
センチュリーGRMNから移動してルマン優勝車両TS050のスタッフに話しかけた。この方、エンジニアとしてWECマシンの開発をしていたという凄い経歴の方。この方から色々貴重な話をお伺いした。
展示車両は2018ルマン走行の実車。24時間走行の証として汚れているが、記念なのでこの汚れの上からコーティングして汚れが落ちないようにしている。
TS050のルマン仕様は高速優先のロードラッグ仕様。他のサーキットの仕様と違いがある。フロントブレーキは過冷却にならないようにカバーがしてあるし、ヘッドライトが直立している。これはWECのレギュレーションで定められているカウル上部のフロントタイヤハウスの開口部の対策の為。
タイヤハウスに入った空気は上の開口部からも排出されるが、これによってドラッグ(抵抗)が発生する。その代りダウンフォースは増加する。ルマンは直線が肝なので最高速を上げたい。その為タイヤ開口部から排出される乱れた空気とフロントからの走行風をできるだけ合流させない方が良い。ヘッドライトを直立させれば走行風は左右に流れやすくなり、結果ドラッグは低下する。この上部開口部は1999年のベンツCLRが走行中に空中に舞い上がり、回転落下するという衝撃的な事故の後、対策の為レギュレーション改正で開口することになったもの。(補足。このベンツの空中舞い上がりは過激な設計が災いし、フロントのダウンフォースが安定せず、姿勢に乱れが出た時に浮き上がりやすくなっていた。そして最高速が出る直線区間走行中に一気にダウンフォースが低下。そのまま空中に舞い上がったもの)空力は非常に難しく、開発も大変。トヨタのWRCやルマンカー、そしてかつてのトヨタF1の開発の拠点、ドイツのTMGの風洞は世界最高レベル。F1の他メーカーも利用する程で、TMGの稼ぎ頭とのこと。空力で言えばドライバーはかなり後ろに寝そべるような姿勢で座るが、あれは空力に有利なだけでなく減速G対策としても有効らしい。何でも減速時は足で踏ん張るように耐えるので普通の着座姿勢では上半身が厳しいらしいとのこと。
2016のルマンもエンジニアとして現地におられたとのこと。その時の担当はブレーキ関係。24時間間際にドライバーの中嶋一貴よりパワーが出ないとの連絡。テレメトリーでも異常な数値。パワーは出ないまでも200㎞位は出ていたが、原因がわからない。制御系、ハイブリッドユニット、エンジン等々特定できない。ドライバーには車体のモードスイッチの切り替え等を指示したが一向に解決せず、原因も不明。結果、一旦完全停止の指示。このあたりはハングアップしたPCを強制リセットさせるような感じとのこと。しかし完全停止後再始動に時間がかかり、優勝を逃した。たらればの話になるが、もしリセット停止させず走り切れば優勝していたのではないか、とのこと。停車後もスタッフは最後まであきらめていなかったとのこと。このトラブルの原因は吸気側のパイプ抜け(破損)。V型ツインターボの為左右二系統あり、片側のパイプ抜けにより空気の流入量が左右で違う状態に。しかしCPUの燃調制御は左右の空気圧の平均値で計算し、燃料を出していた。その為、抜けた方と問題ない方の両方で燃調が狂い、更にパワーが出なくなったらしい。この後、左右バンクで独立制御にしたとのこと。
今年のルマンは2018年より更にレギュレーションが厳しくなり、ライバルのレべリオンとの差はかなり縮まった。レギュレーションは参加チームへのヒアリングを参考にするので交渉が非常に大事。
FIAはフランスが本部。ここでのトヨタ側の交渉代表はテクニカルディレクターのパスカル・バセロン氏。氏はフランス人でルノーF1・ミシュランでの在籍経験を持つ生粋のフランス人技術者。氏の交渉が極めて重要であるとのこと。この実質トヨタのみに課せられるハンデは20㎏以上のウェイトを載せたり、燃料交換のポンプ出力の差(ハイブリッド車は燃料消費が3割位は少く、給油量が少ないため給油速度が速い。それではまずいので同じような給油時間になるようポンプの出力を落としている)をつけたりと多岐にわたるらしい。レースは走る前から始まっている。
2020年からは大きくレギュレーションが変わり、所謂ハイパーカーが参戦する。まだ規格は確定していない。トヨタは参戦予定。BMWは規格策定に参加していたが、結局ハイパーカーでは参戦しないことになり、その影響が出るかもしれないとのこと。
後、展示しているルマンの優勝カップは本年のルマン開始前に返還しないといけない。高校野球の優勝旗みたいな制度。3回優勝すれば同じ形のものが貰えるとのこと。カップに記載されるメーカー名はフランス語。
後、TS050をモデルにしたGRスポーツコンセプトは現在鋭意開発中。内容はもちろん秘密とのこと。
そんな話を終了後、2017年のオートメッセで2016のTS050の運転席に座った時の余りの狭さに驚いた事を思い出した。座るとほぼ身動きできない。恐らく背丈にもよるがヘルメットを被ると頭が横に傾けないと座れない。前方は兎も角側方、後方はかなり視界が悪い。あれで300Km出して夜間走行だの追い抜きだのするプロドライバーは本当に凄い。
大阪モーターショーに行くモータースポーツ好きの方は、トヨタブースでスタッフの方に話しかけると非常に貴重な話が聞けるでしょう。WEC、F1、WRCと世界で戦ってきたスタッフがいるのですから。私は正直迷惑をかけるほど話してしまったかなと反省しているのですが…。いい話すぎて止められなかった。すいませんでした。
Posted at 2019/02/10 14:53:19 | |
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大阪オートメッセ | 日記