
後編は、お目当ての仁左衛門一世一代
女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)
<除幕 徳庵堤茶店の場>
野崎観音参拝で賑わう徳庵堤の茶店で、大坂天満の油屋豊嶋屋七左衛門の女房お吉(片岡孝太郎)が、娘のお光(片岡千之助)と一緒に夫を待っている。
其処に、町内で同業の、河内屋の息子与兵衛(片岡仁左衛門)が悪友を従えてやって来る。馴染みの芸妓小菊(片岡秀太郎)が、他の客と野崎参りに来たのを知り、喧嘩を売る為だ。与兵衛を見かけたお吉は、色々と意見をするが、与兵衛は聞く耳持たない。
お吉親子が野崎参りへ行くと、小菊が客の会津の郎九と共に現れる。与兵衛は、小菊に詰め寄り、やがて郎九と喧嘩になり、辺りは大騒ぎ。此の騒ぎの中、与兵衛の投げた泥が、はずみで高槻藩小性頭の小栗八弥(坂東新悟)に当たってしまう。従者の山本右衛門(坂東彌十郎)は、無礼者を咎めようとするが、与兵衛の顔を見て驚く。実は、二人は伯父甥の仲であった。八弥は、此れを見て森右衛門を止め、野崎参りへ行くが、森右衛門は、戻ったら成敗すると息巻く。
おどおどする与兵衛は、野崎参りから帰って来たお吉に助けを求める。話を聞いて、お吉は呆れるが、持ち前の親切心から、茶店へ与兵衛を連れて行き、着物を着替えさせてやる。
やがて、豊嶋屋七左衛門(中村梅玉)が現れ、お光の言葉から、お吉が不義をしているのではと疑い、お吉の良い訳も聞かずに、二人を連れて行ってしまう。
ひとり残った与兵衛も、其の場を後にする。
仁左衛門の花道の登場は、大拍手。自分もそうだが、千秋楽で本当の最後の与兵衛を観に来た客の期待の高さが伺える。
仁左衛門本人は、「年をとっても芸で見せる役ではない」と言っているが、とても65歳とは見えない若さ。威勢は良いが、小心者の見栄っ張りの与兵衛がよく現れている。最後の花道の引っ込みのシーンで、荷馬の鳴き声を八弥の馬と間違え、びくびくする所など、上方歌舞伎ならではのおかしみも多い。
<二幕目 河内屋内の場>
大坂天満の油屋河内屋徳兵衛(中村歌六)は、先代亡き後、後家のおさわ(片岡秀太郎)に婿入りし、跡を継いでいる。其の為、徳兵衛は与兵衛に厳しく出来ず、与兵衛は放蕩の限りを尽くしている。
徳兵衛とおさわの娘おかち(中村梅枝)は、病気に臥せっており、其処へ法印が病気平癒の為にやって来る。加持祈祷が始まると、おかちが神懸かりとなり、「与兵衛に跡を継がせる様に」と、口走る。与兵衛は、徳兵衛に店を継がせる様に話すが、徳兵衛は、おかちに婿養子を取ると言い出し、与兵衛は徳兵衛を足蹴にする。おかちが止めに入り、先程の神懸かりはウソであったと告げると、今度はおかちにも暴力を振るいだす。
其処へ、おさわが帰って来て、勘当を迫ると与兵衛は実母さえも、棒で打ち据える。たまりかねた徳兵衛が、棒を取り上げ、与兵衛に折檻し、おかちの婿養子の件も構成してもらう為の方便であったと涙を流す。
おさわが改めて、勘当を告げると、与兵衛は自棄になって河内屋を飛び出してしまう。其の後ろ姿を見て、徳兵衛は、先代に生き写しの与兵衛が、先代を追い出しているようで忍びないと泣き伏す。
此の幕は、まるで現代のホームドラマを見ているようだ。家庭内暴力、親の心子知らず。与兵衛の柱にもたれたり、頬杖をついて寝そべるシーンなどは、仁左衛門が作り出した型のようだが、甘ったれでわがままのボンボンを強調している。
<三幕目 豊嶋屋油店の場>
五月の節句の前夜、豊嶋屋では七左衛門に代わり、お吉が店番をしている。
其処へ、与兵衛が訪ねようとすると、借金取りから、明朝までの返金と、出来なければ徳兵衛の印判を無断で使用した事をばらすと迫られる。其の時、徳兵衛が現れたので、与兵衛は身を隠す。
徳兵衛は、お吉に与兵衛が豊嶋屋を訪ねて来たら、更生して家に帰る様に諭して欲しいと頼み、銭も渡して欲しいとお願いする。其処へおさわも現れ、徳兵衛に意見するが、はずみで与兵衛に渡そうとしていた銭とちまきを落とす。おさわも心は、徳兵衛と同じで二人は涙を流す。其れを見たお吉も感じ入り、一切に応じ、二人は帰って行く。
外で話しを聞いていた与兵衛は、お吉を訪ね、涙を流して銭を受け取る。併し、借金の額には足りず、お吉に金を借りようとするが、お吉は先日の件で夫から不義を疑われたと、貸してくれない。
「いっそ不義になって貸して下され」と、与兵衛はお吉に迫るが、声を出して騒ぐと断られる。無理と悟った与兵衛は、油を売って欲しいとお吉を騙し、油まみれになりながら殺してしまう。
そして、銭を奪った与兵衛は、豊嶋屋から去って行く。
与兵衛が、お吉を訪ねるまでは二幕目からの続きで、涙を誘う場面。漫画やテレビドラマであれば、此処で改心し、めでたしめでたしとなる所だが、そうは行かない。
「いっそ不義になって貸して下され」の台詞から、
エロスと
殺戮のクライマックスに突入する。(お吉は、27歳の豊満な人妻と云う設定だそうで、此処ら辺からもうエロスだ)
油にまみれ(実際はフノリ)、だんまりの中での立ち廻りは、鳥肌が立った。孝太郎のお吉は、荷が重いかと思ったが、髪の毛がほどけ、帯がはがされて殺されてしまうシーンは、エロス其の物だった。
与兵衛が我に返り、動顛する所もリアル。脇差から指が放れず、やっとはがして鞘に戻そうとしても、体が震えて入らない。与兵衛は、根っからの悪党なのではなく、ただの小心者の小悪党なのだ。銭を奪って行く時も、お吉の赤ん坊の泣き声に怯えている。
最後に、花道の七三で転んだ後、揚幕へと消えて行くのだが、幕が閉まっても拍手が鳴り止まなかった。僕もカーテンコールを期待して、ずっと拍手をしていたが、結局現れず。
与兵衛のお吉殺しの場面は、動作のひとつひとつが目に焼きについている。一生忘れる事は無いであろう名場面であった。
本日は此れ切り。
Posted at 2009/06/28 23:34:02 | |
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