「遠き落日」～猪苗代の生んだ英雄・野口英世の光と影～

猪苗代と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは千円札の肖像にもなった偉人・野口英世であろう。子供向けの伝記では、貧しい家庭に生まれ育ち、左手に障害をかかえながら努力して大学に進学。アメリカに渡って黄熱病研究の権威にまで上り詰めるという立志伝中の人物として描かれている。

とくに、左手にハンディを負った英世が、数々の困難を乗り越えて、血のにじむような努力を積み重ねて医者になるさまは、読者を感動させる一つの物語のハイライトといえよう。

一方で、本当の英世の姿を知ると、小学生向けの伝記で描かれた単純な偉人像は跡形もないほどに崩壊する。とにかく、いい意味でも悪い意味でも針が振り切れているのだ。具体的な内容は、渡辺淳一の書いた小説「遠き落日」に詳しいが、偉業を成し遂げる裏側であまりにも人間臭く、破綻した一面をもこれでもか！というくらいにみせつけてくれる。まさに天才と狂人は紙一重。その極端なまでに破天荒な生き様には、言葉を失うほどである。

もし、興味があるならば、あなたも「遠き落日」を手に取ってみて欲しい。英世の密度の濃い、エネルギッシュな人生に圧倒されること請け合いである。