支那そば たかはし(閉店)

先日、一軒の人気老舗中華そば店が静かに暖簾を下ろしました。
そこは、徳島市郊外の山間の町入田町にある「支那そば たかはし」というお店で、私が中華そばをよく食べるきっかけになった思い出深いお店でもあります。
まず、場所がメイン通りから少々奥へ入った細い路地裏という秘境的な所にあってそれだけでも驚きますが、お店自体も非常に年季が入った建物で、一度中に入ると狭い店内に所狭しと並べられた机にイス、ガラス張りの四角い冷蔵庫などノスタルジーなテイスト満載のお店でした。そして、暖簾をくぐるとその中にはいつも笑顔の素敵な優しいおばちゃんの姿がありました。
そんなディープな店構えとは裏腹にラーメンの方は非常にしっかりとした作りで、開業以来火を殆ど絶やさずに弱火で丁寧に煮込まれ続けたスープは、一見濃厚そうですが見た目とは全く逆で、非常にあっさりしています。それにも関わらず、臭みのない豚骨の旨みがしっかりと出ており、醤油で味がキッチリ整えられていて、妙な甘みなどは一切なく大変個性的でクセになる味でした。こってり系のラーメンが少々苦手な私にとってはありがたく、全部飲み干せてしまうものでした。麺については市内の製麺所から仕入れていたようで比較的オーソドックスなタイプで柔らかめでしたが、このスープにはかなりマッチしていました。盛り付けのバラ肉は醤油と若干の味噌?のような隠し味の効いた少し辛目の味付けで食欲をそそりどんどん箸が進んだものでした。
一昨年辺りに訪れた時には、おばちゃんの達筆文字で「体調不良の為当分休みます」との貼り紙があって心配しましたが、しばらくして訪れると無事に復帰されていたのでホッとしたのを覚えています。しかし、復帰以降は以前よりだいぶ痩せられていたので「重病」であった事は容易に察しがつきましたが敢えて口にはしませんでした。
昨年の12月中旬に訪れた時、入り口に「そばで商売をされる方、作り方教えます。」の貼り紙を発見した時は、いよいよ引退かぁ…と寂しくなりましたが、この肉入り大の中華そばが、私にとって最後の一杯になるとはその時夢にも思っていませんでした。
先日、近くを通った際に寄って行こうと思い、果たして新しい弟子は来ているのか?などと呑気な気持ちで店へと続くいつもの路地へと入りましたが、ふっとある異変に気付きました。いつもそこに目印として立っていた看板がないのです。少し嫌な予感がしましたが、それでも気にする事なく車を進めて店の前へ出ました。
すると、営業日のはずなのに店に暖簾はかかっておらず、一枚の貼り紙が一昨年の時と同じように入り口の引き戸に貼ってありました。
そこには達筆の文字はなく、マジックで店主であるおばちゃんが亡くなった事、それに伴いお店が閉店した事が書かれてありました。
あまりに突然の事に私のショックは大きく、しばらくは呆然としてしまいました。
恐らくおばちゃんは後継者を募集していた時点で、残り少ない自らの余命を悟っていたのでしょう。それでもなお、亡くなる直前まで味を絶やさんとお店に立っていたおばちゃんの事を思うと、本当に悲しい気持ちになりました。
もう、二度と食べられないラーメンになってしまったのは残念ですが、あの味、やさしい雰囲気の店舗は私をはじめ、多くのファンの記憶に長く残る事は間違いありません。※ご冥福を心からお祈りします※
営業時間 11:00~19:00(閉店)
定休日 火曜日(閉店)
写真は肉入り大(650円)
個人的好み度
★★★★★
住所: 徳島県徳島市入田町笠木91-1
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