
調子にのってパルサーネタをまた書いてしまいます。
今度はパルサーの最期を小説風に。(笑
あれは可憐で小さな桜の花が、競い合うように咲き始めた時期だった。
私は東北の地、エビスサーキットに居た。
ここは標高が高く下界の暖かさとは無縁で、未だ冬の気配が漂っていた。
折角のサーキット走行だというのに、天候は小雨。しかも時折みぞれが混じるような状況だった。
この日は初めての西コースということで、期待と不安が交錯する独特な高揚感に支配されていた。
ドライバーズミーティングを終え、自分の走行時間までは少し余裕があった。
何度も目を通してはいたが、再度コース図を確認する。
自分の頭のなかでイメージを膨らませつつ、はやる気持ちを何とか落ち着かせようとしていた。
ようやく自分の走行時間が来た。
一つ大きく息を吐いてヘルメットを被る。
4点式シートベルトを締め、ハンドルとの距離を確認する。
いつも通り
そう自分に言い聞かせ、冷静であろうと努力する。
さあコースへの侵入が始まった。
折からの雨でコースは濡れている。ただレコードラインは乾いているので、かえってライン取りは分かりやすい。
それでもラインから外れると、路面温度の低さも手伝って、あっという間に足元をすくわれそうになる。
ハンドルと腰から伝わる車の挙動に気を配りながら、周回を重ねていく。
何周か走っているとコースにも慣れてきた、そうなるとこの天気が恨めしく思う欲深い自分が現れてきた。
午後になっても天候は回復せず、雨の中で周回を重ねていった。
コースにもようやく慣れた、何本目かの走行だった。
雨に翻弄されつつも自分なりにはアクセルを踏んでいかれるようになっていた。
タイムも雨の中ではあったが、徐々に短縮して達成感を幾ばくか感じていた。
それにより私の中にはある種の慢心が生まれると共に、操作がラフになっていたのかもしれない。
裏ストレートを駆け抜け、ヘアピンにめがけてフルブレーキングで車速を落としていく。同時にヒール&トウで3速、2速とギヤを落としていく。
徐々にハンドルを切り込むと共に、クリッピングに近づくにつれブレーキ踏力を弱めていく。
濡れた路面でのアンダーに気を使いつつ、アクセルを踏み込みながら、ハンドルを戻していく。
ホームストレート手前のシケインへと続く短いストレートでアクセルを全開にする。
3速に入れて、程なくシケインへのブレーキングへと移って行く。
ここでは多少車速をおとすだけで、3速のままクリアしていく。
雨に濡れた路面と、ホームストレートのピットウォールに多少の恐怖を感じつつも、アクセルを全開にした。
ガラガラガラッ!
突如起きた耳慣れない音が車内に響く。
音と共に加速が途切れた。
なのにタコメーターはあっという間に吹け上がる。あまりのふけ上がりの早さに反射的に右足を戻す。
「クラッチが滑った?」
耳慣れない音を無意識的に無視して、都合のいい方へと考えを進めていく。
再度アクセルを踏み込むと、再びタコメーターは振り切らん勢いで吹け上がる。
他のギヤに入れてみようと試みる。
4速、5速はOKだ
2速、3速に入れようとするとガリガリと異音を発するだけで、全く入る気配が無い。
「ミッションが逝ったか・・・」
最初から薄々気づいていた結論に至る。
異音からここまで5秒と経っていなかっただろう。
まずは安全に止まらなければならない。
後続車が次々と追い抜いていく。
ハザードを出しコースの左側を走りながら、停止場所を探す。
ストレートエンドのグラベルが良いだろう。
徐々にブレーキでスピードを落としつつ、グラベルへと突っ込んで行った。
停車させた後、先ほどの事は夢ではないかと、虚しい期待を抱きつつギヤを3速へと入れてみる。
やはり異音を発するだけで、入る気配は無い。やはりミッションが逝ってしまった。
その事実に再度打ちひしがれる。
走行距離も15万kmを越え、エンジンかミッションが逝ったら潮時だな。などと考え始めていた時期だった。
この車と共に過ごした、色々な事が思い出され胸が締め付けられる。
ただただ悲しかった。
まるで自分の一部を失ってしまったような、そんな虚脱感にも似た感覚だった。
車内にいつまでも残っていては危険だ。
雨のストレートエンドに居るのだった。
キーに手を伸ばし、エンジンを切ろうとした。
再び元気に一緒に走りまわることは無い、そんな事実が手を止めさせた。
オドメーターは154000kmを越えていた。
もう十分じゃないか。
そう自分に言い聞かせ、未練を振り払いつつキーを捻った。
エンジンの止まった車内は恐ろしく静かだった・・・
車体を打つ雨の音だけがに響いていた。
外の景色が滲んで見えたのは、フロントガラスに打ち付ける雨の所為だけではなかっただろう。
って、クサすぎ!(笑