
北海道の秋の絶景といえば紅葉ですが、オホーツク海沿岸には、木々とは一味違う、深紅の絨毯が広がる奇跡の景色があります。
それが、網走市・能取湖(のとろこ)の畔に広がるサンゴ草(正式名称:アッケシソウ)の群生地です!
今回は、日本最大級の規模を誇る網走・卯原内(うばらない)地区のサンゴ草群落地を訪れました。この感動的な赤い絶景の魅力と、サンゴ草にまつわる知られざるストーリーを、mofp TVの映像とともにお届けします。
1. 網走・能取湖のサンゴ草が「日本一の絶景」と言われる理由
能取湖のサンゴ草群生地が、数ある自生地の中でも別格とされるのは、その壮大な規模と色彩のコントラストにあります。
広大な「真っ赤な絨毯」
卯原内地区には、約4ヘクタールにも及ぶサンゴ草の群落が広がっています。一面が深紅に染まる最盛期の光景は、まさに圧巻。湖畔の塩湿地を埋め尽くす赤い絨毯は、一見の価値があります。
青い湖水とのコントラスト
サンゴ草の深紅の色と、能取湖の澄んだ青い水面、そして秋の高い青空が織りなす色彩のコントラストは、感動的な美しさです。写真や映像に収めるスポットとしても、これ以上ない絶好のロケーションです。
木道で間近に楽しめる
群生地には、サンゴ草を傷つけずに歩けるよう、整備された木製遊歩道(木道)が設置されています。遊歩道を進むにつれて、群落に囲まれるような臨場感を味わうことができ、様々なアングルから撮影が楽しめます。
2. なぜ「サンゴ草」なのに「アッケシソウ」?(知っておきたい豆知識)
美しい「サンゴ草」には、「アッケシソウ」という正式名称があります。そして、その名前の由来には、今回訪れた網走から遠く離れた厚岸町が関係しています。
アッケシソウの命名と厚岸の関係
発見の地が厚岸 アッケシソウは、明治24年(1891年)に、北海道厚岸町の厚岸湖(あっけしこ)にある牡蠣島(かきじま)で日本で初めて発見・採取されました。
地名にちなんで命名 この植物を発見し、学術的に分類した札幌農学校(現北海道大学)の宮部金吾博士が、その採取地にちなんで「厚岸草(アッケシソウ)」と命名しました。
つまり、厚岸町こそが、この美しい塩生植物の正式な和名のルーツとなった「発見の地」なのです。
その後、秋に茎全体が赤く染まる様子がサンゴに似ていることから、「サンゴ草」という別名が一般に広く知られるようになりました。
発見の地である厚岸では現在群落が衰退し、絶滅危惧種として手厚く保護されています。
1. 厚岸のサンゴ草の現状
サンゴ草は、その和名が厚岸に由来するにもかかわらず、現在、厚岸町の厚岸湖畔ではほとんど見ることができなくなってしまいました。
環境の変化: サンゴ草は、海水と淡水が混ざり合う汽水域の、潮の干満によって定期的に冠水する塩湿地という、特殊な環境でしか育ちません。
衰退の要因: かつては厚岸でも多くの群落が見られましたが、海岸開発や河川からの淡水の流入量の変化、水質の変化など、様々な環境要因によって群落が衰退し、大規模な群生地は失われてしまったと考えられています。
厚岸町のアッケシソウは、現在、国の天然記念物として保護されていますが、その生息数は限定的です。
2. 卯原内(能取湖)に大規模群生する理由
卯原内地区の能取湖は、サンゴ草が生息するための理想的な環境が現在まで保たれているため、日本最大級の規模を誇る群生地となりました。
理想的な立地(汽水湖): 能取湖はオホーツク海とつながった汽水湖であり、湖畔には塩分を含んだ広大な湿地帯(塩湿地)が広がっています。この条件がサンゴ草の生育に最適なのです。
サンゴ草が生育する塩湿地の仕組み
サンゴ草が大規模群生する能取湖の卯原内地区のような場所は、海や湖とつながった汽水域(塩分を含む水域)の岸辺の「湿地」です。
1. 通常の潮の動きと冠水
サンゴ草の生育環境の基本的な流れは以下の通りです。
満潮時(潮が満ちる時): 湖や海の水位が上がり、水が陸側の低い湿地(サンゴ草の群生地)に流れ込み、冠水します。これにより、サンゴ草が生存に必須な塩分が供給されます。
干潮時(潮が引く時): 湖や海の水位が下がり、湿地に流れ込んでいた水が引き、地面が露出します。これにより、サンゴ草は日光と空気を取り込むことができます。
この「冠水と乾燥」が定期的に繰り返されることが、サンゴ草の生育に不可欠な条件となります。
大規模な湿地: 卯原内地区には、サンゴ草が大規模な絨毯のように広がるための、広大な平坦な湿地が残されました。その規模は約3.8ヘクタールにも及びます。
熱心な保護活動: 卯原内の群生地も一時は衰退の危機に瀕しましたが、地元観光協会や住民による長年の保護・育成活動(種子採取や湖水の入排水改善など)が功を奏し、群落の規模を維持・復活させることができました。
その結果、「発見の地」である厚岸よりも、「生育環境が整い、群落が大規模に現存する」網走の卯原内が、「日本一のサンゴ草群生地」として有名になったのです。
現在、厚岸の群落は減少してしまいましたが、卯原内地区の人々が長年の保護活動により、この奇跡の絶景を守り続けています。
その自然保護の歴史を知ると、一層感動が深まります。
日本以外での分布
サンゴ草(アッケシソウ)は、実は日本固有の植物ではなく、世界に広く分布しています。
正式名称のアッケシソウ(学名:Salicornia europaea)は、特定の生育条件が整った北半球の広い範囲で生息が確認されています。
1. 世界的な生息地域
アッケシソウは、主に以下の地域にある塩性湿地や汽水域の干潟といった、塩分を含む特殊な環境で生育しています。
ヨーロッパ: 北欧や西ヨーロッパの沿岸地域など。
アジア: 日本、韓国など。
北アメリカ: 寒帯から温帯にかけて。
このように、ヨーロッパ、アジア、北アメリカの寒帯・温帯地域に広範囲に分布している植物です。
サンゴ草(アッケシソウ)の海外での呼び名と利用
主な英名(一例):
Glasswort(グラスワート)、Sea Pickle(シーピクル)などと呼ばれています。
食用としての利用(シーアスパラガス):
アッケシソウは、フランス料理などで「シーアスパラガス」や「海の野菜」として食用にされることがあります。
シャキシャキとした食感と程よい塩気があり、ピクルスやサラダなどに利用されます。
グラスワート(Glasswort)の由来:
この英名は、昔、アッケシソウを焼いた灰がアルカリ性で、ガラス製造に用いられた歴史があることに由来しているとされています。(Glasswortは「ガラス草」を意味します。)
アクセス
場所: 北海道網走市 卯原内(うばらない)、能取湖畔に位置します。
見頃の時期: 例年9月中旬〜10月上旬にかけて色づき、9月中旬が最も見頃となることが多いです。
アクセス: JR網走駅から車で約20分です。公共交通機関をご利用の場合は、路線バスで「サンゴ草入口」下車となります。
駐車場: 無料の駐車場が利用可能です。
トイレ: あり。
備考: 入場は無料です。サンゴ草はデリケートな植物ですので、遠くから見守りましょう。