Field of Dreams.

バッターボックスに立っているA。
息子の幼なじみである。

5回、ツーアウト、二塁。

地区大会・決勝戦。
この大会に勝てば、全道大会に出場できる。

スタンドには傘の花が咲いている。
彼の足下にも、投手の足下にも大きな水溜まりが見える。
グランドに立っている戦士達のユニフォームは、
斑に黒く、何倍も重そうに彼らにまとわりついている。


背番号2番を背負うAは、この試合をリードしてきた。
不本意な理由で、制球が定まらないエースの気持ちを、痛いほどかみしめながら…


球速140kmを超える豪腕投手！！
下馬評では、誰もエースの球に触れないはずだった…

その彼のコントロールが乱れた。

なぜ…



エースは眼鏡をかけていたのである。
この大雨の中に…



Aを心のそこから応援した。
少しでも役に立ちたいと、
ありったけのエネルギーをバッターボックスに送った。

かくしてAは打った！！
強めのショートゴロ…
万事休す！！

Aの気持ちの強さは、野球の神に伝わったようだ。

ぬかるんだ土壌はバウンドを変え、
グラブで弾かれた打球はセンターへ転がる。

「ヤッタァァァァァッァァァァァァァ！！」

二塁ランナーは三塁を回って本塁へ！！
本塁へ！ほんるいぇぇえええええええ？？？？
なんで三塁で止まっているの？？

チャンスはそれまでだった。
二者残塁。

０の行進である。
相手投手の好投に1点も取ることができない。

エースの心は折れてしまった。
7回コールド

Aが想いを吐き出せる場は、二度と回ってこなかった。



相手高校が高らかに校歌を斉唱するマウンド。
顔を上げ、じっと見据えるAの顔に流れるのは、
雨なのか、汗なのか、涙なのか…

「Teamで甲子園に行きたい！」
小学生のAが語っていた夢。
チャンスはあと一回。

来春、親父はふたたび、Aに感動させてもらいに来ることにしよう。
彼の夢を一緒に見続けるために…