萌えだけじゃない!『艦これ』がヒットした理由とは?
最近、twitterなどを中心に話題騒然のゲーム『艦隊これくしょん ~艦これ~』。角川ゲームスが開発し、DMM.comが運営するパソコン用ゲームで、ブラウザーだけで楽しめるいわゆる“ブラウザーゲーム”である。
『艦これ』のサービスが始まったのは2013年4月。以降、順調にユーザー数を伸ばし続けてきた。9月初旬には70万ユーザー、10月には90万ユーザーと、基本プレー無料とはいえ、従来のブラウザーゲームの常識を遥かに超えるユーザーを獲得している。
●“萌え擬人化”した艦艇で敵を倒す
『艦これ』の世界では、「深海棲艦」(しんかいせいかん)と呼ばれる謎の怪物に攻撃を受けている。プレーヤーは海軍の「提督」となって“艦隊”を編成し、「深海棲艦」を攻撃する――、これが『艦これ』の大まかな設定だ。
特徴的なのは、艦隊に所属する戦艦や空母、巡洋艦などの艦艇が、すべて女の子に擬人化されていること。このため『艦これ』では、艦艇のことを「艦娘」(かんむす)と呼んでいる。すべての艦艇は「大和」「赤城」など、旧日本海軍の艦艇の名称で表記されているが、実際の姿は「大和」「赤城」という名前の女の子なのだ。一時期流行った「萌え擬人化」という技法である。
「艦娘」は鋼材などの「資源」を消費して建造したり、「深海棲艦」との戦闘に出撃したりすることで手に入る。獲得した「艦娘」は、演習や実戦を通じて経験を積み、レベルアップしていく。こうして自分の好みの編成の艦隊を作り、百戦錬磨の艦隊へと磨き上げ、困難な戦いに勝利することが『艦これ』におけるプレーヤーの役割となる。
●【理由1】プレーヤーの役割が首尾一貫している
『艦これ』のヒットの秘密をさらに探っていこう。前述したとおり、90万ユーザーという数字は、スマートフォン向けのモバイルソーシャルゲームでもなかなか到達が難しい数字である。それがなぜ、事実上パソコン専用のゲームで到達できたのか?
理由は簡単。『艦これ』が、ゲームとして面白いからだ。
ゲームに関しては、タイトルがヒットする条件はシンプルで、「面白いゲームだけが、ヒットする」のである。無論ここには広告宣伝などのさまざまな要素が絡むため、「面白ければ必ずヒットする」わけではない。だが「面白くないゲームがヒットしない」のは、ゲーム産業における偽らざる真実だ。
では『艦これ』の何がいったい面白いのだろう?
ゲームの面白さにはたくさんの要素があるが、傑作と呼ばれるゲームのほとんどに共通する特徴がある。それは「プレーヤーが何者なのか」が、ゲームの中で首尾一貫していることだ。
例えば『スーパーマリオブラザーズ』では、プレーヤーはマリオ(ないしルイージ)であり、プレーヤーが目指すべきことと、ゲーム内でマリオが目指すべきことは一致している。『ドラゴンクエスト』であれば、プレーヤーは「ゆうしゃ(勇者)」であり、プレーヤーがプレー中に行う選択と、ゲーム内で「ゆうしゃ」が行う選択は一致している。つまり、プレーヤーにちゃんと「マリオにならせてくれる」「『ゆうしゃ』にならせてくれる」ゲームなのだ。
『艦これ』も、プレーヤーは「提督」という立場で首尾一貫している。史実の「提督」よりは大きな権限を有しているが、「提督」が戦闘機のパイロットになって敵機を迎撃したと思ったら、次の瞬間には砲座に着いて主砲を撃ったりといった、「自分は何者なんだろう?」という疑問が湧くようなことはない。
それどころか、『艦これ』の戦闘では、プレーヤーができることは何もない。「艦娘」たちは独自の判断で敵を攻撃するので、「この船を狙え」といった指示すらできない。
代わりに、プレーヤーは戦闘終了後、「進撃するか、撤退するか」の判断をしなければならない。艦隊の指揮官として、作戦遂行における最も重要な判断を下さなければならないわけだ。このように『艦これ』は、プレーヤーをちゃんと「提督にならせてくれる」ゲームなのである。
●【理由2】決断によるスリルを最大限に味わえる設定がある
ちゃんと「提督にならせてくれる」という点で、自分の部下である「艦娘」の生死に責任を負うという側面も『艦これ』の面白さを引き立てている。
というのも、『艦これ』の戦闘では、許容量以上の損害を受けた「艦娘」は轟沈し、データごと抹消されてしまう。轟沈した「艦娘」のデータは何をどうしようとも戻ってこない。同じ名前の「艦娘」が建造されたり発見されたりして自分の艦隊に再度所属することはあるが、“戦死”した「艦娘」は絶対に帰ってこない。これは、萌え系の育成ゲームとしては、とても特殊な仕様といえる。
また、「失敗したらリセット」も通用しない。『艦これ』はオンラインゲームで、データは運営会社のサーバー上に記録されるためだ。「ゲームはリセットができるから云々」という言葉をしばしば耳にするが、オンラインゲームにリセットは存在しない。
このため「提督」は「進撃するか、撤退するか」において、慎重な判断を求められる。一定以上の損傷で進撃すれば、「艦娘」を失う危険性がある。だが、敵の攻撃は厳しく、無理を押してでも進撃させたくなることも多い。『艦これ』は「伸るか反るか」という決断のスリルをプレーヤーに存分に味わわせてくれる。
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●【理由3】ユーザーが日々ゲームに向かう仕掛けがある
●【理由4】ゲームの体験がユーザーの記憶にしっかり残る
●【理由5】ユーザーが自らの体験を語る強い口コミ
●【理由6】課金や限定配布などで一部のユーザーを優遇していない
最後に、よく語られる『艦これ』の良さとして、「お金を使わなくても十分に楽しく遊べる」という点について補足しておこう。
筆者は、無料であることとゲームの良し悪しを結びつけて論じるのはどうかと思わなくもない。だがその一方で、「ゲーム内イベントで一定の成果を挙げるために何万円も必要になる」というのは(すべての“基本無料ゲーム”がそうというわけではないにしても)、やはり何かがおかしいと言わざるを得ない。
『艦これ』は、時間さえかければ無料でもイベントの最終ステージをクリアできる。これはすでに何人もの「提督」が証明している。
また「イベント限定」という、いわゆる“限定商法”をしていないというのも、ユーザーにとっては安心感がある。イベントでは、そのイベントでしか手に入
らない特別な「艦娘」が配布されるが、これはいわば「先行配布」で、ある程度時間が経てば普通に入手可能になると明言されている。
となるとビジネスパーソンとして気になるのは「それで儲かるのか?」という点かもしれないが、『艦これ』はそもそもメディアミックス展開を前提としており、グッズやコミカライズなどの版権ビジネスで回収するというビジネスモデルを組んでいる。現状、これはある程度まで上手くいっていると考えてよいだろう。
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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131009-01052801-trendy-game&p=1