2017年04月30日
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「よく来たわね。新兵!」
ハスキーボイスが朝の空気を一気に斬り裂く。
「その声は薫子ッ!」
慌ててクルマから降り立った俺は、怪しい「コーチ」に第一声を放った。
「いったいなんだよ、その格好は?」
「シャーラップッ!」
胸を反らせて、あいつは言った。
「プライベート・ケースケッ! これからきっかり四十八時間、あたしのことを呼ぶ時は、『薫子さま』ではなく『軍曹殿』と言いなさい! また、その猥褻な口から排泄行為をする前と後には、必ず『サー』を付けること! わかったわねッ!」
「は……はァッ!?」
「はァッ、じゃないわッ! 『サー・イエス・サー』よッ!」
状況が飲み込めてない俺に向かって、左手を腰に薫子は怒鳴る。
「いいこと、プライベート・ケースケッ! 君はねッ、いまのままサーキットに出撃しても、ただ動くシケインにしかならないファッキング・ニュー・ガイなのッ! いまこの瞬間から本番までのすべての週末、このあたしがみっちり鍛えて、君を一人前のスラローマーにしてあげるわッ! 泣いたり笑ったり出来ないくらいに、がっちがちにしごいてあげるッ! どう? 嬉しいでしょ? 跪いて感謝しなさい!」
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投稿サイト「小説家になろう」にて連載中の拙作「じむかーなにいこう!」
本日最新話「第二十二話:カオルコーズ・ブートキャンプ」をアップしました。
本章(第五章)のメインステージは、ボクらの地元「イオックス・アローザ」です。
お楽しみください!
Posted at 2017/04/30 10:02:23 | |
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2017年04月26日
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いつまでも我流のままでは駄目なんだ。そんな思いがひとたび心をかすめてしまうと、今度は急に、そっちのほうでも「指導者役」が欲しくなる。俺みたいな未熟者がレベルアップを果たすには、やっぱり鍛えてくれるトレーナー役が必要だ。それも、岡部のオヤジと同じように、無手勝流の俺を叱って「世界のルール」を叩き込む、そんなとびっきりのトレーナーって奴が。
だが、いざそう考えて自分の周りを見渡すと、そういった役に足る人材は、ひとりたりとも見当たらなかった。まあ思い返せば、そういうのもあたりまえといえばあたりまえの話だ。なんといっても運転免許をとってこの方、この俺にクルマ関係の友人知人など出来た試しは一度もないのだ。当然だろう。「峠やまの走り屋」だった時分の俺は、誰彼構わず噛み付くような、危険人物として認識されていたのだから。
クルマに絡んだ「敵手」はいても、「仲間」と呼べるだけの人間は、ひとりだっていないはず。そんな奇妙な自信で胸を張れる、それっくらいの状況だった。
あーあ……
心の中で嘆息する俺。
どっかにいねえかなァ、俺の「師匠」になってくれそうな腕っ利きのドライバー。
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本日最新話「第二十一話:決意の土下座」をアップしました。
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Posted at 2017/04/26 20:48:26 | |
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2017年04月11日
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奴の言ったことを俺なりに咀嚼して述べるなら、それは「人間には、ひとりひとり独自の人格と損得勘定がある」っていう話だった。
そんな内容を上から目線で説教されても、「なんだ。そんなのあたりまえのことじゃないか」と思う筋が大半だろう。事実、最初俺もそう思った。
だが、そのあたりまえを描くことこそが実は最も難しいのだと、奴は俺に向かって言葉を続けた。
「人間という生き物は、余りにも奥深い存在なのです。たとえそれがたったひとりの人間であったとしても、別の誰かがそのすべてを理解し得るのかと問われれば、それは不可能だと答えるしかありません。ですが先生のような創作者は、自作の中では独裁者を超越する絶対権力を持ちます。出来ないことは何もないと申し上げても過言ではないでしょう。当然です。創造神なのですから。そしてそれゆえに創作者は、ついつい単純な過ちを犯してしまう傾向があるのです」
「単純な過ち?」
「そうです。漫画家や小説家のように一本の『ストーリー』を織り上げる創作者は、ある特定の登場人物を寵愛するがあまり、自分自身の造り上げた『ワールド』を、そうした一部のキャラクターに従属させてしまうことが多いのです」
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Posted at 2017/04/11 19:47:41 | |
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2017年04月10日
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「ターンインをミスった君のクルマは、ただ長い距離を走ることになっただけでなく、アクセルオンの機会まで逃して二重のロスを獲得しちゃった。この一連の流れが、今日の君が犯した最大のミステイクよ。このミスで君が失ったタイムは、いちコーナーあたりコンマ二秒から三秒。仮に十箇所のコーナーでこれを繰り返したとすれば、全体のロスタイムは二秒から三秒ってところになるかしらね。もし今日の君が、仮定したこの三秒のロスを縮めることが出来てたなら、表彰台の上はさすがに無理でも、クラスの中盤あたりには余裕で食い込めてたわ」
「……つーことは、だ」
落ち着いてそれを聞いていた俺の脳裏を、不意にひと筋の光明が過ぎった。
「その一点をクリアしさえすれば、俺はすんなり、それだけのタイムを短縮出来るって寸法なわけだな」
「ま、そういうことになるかしらね」
薫子は、俺の言葉をあっさり認めた。
「でもまあ、こういうのはいわゆる『言うは易し』って奴でね。言葉で聞いて頭でわかったつもりになっても、なかなか結果には結びつかないものよ。もしそれが簡単に出来ちゃうようなら、それこそプロが失業しちゃうわ」
「それでもいま、はっきりとした目標が出来た。おまえのおかげで、目指すべきパイロンが見えてきた」
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Posted at 2017/04/10 14:55:46 | |
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2017年03月15日
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「なるほどなるほど」
俺の語りを興味深そうに聞いていた薫子が、頷きながらそれに応えた。
「確かに、君の言ってることのひとつひとつは正しいわ。でも──」
「でも?」
「でも結論から言わせてもらう。今回の君の作戦は、根本のところで間違ってる」
「どこがだよ?」
口調を強めて俺は尋ねた。
「理屈のひとつひとつは間違ってないんだろ?」
「理屈に文句があるんじゃなくって、やり方に問題があるって言ってるの」
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本日最新話「第十八話:男の矜持と反省会」をアップしました。
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Posted at 2017/03/15 11:09:59 | |
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小説 | 日記