僕がオープンカーを初めて体験したのは、学生時代にマイアミを訪れたときのこと。
もう20年以上前の話になる。
当時はオープンカーに関する知識なんて皆無に等しく、マイアミからキーウェスト(アメリカ最南端の小島)までドライブしたらキモチイイだろうな…なんて安易に考えて、レンタカーを予約したわけ。
マイアミの空港に着いて、予約しておいたHertzだかAVISのカウンターに行ったら、そこでまず一悶着あった。
予約はだいぶ前に済ませておいて、前々日くらいにリコンファームまでしてあったのに「そんな予約は受けていない」って言うのである、受付のピラニアみたいな顔したオバチャンが。
そんなはずはない!と食い下がると、オフィスにいるボスと話してくれと電話の受話器を渡された。
面くらいつつも、意を決してピラニアのボスと交渉開始。
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ボ:どうしました?
伯:僕は日本から来ました。
今日コンバーティブルを予約していたのだが、そんな予約はないと言われた。
何とかしてもらえませんか?
ボ:は~、何か手違いがあったみたいですね。他のクルマを用意させますよ。
セダンでいいですか?
伯:い~や!コンバーティブルを用意してください。
僕はマイアミでコンバーティブルに乗るために、何千マイルも離れた場所から来たんですよ。
ボ:ガチャン!ツーツーツー…(電話を切られた)
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ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!と頭に血が昇ったが、ここでキレては日本人のイメージが悪くなると思い、ピラニアに食い下がる。
予約の件はともかく、空いているコンバーティブルはないのかを確認したら、パソコンで調べて「ある」と言うではないか…
ただし、たった今返却されたばかりだから、引き渡せるまでちょっと時間がかかると言われた。
まあ、洗車とか車内清掃とかあるだろうし、仕方ないな…と思って待つことに。
その間、運転免許証を見せろと言われたので、僕は国際免許を提出したのだが…
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ピ:これは許可証(Permit)であって、免許証(License)ではない。
伯:え゛!?これぢゃダメなの???
ピ:本国の免許証を提示しない限り、クルマは貸せません。
伯:何てこったい!!!
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しかし、同行していた我が弟が日本の運転免許証を持っていたため、事なきを得た。
は~、そうなんだ…色々と勉強になるなぁ。
クルマを受け取るまで、小一時間も待っただろうか。
用意ができたと言うので、レンタカー会社のヴァンに乗って車両保管場所まで行き、ご対面となったのがこのクルマ。
クライスラー・ル・バロン。
「男爵」という名のサブコンパクトカーである。
2.5Lの直4エンジンと3ATの組み合わせだったが、とにかくトロかった…
高速道路での合流など、床までアクセルを踏み続けていないと合流もままならないほど。
それに、待たされた割りにはボディーも内装もあまり綺麗ではなく、手抜きが見え見え。
グローブボックスの中には、先客の忘れ物と思しきミュージックテープが何本か入っていたが、「今どき誰がこんな音楽聴くんだ?」と思うようなものばかり(確か、カントリー&ウェスタンのジョニー・キャッシュとかのテープだったと思う)。
性能およびレンタカーの状態で期待を裏切られつつも、その日は時間も遅かったのでホテルへ直行。
次の日は朝早く出発する予定だったので、早々に寝た。
翌日。
朝食を済ませ、ホテルをチェックアウト。
早速ル・バロンをフルオープンにし、弟をナビゲーターに一路キーウェストを目指す。
マイアミからキーウェストまでは300km足らずの距離を南下するだけだが、その間に30以上の島(フロリダ・キーズと呼ばれる)と40以上の橋を通過するという、なかなか面白そうなルートである(少なくとも出発前はそう思っていた)。
途中、慣れないナビのせいで道に迷ってしまい、マイアミ市内のどう考えても治安の悪そうなエリアに進入した挙句、ヒスパニック系のジャンキーに絡まれる(明らかに「話せばわかる」相手ではない)…という人生最大の危機もあったが、それを除けば快適なクルージングだった(最初のうちは)。
爽やかな朝の空気は段々と熱気を帯びて、昼近くにもなると南国の日差しが容赦なく降り注ぐ。
そこで思ったこと。
「全然気持ち良くないじゃん!」
てっきり僕は、オープンドライブとは爽やかな風が頬を撫でていくものだと思っていたのだが、ここフロリダ州の南端は熱帯なのだ。
湿気は半端なくあるし、不快指数は日本の夏と大差ないくらい。
当時は「熱中症」なんて言葉は知らなかったが、「日射病」になりそうだったので、途中で幌を上げてエアコンをONに。
そっちのほうが断然快適なんだなぁ…
嗚呼、あんなに苦労して借りたコンバーティブルなのに…
道中、やたらと「ワニに注意」の看板があるので、どういうことだよと思って小川にかかる橋の上から下を覗いたら…
本当にいやがった。
こんなのに襲われたらひとたまりもないので、この写真を撮った後は二度と湿地帯には近付かなかった。
キーウェストには1泊して、翌日マイアミまで同じルートを戻ったのだが、ほとんどオープンにしなかった。
前述のとおり、行程の大半が島づたいに海の上を走ることになるので、潮風のべたつきが我慢ならなかったのである。
こうして、僕のオープン嫌いは決定的になった。
オープンカーと言われると連想するもの…
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・レンタカー屋のピラニアババアの憎たらしい顔
・絡んできたジャンキーが叫んでいた英語とスペイン語がチャンポンになった意味不明な言葉
・サラサラヘアーがベットベトになったこと
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こんなのばかりだから、僕がオープンカーに乗るなんてあり得なかったのである。
S2000を買ってからも、最初の5年近くはハードトップを被せたままだったからなぁ…
それが今では、オープンじゃなきゃ買わないよ…なんてことを平気でホザいているのだから、人間変わるものだ。