ソメイヨシノが散り始め、八重桜が満開になる頃
俺は長年通い慣れた職場を後に、新しい職場へと転勤して行ったんだ
俺の異動が4月1日の定期人事から若干ズレたのは
最後の決算を自らの目で確かめたかったから
そう、俺の血と汗と涙の10年間が
経理システムから出力される無機質な数値だけで評価されるんだ
スタートから赤字の、雲をつかむような新規事業ではあったんだけど
激的な躍進はなかったもののここ数年は幾ばくかの利益は残せるようになったんだ
まあ、それで良し!って事にしようじゃないか
ああ、これは俺が決めることじゃねえんだけどなw
転勤が決まった時、何処に行くのかと、あっちこっちの人に聞かれたよ
グループ全体で言えば、事業所は日本全国にあって、外国にだって拠点はあるんだ
ただ、親会社が統括する主なエリアが西日本なので
勤務地は遠くとも、西は沖縄県、東は静岡県までになるんだけどね
いやいや、自分の年齢を考えると恐らくは今の住居から通勤できる範囲内だろうさ
これだけ会社に貢献してきたんだ、それくらいの融通は利かせて欲しいじゃないか
そう考えると転勤先はおのずと絞られてくるさ
新規事業をやってる事業所はそれほど多くないんだ各府県に1ヶ所だけだもの
と、いう事で、俺の新しい勤務先は
ポートタワーが見下ろせる、とある港町の高層ビルの19F!
ではなくて
緑が豊かな、二条城近くのミヤビでハンナリとした静かな街の小さな営業所
でもなかったんだ
正直なところ、行先はどこでも良かったんだ
10年前、俺の前に道はなかったんだから
確かにこの年で、今から道なき道をつき進むパワーはもうないかも知れんけど
でも何処に行っても同じことさ、働く以上、歩き続けるしか仕方ないじゃないか
『歩くから道になる、歩かなければ草が生える』
相田みつを
いやね、草が生えりゃまだいい方さ
しがないサラリーマンだもの、働かなきゃペンペン草だって生えやしねえよ
もう30年くらい前の話しさ
俺がまだ新入社員だったころ、自分が尊敬する上司に言われたんだ
『男やったらデカいツラして仕事せなあかん
せやけど、デカいツラして仕事しよう思たら、仕事が出来なあかん
仕事をしよう思たら、仕事を知らなあかん』
今になって思えば、俺は転勤で仕事が変わるたびに
ずうっとそれを実践してきたように思うよ
何と言ってもツラだけは人一倍デカかったからさ
ああ、仕事が出来たかどうかは知らんけどなw
だから最近の俺なんか見てみ?
デカいツラどころの話しじゃねえよ
デカいハラして仕事してたからな
ってか、ほっとけやwwwwwww シクシク
まあね、とりあえずまた初心に戻って「仕事を知る事」から始めてみるさ
一歩一歩の積み重ねが大事だからね、とにかく前進あるのみさ
這ってでも前に進むさ
ああ、前向きって事でちょっと思い出したんだけど
転勤する少し前にさ、とある港町の高層ビル19Fにある事業所で
社員に向けた親会社の社長のポスターが目にとまったんだ
やっぱ親会社の代表取締役社長ともなれば言う事が違うね
俺はこのポスターを見て、感激のあまり思わず声が出てしまったよ
社長!
アンタは男子トイレかwww
人生は出会いと別れの繰り返しとか言うけどさ
やっぱり別れってのは寂しいものだね
気の合ったスタッフに恵まれて
俺は何とかここまでやって来れたんだ
そりゃ俺が出て行くことで内心ラッキーとか思ってるヤツもいるだろうけどさ
それでも慕ってくれたヤツも何人かはいるはずさ
たぶんw
誰が何処に行っても俺たちは仲間なんだから
なんてね、クサいセリフはこっ恥ずかしくって言えねぇけどさ
今生の別れじゃないんだからさ、いつかまたどこかで会えるさ
また一緒に仕事をしようよ、だから笑って見送って欲しい
転勤することは決まっていたけど、まだ行先が決まらないまま何日かが過ぎて
スタッフ達と飲みに行くたびに、そんな話しをしていたよ
辞令発令
まあね、分かってはいたことなんだけどね
組織ってやつは、個人の都合なんかあまり考えたりはしないもんなんだよな
自分の想像を遥かに超越した転勤先を聞かされた時
俺は驚きと怒りと絶望を通り越して、ただただ笑うしかなかったよ
まあいいさ、そこに仕事があれば、それが俺の仕事さ
転勤先のロケーションはあまり重要な事ではないさ
そして最後の日
あらかたの荷物は先に転勤先に送り込んでいたので
身の回りの荷物だけをカバンに詰め込んで、俺はそっと席を立ったんだ
俺、そろそろ行くわ
本当は見送られるのはあまり好きじゃない
じゃあ、また明日って感じで自然に席を立ち、普段どおりに去って行きたかった
それでもやっぱり、誰からともなく「お疲れ様でした」とかいう声がかかって
全員が立ち上がって拍手で見送られる
忙しいんだろ?そんなヒマがあるなら仕事をしろよな
口ではそう言いながら
鳴り止まぬ拍手に、初めて胸の奥から込み上げてくるものを感じて
俺は振り返ることなく、ただそっと左手を上げて静かに部屋を出て行ったんだ
ありがとう、世話になったね、じゃあまた
誰の歌だったかな、さだまさしだったかな、なぜだか分かんないんだけどさ
部屋を出た後、頭の中をずいぶん昔に聞いた歌のフレーズが流れていたんだ
『私フェリーにしたの、だって飛行機も汽車も、涙乾かすには短か過ぎるでしょう~♪』
とかいうヤツ
それから俺はエレベーターを使わずにゆっくりと階段を降りていったんだ
まるで俺の10年間を確かめるかのように
ゆっくりと、1段、また1段と、階段を踏みしめながら
顔を伏せ、下の階から誰も上って来ないように祈りながら
出来るだけ時間をかけて
ゆっくりと、ゆっくりと、降りていったんだ
ん?
俺がエレベーターを使わずにワザワザ階段を使った理由?
今さら、そんな恥ずかしい事を聞くんじゃねえよ
ブログの流れから想像できるだろ?
でも、まあ、あえて書くなら、それはね
同じビルの3階から2階への転勤だったんだよ
省エネに決まっとるやろ!
Posted at 2013/05/12 22:22:16 | |
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