
後編は、
「時今也桔梗旗揚」(ときはいまききょうのはたあげ)
除幕 饗応の場
戦国乱世、小田春永(富十郎)は太政大臣任命の勅使世尊寺中納言の饗応役を武智光秀(吉右衛門)に命じた。
光秀が着々と準備を進める中、春永は鷹狩りから上機嫌で帰って来る。ところが、桔梗の紋の入った天幕を見るや怒り出し、天幕を引き下ろし、品々を蹴り飛ばす。
光秀は諌めるが、春永の怒りは止まず、森蘭丸(錦之助)に命じ、鉄扇で光秀の眉間を割る。更に光秀は、蘭丸に饗応役を取られ、蟄居を命じられる。
二幕 本能寺馬盥の場
中国攻めの為、春永は本能寺に陣を張る。妹の桔梗(芝雀)や家臣の取りなしで光秀は面会を許される。やがて酒宴となるが、春永は光秀に馬盥で酒を飲む様に命じる。光秀は我慢して飲み干すが、所領を蘭丸に与える様に命じられたり、以前所望していた刀も他の家臣に取られてしまう。
あげくの果てに妻皐月が貧困の時に売った切髪まで、満座に暴露される。
光秀は切髪の入った箱を手にし、謀反を決意するのであった。
大詰め 愛宕山連歌の場
愛宕山の宿所で光秀の妻皐月(魁春)、安田作兵衛(歌六)らが連歌をしている。其の中桔梗が現れ、作兵衛に光秀の手紙を渡し、作兵衛は去る。桔梗から本能寺での話を聞いた皐月は涙する。
其処へ信長の上使が現れ、光秀に命を伝えようとするが、既に光秀は死に装束。
介錯を上使に頼むが、上使が光秀の辞世の句「時は今、天が下知る皐月かな」を見てはっとする所を、光秀は切り捨てる。
四王天但馬守(幸四郎)が駆込み、武智軍が本能寺を包囲した事を告げる。
以前から見たかった光秀物の狂言。内容は、江戸時代の稗史の類いをちゃんぽんした時代物。実名を使用する事を憚ったので、武智光秀=明智光秀、小田春永=織田信長である。 (他には、真柴久吉=羽柴秀吉、佐藤正清=加藤清正などがある)
光秀が徹底的に春永にいじめられると云う、所謂"怨恨説"がベースになっているが、今日では古くさく感じる。まあ、歌舞伎の話は荒唐無稽を楽しむ物なので、史実と合うとか合わないとかは問題ではないので良いんですけど。
此の狂言が面白く感じられるのは、光秀と春永ふたりとも悪役である事。ただし、春永の"暴"に対し、光秀は"陰"と云うべきか。
先日本で読んだのだが、此の狂言は観客に「此処まで我慢したんだから、謀反しちゃいなさい」と思わせるのが主題らしい。確かにいじめるのは春永だけで、蘭丸や他の家臣達も光秀に同情して取りなしてくれている。こうやって、光秀と春永の立場を二極化させているのであろう。
実は此の後も話が続くのだが、現在は愛宕山連歌までしか上演されない。光秀の忍耐からの解放を目的に置くならば、此処で終わるのが効果的な事は確かだ。
饗応、馬盥ともに幕切れが見所。特に馬盥はぐっと耐える中で、ぽんと切髪の入った箱を叩き、花道を入る。僕は、揚幕(花道で役者が出入りする所)のすぐ横を席で見ていたのだが、吉右衛門の無言の凄みが伝わって来た。
本日は此れ切り。
Posted at 2009/09/22 22:04:27 | |
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