
昨日、歌舞伎座昼の部を観て来た。
昼の部は以前ブログで書いたとおり、「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」の通し狂言。江戸時代の伊達騒動を室町時代に置き換えた狂言なので、実在のモデルがいる。例えば、
足利頼兼=伊達綱宗
仁木弾正=原田甲斐
渡辺下記左衛門=伊達安芸
山名宗全=酒井雅楽頭
細川勝元=板倉重矩
と云った所。
其の粗筋と感想。
・花水橋
奥州五十四郡国主足利頼兼(橋之助)が、侫臣唆されて郭通いの帰り道に悪人に襲われる。其処をお抱えの力士絹川谷蔵(染五郎)に救われる。
頼兼の大名らしい優雅な、谷蔵の力士らしい荒々しい相対的な立廻りが面白い。頼兼が脱いだ下駄を悪人が臭いを嗅ぐシーンは洒落が効いている。(題名の伽羅は、綱宗が香木の伽羅で作られた下駄を履いて吉原通いをしたと云う巷説が由来。)
・竹の間
隠居となった頼兼の跡を継いだ鶴千代はまだ幼く、悪人達は暗殺を目論む。乳母の政岡(玉三郎)は鶴千代を守る為、病気と偽って我が子千松と共に御殿の奥の間に引きこもる。其処へ、仁木弾正の妹八汐(仁左衛門)、沖の井(福助)、松島(孝太郎)が見舞いにやってくる。其の最中、忍びの者が現れ、捕らえられて政岡に頼まれたと白状する。実は八汐の陰謀で、政岡に難癖をつけ罪に陥れようとするが、鶴千代が庇った為、政岡は難を逃れる。
此の竹の間、次の御殿は主要登場人物は全部女性で、キャリアウーマンの政治劇である。玉三郎の政岡は凛としており、シリアスな幕かと思いきや、八汐の悪党ぶりが意外にコミカルで笑いがある。福助の沖の井は、粗筋を讀んだ限りでは、名前だけの人物かと思ったが、政岡を庇って八汐を弾劾するシーンは格好良い。
・御殿
鶴千代の毒殺を心配する政岡は、自ら茶器を使ってご飯を炊く。其処へ、管領山名宗全の妻栄御前(歌六)が菓子を持って見舞いに現れる。実は栄御前も八汐の一味の悪人で、菓子は毒入り。政岡がためらっていると、千松が菓子を食べてしまう。毒入りがばれる事を恐れた八汐は、千松をなぶり殺しにしてしまう。政岡は、顔色ひとつを変えずに耐えるが、栄御前は其れを見て我が子と若君を取り替えたと思い込み、悪事の連判状を政岡に渡してしまう。一人になると、政岡は我が子の死を悲しむが、八汐が連判状を取り返そうと斬りかかる。政岡は八汐を返り討ちにし、千松の敵を取るが、連判状は鼠が奪い取ってしまう。
此の幕では義太夫が入る為、舞台に重厚さが漂う。八汐も先程のコミカルさが消え、いかにも悪人と化し、千松を殺すシーンは凄まじい。仁左衛門の巧さが良く出ている。其れに耐える政岡、一人になって初めて悲しみをもらすクドキは観ている人の心を打つ。
・床下
舞台がせり上がり、床下の場面になる。荒獅子男之助(三津五郎)が鼠を一度は捕まえるが、取り逃してしまう。実は鼠は妖術を使った仁木弾正(吉右衛門)であった。
吉右衛門の仁木弾正が凄かった。スッポンからせり出て、花道を揚幕へと歩いていくだけで、せりふは無く、時間も10分も無い。花道の右後ろ側の席だったので、吉右衛門の形相がよく観え鳥肌が立った。流石、吉右衛門と云う出来。
・対決
足利幕府の問注所で悪人方仁木弾正、忠臣方渡辺下記左衛門(歌六)が山名宗全(彦三郎)によって裁判を受ける。悪人方に通じる山名宗全の為、下記左衛門の敗訴となるが、管領細川勝元(仁左衛門)が現れ状況は一変する。勝元が仁木弾正の悪巧みを暴き、忠臣方の勝訴となる。
今までの女形の歌舞伎から一転して、立役の歌舞伎となる。仁木弾正が妖術使いの床下と違い、普通の人間になってしまい、一寸拍子抜けする。仁左衛門の勝元は颯爽として格好良かった。吉右衛門と仁左衛門のやりとりは、実力派二人の競演とあり見応え十分だった。
・刃傷
敗訴となった仁木弾正が逆上し、渡辺下記左衛門に斬りかかる。下記左衛門は深手を負うが何とか仁木弾正を討ち取る。其処へ勝元が現れ、下記左衛門に薬湯を与え、鶴千代の家督相続のお墨付きを手渡し、一件落着。
仁木弾正の立廻りが、此れぞ歌舞伎の敵役と云う物を観せてくれた。併し、最期は深手を負った老人にとどめを刺されて一寸あっけない。勝元も下記左衛門に薬湯を与えるだけで「めでたい、めでたい」と言って幕が閉じてしまい、早く介抱してやれよと突っ込みたくなる。
全体を通じて印象に残ったのは、はやり床下の吉右衛門の仁木弾正の凄み。悪の吉右衛門に対する善の仁左衛門も良い。非常に満足度の高い芝居でした。
本日はこれ切り。
Posted at 2009/04/26 18:53:36 | |
トラックバック(0) |
歌舞伎 | 趣味