
20代初めの頃、猪苗代の雪道でスピンして事故を起こした。詳細はこうだ。通行止め寸前になるような大雪の中、高速道路上で路肩に刺さったクルマをよけるべく左車線から右車線に車線変更した。その刹那、クルマが制御を失い始めたのだ。ハンドルを急に戻しすぎたのである。左側に滑る車体を回復させるべく右にハンドルを切ったが、切り過ぎてしまい、クルマは完全なタコ踊り状態に。私は完全にパニックに陥り、ブレーキを踏んでしまった。フロントに荷重がかかって、そのままスピン…というのがその顛末だ。
交通量が非常に少なかったこともあり、周りに走るクルマを巻き込まずに済んだのは本当に幸いだった。その一方で、自分の未熟な運転技術には大変失望した。運転のうまい人なら、滑り始めのときにアクセルを少し踏んで挙動を立て直せただろう。しかし自分にそれはできなかった…。その時のどうしようもない悔しさが、ずっと心の中に澱のように残っていた。
それから数年後、そのトラウマを克服する機会を得た。ツインリンクもてぎでの安全運転講習を受けることになったのである。
そのプログラムのひとつに「スキッドリカバリー」というメニューがあった。ヘビーウェットの路面でクルマを滑らせ、スピンから立て直す危険回避の訓練である。
「今度こそスピンをコントロールしてやる!イメージトレーニングも完璧。さあ来い!」
と、意気込んだものの、結果は3戦全敗。1ミリたりとも成功の気配すらなかった。もちろん悔しいといった気持ちはあった。しかし、数年来の心の澱は、思いがけず別の形で吐き出されることとなった。ある言葉がフッ、と天啓のように降りてきたのである。
「滑らせなきゃいいじゃん」
そう、そもそも滑らせることが間違っていたのだ。このときまでは滑った状態からいかにリカバリーさせるか…ということに主眼を置いていたが、むしろ、滑らないような動きこそ徹底しなければならない。猪苗代での事故は、急なハンドル操作とスピードの出しすぎが原因だった。もっと言えば、高速道路が通行止めになるような大雪の中、出かけたのが大きな間違いだった。自分は運転の目的を完全にはき違えていたのである。
不慣れな大雪の日には無理して出かけない。急なハンドル操作やアクセル操作を避ける。こんな基本的なことさえ守っていれば、スピンのリスクはかなり下がる筈だ。こんな当たり前のことが何故わからなかったのか。我ながら愚かとしか言いようがない。
北海道をはじめとした雪国ドライバーの方々の運転は、実に見事である。クルマが滑っても挙動を乱すことなく立て直すあの技術は、とても真似できるものではない。降雪地域に住まない限り、そういった高度な技術を身に着けるのは極めて難しいと痛感する。
一方で「謙虚に安全運転をする」という基本的なことに立ち返ることが出来た、あの経験は、派手なリカバリー技術よりも大切な、それだけでも私にとって非常に貴重なものだった。
今の心境としては、免許を返納するその日まで「無事是名馬」であり続けることが何よりも大切だと感じている。
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2025/05/09 00:12:58