴミ屋敷の中で生活していてセルフネグレクトの母親と、その母親を改善させようとする娘の話。
第4章「プラレールの日々」は、末期の膵臓癌患者の宮嶋一義は元高級官僚でありながら、延命治療で国民の税金を使わないと言う志しの許、積極的治療を拒否し、終末期を平穏に過ごしたいと願っています。
そして、夫の介護に全てを捧げる妻の友里恵には介護疲れのストレスが蓄積して行きますが、「まほろば診療所」のスタッフは友里恵のケアもしてあげます。
第5章「人魚の願い」は、ステージ4の小児癌患者で6歳(映画では9歳の設定でした)の若林萌は抗癌剤治療を3次治療迄試みるも効果が現れません。
萌の母親の祐子と父親の健太は、娘の延命の為に抗癌剤治療の継続を願いますが、それは逆に萌の身体への負担が大きくて寿命を縮める事になると説得されます。
生きている内に海に行きたいと言う萌の達ての願いを両親と「まほろば診療所」スタッフは叶えます。
第6章「父の決心」は、このページの冒頭で話した内容です。
この物語の主人公の白石咲和子は医師で、その父親の達郎も元医師(映画では設定が画家だった様な?)です。
達郎は妻が外傷性くも膜下出血で亡くなる迄の半年間、意識のない状態で延命治療を行った事を後悔していました。
達郎自身が高齢で次から次と病気に侵され、疼痛過敏症である故に眠れぬ程の苦しみに耐えかねています。
それで、娘の咲和子に積極的安楽死をして欲しいと願います。
見兼ねた咲和子は、積極的安楽死を行う事を決意します。
私見ですが、父親の達郎は父親失格でしょう!
自分が如何に身体的に苦痛を味わっていて、解放されたいと思っていても、普通の父親なら娘を犯罪者にしたいと思わないでしょ!
本編には、安楽死には2種類、延命治療を止めて患者を自然な形で死に導く消極的安楽死、いわゆる尊厳死。
それと、医師等が致死薬を用いて死期を早める積極的安楽死があると説明されていました。
積極的安楽死はオランダやベルギー等の一部の国では合法ですが、日本では違法。
名古屋高等裁判所が1962年に出した判決文には、積極的安楽死を是認し得る6つの要件が列挙されていて、
①患者が不治の病で死期が迫っている事
②耐え難い苦痛がある事
③専ら患者の苦痛を緩和する目的である事
④本人の真摯な嘱託・承諾がある事
⑤原則として医師の手による事
⑥その方法が倫理的に妥当である事
とあり、咲和子が行おうとしている医療行為は6つの要件全てを網羅しているので、無罪になりそうなものですが、日本の司法は前例のない判決は厳しい評決になりがちなので無罪と言う訳には行かないでしょう。
とは言うものの、物語のクライマックスは、あっ、やっぱりそう来たか!と言うフィナーレでした。
私がネタバレする訳には行きませんので、興味のある方は本書を書店でお買い求め頂いて、読破して下さいね。
出来れば、映画「いのちの停車場」を御覧になってから、小説「いのちの停車場」を読むと、その違いを楽しめると思います。
小説「いのちの停車場」は読んでいて興味深い内容でした。
私は、第6章以外は琴線に触れる物語で、夫婦って好いなぁ!親子って好いなぁ!家族って好いなぁ!って思う内容でした。
但し、第6章は作家の南杏子さんが、安楽死の在り方に一石投じたかった作品なのかも?と私は穿った見方を持ちました。
医療小説の先駆者の海堂尊さんとは違った意味で、医療社会へ問題提起をする素晴らしい女流作家が出現したようです。
Posted at 2022/07/29 12:03:35 | |
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