
時々、E60 M5ツーリングという表記を見ることがありますが、正しくは、セダンがE60 M5で、M5ツーリングはE61 M5となります。
この世代のBMWから、同じシリーズであってもボディー形状によって開発コードが分けられるようになっています。
前世代のE39の場合は、セダンもツーリングも同じE39ということになります。
BMWの場合、セダンとツーリングは単にハッチバックか通常のトランクかという、乗っかるボディー形状の違いのみと考えられがちですが、この世代のM5の場合、実は他にもいくつか違いがあります。
何が違うかというと、E61 M5ツーリングではリアのサスペンションがエアサス仕様(セルフレベライザー付き)になっています。
なぜエアサスかというと、通常モデルのE615シリーズツーリングがエアサス仕様だからです。
そして、E61M5の場合、付いているのはM5専用のエアサス!となっており、X5などのSUV系Mモデル以外でエアサスを使用するのはこのM5ツーリングだけです。
そのため、M5ツーリングの場合、M5セダンよりも色々と手間がかかります。
これ以外にも、この2台は同じように見えて実は異なっている部分がいくつかあります。
M5ツーリングをネットで写真などをご覧になったことがあると思いますが、ツーリングの純正ホイールは、M5セダンと同じように、いわゆるM5ホイール(Style166)と、いわゆるM6ホイール(Style167)の2種類を履いている写真があって、E60 m5セダンと全く同じものを履いているように見えると思いますが、実はこの2種類のホイールも、ツーリング用の場合、それぞれリア側のリム幅が0.5インチ小さいツーリング専用品番のホイールが設定されています。
また、マフラーも形状は全く同じですが、リアの太鼓につながる途中のパイプの曲がりが微妙に違っていて、これもツーリング用に専用設定されたパイプを用いるため、異なる品番が設定されています。
おそらく、この辺の違いは、ツーリングの場合、リアのエアサス周りにエア用ポンプが設置されたり、余分な機器が配置されてスペースが足りないため、パーツを共通化できなかったものと考えられます。
ちなみに、製造台数についてですが、セダンのM5が19,500台と約2万台近く製造されたのに対し、ツーリングは世界中(EUのみ)で1,025台、そのうち右ハンドル車は222台しか製造されていないそうです。
現在、イギリスのAutotraderにエンジンを載せ替えたばかりのシルバーのE61M5が37,500ポンド(約795万円)で販売中でした。
おそらくこの値段をベースに考えるとトータルで1,000万円を超えてしまいます(輸入時に車両代を含めたトータル金額に対して10%の消費税もかかります)。
こちらの車両を、海外から並行輸入で国内登録した場合、その車両が中古車であっても国内登録時には新車の扱いとなるため、初回3年車検で自動車税の割り増しは11年後となりますのでご参考としてください。
話がそれましたが、M5ツーリングの場合、トラブルが出る箇所は基本的にM5セダンと全く一緒ですが、これに加えてツーリング特有のトラブル個所としてリアハッチ周りの配線の断線があります。
これは、リアハッチの開け閉めに伴い、リアハッチ側とボディー側にまたがる配線が引っ張られ、長年の配線の劣化・硬化により徐々に断線してしてくるという非常に厄介なトラブルです。
なぜ厄介かというと、一気に断線するのではなく、配線がじょじょに切れていくものの、ハッチの開け閉めに伴って配線の接触が繋がったり切れたりを繰り返し、配線経路上にある各種モジュールも作動と不作動を繰り返すため、故障部位の特定が非常に困難だからです。
ただし、実をいうと、これはM5(ツーリング)固有の問題というよりは、5シリーズツーリング自体の設計の問題ということになるので、M5に罪はないということになります。
他にも、M5ツーリングにあってM5セダンにないものとして、ルーフ上の巨大なパノラマサンルーフが挙げられます。
これもまた、セダン用の昔ながらの1枚モノでシンプルなサンルーフと違って、モノ自体が巨大な上に、サイズの異なるガラスパネル2枚がそれぞれ複雑に動いて上がったり下がったりルーフの中にスライドしていったりするため、壊れた時のダメージが非常に大きいという問題があります。
あまりに重くて一人では取り外せず、二人がかりで降ろし、降ろしてからも車1台分ほどのスペースを占有するため、現在、当社の狭いガレージのほとんどをツーリングが占有して、他の作業が進まない状況となります。
このツーリングの場合、イギリスからの並行輸入車になりますが、面白いのは、おそらく人間と一緒で、日本に来た時にはイギリスできちんと動いていたとおりにちゃんと走れていたのが、気候や環境の変化からか、輸入後に徐々に体調不良が出始め、日本の猛暑の時期を経験するころには何かしら大きなトラブルに見舞われるということで、この個体もアイドルコントロールバルブにエラーが出たり、バッテリー放電が異様に早くなったり、DSC警告が出現しっ放しになったり、とどめはパノラマサンルーフが閉まらなくなったりと日常使用ができなくなったため現在入院中となります。
ツーリングに比べれば、M5セダンの方は、明らかにリアセクションの構造が大幅にシンプルかつ軽量なので、MT化された当社のM5セダンの場合は特に、トラブルの対処はフロント・エンジンセクションのみに絞ることができるということになります。
とはいえ、繰り返しになりますが、M5ツーリング固有のトラブルは、ほぼ、ノーマル5シリーズツーリングの問題と一緒ということになり、M5セダンのメカ的トラブル プラス ノーマルツーリングの構造的トラブルに対処できれば、あとはどこまでメンテしてやるかという問題になりますし、ツーリングにはツーリングの長所が色々あります。(エアサスは非常に丈夫ですし、M5ツーリング専用部品もまだまだ手に入ることを確認済みです)
最後に、E6X5シリーズのデザインの話を。
この世代のBMWは総じてクリス・バングルデザインと呼ばれ、特にE60 5シリーズのデザインは新生BMWのデザイン革命的に言われて、その前世代までの金太郎あめ的デザインと一線を画す破壊力があり、当時、賛否両論を激しく引き起こしたため、このモデルもクリス・バングルがデザインした車両と思われていますが、クリス・バングルは当時のBMWデザインの総責任者であって、この車両自体のデザインを担当したのは、イタリア人デザイナーのダビデ・アルカンジェリ氏なんだそうです。(昔の「BMWER」で、福野礼一郎さんの記事を読んで知りました。とはいえ、総責任者たるクリス・バングルの影響もまた大きかったと思いますが)
この方は、他にもプジョー406クーペやフェラーリ360のデザインも担当された方だそうですが、残念なことに、白血病のため、自身がデザインしたE60 5シリーズがこの世に出るのを見ず、30歳で早逝されたそうです。
おそらく20代ですでに406や360、そしてこのE60のデザインを担当して、その3台ともが自動車デザイン史の中で大きな足跡を残しているというのはすごいことですね。
私は、個人的には、ノイエクラッセからの正統進化を遂げて伝統と近代性を高度に両立させたE39世代のBMWデザインが頂点だったと思っているので、当時、E60やE65 7シリーズのデザインを見た時には激しい反発を感じましたが、20年たって改めて見ると、このデザインもまたBMWの未来を切り開いた一つのアイコンだったんだと感じます。
特に、E61とE60 M5のリアビューは最高ですね。
もしこの方がその後もご活躍をされていたら、F10やF80のデザインはがらっと変わっていたかもしれませんね。
