2009年08月15日
C5 ハイドラクティブⅢプラス その1
シトロエンならハイドロニューマティック、とはよく言われたことです。
走る絨毯は言い過ぎにしても、ふわっとした独特の滑らかな乗り心地が特徴で有ると共に、オイルを使用するがためにオイル漏れによるトラブルとは無縁ではない、よってマニアの乗り物とされてきました。
最新のハイドラクティブⅢプラスを搭載するC5では、油と可動部をシールする機構が日本製になっているらしく、メーカー保証も10万キロまで延び、実際ディーラーさんの話ではオイル漏れに関する不具合はかなり減ってきているようなのです。
しかしながら、機構的に複雑で、一般的なメカ式(ダンパー+コイル式)に較べればリスクもコストもやや高くなるサスペンションを敢えて採用するメリットは有るでしょうか。
「サスペンションが壊れるなんて論外、普通のサスペンションだって上手く造れば上品で良い乗り心地のものがあるよねぇ」と云われればごもっとも。
そういう意味で以前に比べればマニア性は薄くなったかも知れませんが、まだまだ「好きな人向きの」サスペンションであるかも知れません。
一口で言えば、少し乱暴ですが、直進時のC5のハイドラクティブⅢプラスの乗り味は「エアサスペンション」とほぼ同じです。ふわっとしていて、堅めのスポーティーなサスペンションから乗り換えると少し違和感があります。
私もC5試乗時に、以前所有していたランドローバー車のLR3(ディスカバリー3)のエアサスの乗り心地に似ていて驚いたことがあります。「ハイドロだからエアサスとも違う独自の乗り心地があるに違いない」と期待していたので、少し肩すかしを食った記憶があります。まぁ荒っぽく云うと、ハイドロサスはエアサスなのですね。
ただ、厳密に言うとエアサスとハイドラクティブⅢプラスを含むハイドロニューマティックはエアサスの変形版と云ったふうにやや異なる構造をしています。
普通の車は、路面の不整による振動を緩やかにするために、コイルバネを使用しています。棒状の金属をくるくると巻いたものですね。ただ、これだけだと「ドン!」という振動を「ストン」と緩やかにしてくれますが、「ストンストンストン。。」と一端発生した振動が消えませんので、これにダンパーを組み合わせます。バネの常数が高くなれば乗り心地は固くなりますがロールしにくく、バネ常数が低くなればその逆になります。多くの車はバネ常数を変えることは出来ません(最近は可変式も増えていますが)。
エアサスは、コイルバネの代わりに空気バネを使用しています。ベローズのような可変容量の容器にエア(空気)を封入しておけば、タイヤに押されて圧縮されると反発力も圧縮された比率に応じて強くなる性質を利用してバネ代わりになるのです。
エアサスの特徴は容器内のエア圧力を任意に可変することによりバネ常数も可変出来ることです。またエア圧力を上げてれば反発力も強くなり容器長が長くなる=車高も上がるので車高調システムとしても使用することが出来ます。
エアサスはふわふわと柔らかいという印象がありますが、容量と圧力を調整すれば締まったサスペンションも出来るはずです。ただ、エアサスは少ない生産数、複雑な構造、コンプレッサーといった補機が必要などからコストが高く、乗客や荷物の変化が激しくコイルバネでは乗り心地や振動が安定しない精密輸送用トラックや高速バスなど、効果でもペイ出来る車両に多く使用されています。そのため、まったりとした乗り心地が要求されるので、こういった印象があるのでしょう。
ハイドラクティブⅢプラス(ハイドロニューマティック)は、まず空気バネの代わりに、「スフィア」を用います。丸い金属製容器の中にダイアフラムと呼ばれる延び縮みする樹脂製の膜があり、その膜より上面
には高圧の水素ガスが密封されています。
膜の下には専用のオイル(油)が満たされていて、金属配管やブレードホースなどでタイヤを保持するリンクに装着されたオイルピストンに接続されています。
この方式の特徴は
・スフィアの容量や圧力を変えることでバネ常数を調節することが出来ること
・非圧縮性の油を介しているので、スフェアを車輪から離して任意の箇所に装着できること
・ポンプを制御しタンクからオイルを経路に流入させる量を調整することで車高が調整できること
・セルフレベライズ(荷重によらず車体を水平に保つ)機構を持たせたこと
・左右の車輪のオイル経路を連結することで、スタビライザが無くてもアンチロール(車体が遠心力で傾く動きを制する)制御を持たせたこと
・オイル経路と複数のスフェアやダンパー間にソレノイドバルブを組み込み、電子制御で機能するスフェアを数を変えることでバネ常数や減衰率を可変することが出来ること(ハイドラクティブのみの特徴)
などがあります。
個人的に評すると「ハイドラクティブⅢプラス」は「まだまだ進化中のエアサス」だと思います。
ハイドロニューマティックの良いところ(弱点の裏返しではありますが)は、ダンパーやバネが車軸やリンクに直付けでは無いところです。これは、車軸からの力が「油」という非圧縮流体を伝達するということです。つまり「制御デバイスを付与しやすくアクティブ制御がさらに進化する」可能性があるということです。
昔のハイドロは電子制御があまり進んでおらず、コンベンショナルな機械制御でサスペンション動作を目的とするものに近づける工夫がなされていました。しかし、近年は電子制御も性能、信頼性共に非常に向上しています。「ハイドラクティブ」はセンサー+CPUにより、走行状況や加減速、路面状態といった情報を元に、車高やバネ常数、減衰力をアクティブに切り替える機能が付与されました。
今後益々制御が進化し、より状況に応じた、またドライバーが望む状態に制御できるサスに進化する可能性を秘めています。
今後のシトロエンの研究や開発に期待しています。
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My Cars | クルマ
Posted at
2009/08/15 16:21:40
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