ドキュメンタリー映画「ロード・トゥ・ルーベ」の上演会&トーク・イベントの後、いそいそと帰宅して、「パリ~ルーベ」のライブ中継に備えました。
3月から4月にかけてヨーロッパでは、「春のクラシック」と呼ばれる自転車のワンデー・レースがいくつも開催されます。 ちなみに「クラシック」には「古い」という意味の他に「一流の」という意味もあります。 クラシックで勝つ事は大変な名誉で、ツール・ド・フランスなどの有名なステージ・レースで勝つ事よりもクラシックで勝つ事を重要視する関係者やファンも数多く存在します。 そして、一連のクラシックの中でも最も格式が高く、かつ厳しい条件ゆえに「クラシックの女王」とも「北の地獄」とも呼ばれるのが、この「パリ~ルーベ」です。 なんと107回目の開催というから驚きです。
パリからベルギーに程近いルーベへの約 260km、そのうち約 60km が「パヴェ」と呼ばれる石畳区間です。 古い大きな石でできたパヴェを高速で走り抜けるのは自転車にも選手にも大きなダメージを残し、「パリ~ルーベで一度使用した自転車はもう二度と使えない」と言われるほど過酷です。 天気が良くても滑りやすい石や激しい振動が落車を誘い、舞い上がる砂埃が選手と自転車に徐々にダメージを蓄積させていきます。 一方、雨が降ると石はさらに滑りやすくなり、ところどころに露出している土の地面は泥沼と化し、カラフルだった自転車もウェアも泥に厚く覆われ、文字通り「北の地獄」にふさわしい様相を呈します。
本命は僕の好きなトム・ボーネン(ベルギー)、過去に2回このレースで優勝しており、昨年の覇者でもあります。 もちろん、2勝というのは現役最多。 他チームから徹底的にマークされるのは確実でしょう。対抗するのは(嫁さんの応援する)ファビアン・カンチェラーラ(スイス)。 過去に1勝しており、昨年も表彰台にあがりました。 しかし、今は若干調子を落としているようで、強気のコメントはありません。 あと、注目選手として解説者が名前をあげたのは、何かボーネンと確執でもあるのか、ここ数戦ボーネンへの執拗なマークが目立つフィリッポ・ポッツァート(イタリア)。 ただ、自分が勝つ為に有力選手を徹底的にマークするのは正当な戦術ですが、ボーネンに勝たせたくないが為に共倒れを狙ってマークし続けるのはフェアな戦術ではなく、非難の声が上がり始めています。 その他には万年2位のホアンアントニオ・フレチャ(スペイン)、最近好調のハインリッヒ・ハウッスラー(ドイツ)辺りが注目選手でしょうか。
ここでレース展開を詳細に書いても仕方がないので省略しますが、終盤ボーネンとポッツアートを含む6人の先頭集団が形成され、このままゴールまで行けばゴール・スプリントでボーネンやポッツァートに勝ち目のないフレチャがパヴェ区間でいちかばちかのアタック・・・しかし、失敗したうえに運悪く落車。 トル・フースホフト(ノルウェー)とボーネンは巧みにすり抜けて前に出るが、ポッツァートは(落車は免れたものの)減速を強いられ、あとの2人は巻き込まれて落車。 そして、先頭に出たフースホフトが絶好のチャンスと見てここでアタック。 ボーネンが追走し、この2人と懸命に追いつこうとするポッツァートとの差があっという間に広がっていく。
すぐにフースホフトに追いついたボーネンは、ここで強力なカウンターアタック。 前に出てフースホフトとの差を広げ始める。 焦りながら追うフースホフトはパヴェ区間で落車し、ポッツァートが2位に浮上。 ゴールまではおよそ 30km 弱。 先頭を独走するボーネンと追走するポッツァートのタイム差は約10秒。 因縁の2人の一騎打ちという、絵に描いたようにドラマチックな展開。 フランスとはいえ、ベルギーに近い地方のせいか、沿道を埋め尽くす観客はボーネンのファンばかり。 ボーネンに熱い声援を、ポッツァートにブーイングを浴びせる。 じわじわとボーネンが15秒差にまで広げるが、ポッツァートも歯を食いしばって13秒差にまで詰め寄る。 しかし、息詰まる熱戦もここまで。 再び差が開き始めると、もはやポッツァートにはなす術もなく、差は開く一方に。 解説者が「ボーネンの走りにはオーラを感じる」と繰り返していたのが印象的でした。
パリ~ルーベのゴール地点はヴェロドロームという古い自転車競技場。 マラソンのように競技場内を1周してゴールです。 大歓声の中、ボーネンが満面の笑みで競技場を1周。 これで
昨年に引き続き、2年連続3度目のパリ~ルーベ制覇。 これは史上2番目の大記録です。 ボーネンも序盤に落車し、自転車にトラブルを抱えたまま走り続け、終盤のそろそろ勝負どころという辺りで(タイムロスを覚悟の上で)自転車を交換。 また、自身も左腕と左脚を打撲し、痛みに耐えながらの激走です。 リザルトだけを見れば、「ああ、大本命が前評判どおりに勝ったんだな」と思っちゃいそうですが、
徹底的にマークされ、痛みや機材の不調に耐えながらも、王者にふさわしい正々堂々たる戦いっぷりで勝ったのです。 いやあ、見ごたえのある、面白いレースでした。 再放送されるはずなのでこれは録画して永久保存にしないと(笑)。 最後、表彰式では、互いの健闘を称えあうボーネンとポッツァートの姿が印象的でした。 3位はいったん後続に追いつかれたものの粘って盛り返したフースホフト。 消耗しきって少しうつろな表情でした。
詳しくは「
サイクリング・タイム」で(^^)。
Posted at 2009/04/15 12:56:43 | |
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