
A Long Vacation / 大瀧詠一 (1981)
ボクは墓穴を掘ったことがあります。
幼馴染のトエは大厄の年、息子二人とキャッチボールをしている最中に倒れ、そのまま逝ってしまいました。心室細動でした。
トエとの思い出は沢山あります。上尾に吉野家ができたというビッグニュースに接したボクたちは、噂に聞く牛丼なるものを食べてみようと、深夜、17号を走りました。
あとで知ったのですが、初牛丼を食べながらトエが何の気なしに「こんなマズいもん、よく食えるよな」とかなんとか言ったらしいのです。その時、たまたまカウンターの隣にいた一団が、その言葉が自分たちに向けられたと勘違いしたらしく、店を出たあと駐車場での乱闘が勃発します。
トエはボコボコにされますが、後日、百万円単位の慰謝料をせしめます。この一件に味をしめたトエは、しばしばボクを深夜のアルバイトに連れ出しましたが、そんなシチュエーションがちょいちょい起こるはずもなく、ことごとく空振りに終わりました。
そんな破天荒なトエが死にました。
奥さんから知らせを受けまして、あれやこれやと相談しながら、なんとか葬式を終え、納骨の段となりました。菩提寺の成就院に行くと、墓石の立っていない正方形の区画がありました。
「ここに埋めなくちゃならないんだけど」
奥さんが言います。
「でも、この辺にはお義父さんがいるから気をつけてね」
えっ、どういうこと?
ボクは困惑しました。奥さんはボクに、夫の埋葬をさせるつもりのようです。
埋葬許可証はあったって、そんなの違法なんじゃないかと考えながら、まさか骨壷をじかに埋めるわけにもいかないので、適当な大きさのポリバケツを買ってきて、厚手のビニール袋で幾重にか包んだ骨壷をその中に入れました。
お義父さんを壊さないように要心しながら、ボクは穴を掘りました。納骨は無事におわりました。作り話に聞こえるかも知れませんが、これ、100%実話です。
こんなこともありました。
トエが下宿していた八王子にでも行く途中だったのでしょうか、「ちゃぐ、ここ、タムだってよ。変な名前だな?」、「ばーか、タムじゃねえよ、タナシだよ」などと話しながら、東京を走っていました。
すると、まもなく、街の様子が一変しました。通りの看板はアルファベットに占領され、道路の左側には、どこまでも高いフェンスがつづいています。「ここ、どこだ?」って感じでキョロキョロしていた時、いきなり、聞いたこともない爆音が響きました。
そこは福生、フェンスの中は横田基地で、爆音の主は、エンジンの点検でもしていたのでしょうか、滑走路に停まっていた輸送機でした。
「ロンバケ」の大瀧詠一が福生を本拠に音楽活動をしていたことを、ボクたちは知りませんでしたが、このアルバムを聴くたびに、なぜかボクは、トエのことを思い出してしまいます。
二年ほど前、トエのお墓に寄ったことがありました。あの日と同じ状態でした。小さなこどもを二人もかかえて、奥さんは大変だったでしょう。もしかしたら、新しい家族と新しい生活をしているのかも知れませんね。
Posted at 2026/06/26 07:27:18 | |
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