「イノシシが獲れたから、喰いに来いよ」
絵描きの友人に誘われ、向かった先は山梨県。
集まったのは、むかし互いに切磋琢磨した同期生7人。
同じ釜の飯を喰ったとは、東京の大学のスキー部にいた仲間のこと。
名古屋からは中央高速を使い2時間ほどの八ヶ岳の麓。
たぶん東京方面からのほうが、距離的には近いはず。
交通費と手間暇考えれば松坂牛が食えるのにと思いつつ、
懐かしい顔を思い浮かべながらクルマを走らせる。
仕事は公務員、自営業、会社員、プーと様々。
もちろん、プーとは絵描きのグズローのこと。
学生の頃から徴候のあった公務員ワカメの頭は、すっかり禿げあがっていた。
「あれ、同じビーチ○ウンドじゃん、そのパーカー」
ワカメの言葉に、コースケと俺の服がかぶってることに気付いた。
「そのパンツ、タケオキ○チかビー○スだろ」
派手でいかにも若者が着ている服を、中年の俺たちも着ている。
きっと今夜寝巻代わりのトレーナーは無印○品だろう。
たぶん下着はユ○クロだ。
自分ではカッコイイつもりでいたが、同年の、それも知人が着てるとフクザツだ。
たまに買い物に行って、いかにもJKが着ていそうな服を着たオバサンを見た時に
「それ、無理だろ」って言ってしまいたくなる痛々しさに近い。
不景気とはいえ、なぜこうもカブるのか。
確かに食料品や日用品の買い物ついでに、専門店街を歩いて買う服ばかり。
皆、家族で出かける近所のイオ○かア○タにしか行ってないってことか。
別荘は、太い丸太を組み合わせた本格的なログハウス。
ウッドデッキは半分外され、手直しの最中のようだ。
壁一面にグズローが描いたであろう絵が飾られている。
中央にあるグランドピアノは、前の所有者が置いていったものだとか。
音楽家が建てた別荘を、自称画家の彼が安く買いとり住まいに。
天井からぶら下がった、黒く鈍く光る南部鉄器の瓶。
囲炉裏の炭は、彼が窯で焼いたものらしい。
3人目が生まれてすぐ離婚し、一人ここに住み着いたと聞いたことがある。
絵が売れてるとは思えないし、養育費もあるだろうに何して食べてるかは不明。
話し下手だったグズローだが、誰からも好かれていたから集まれるのかも。
例年、白馬岩岳で行われていた春の大学対抗選手権。
前夜祭は、深夜のゲレンデに素っ裸で騎馬戦と決まっていた。
俺達が2年の時、写真週刊誌に載ってしまい、翌年から中止に。
薄い頭にバンダナを巻き、股間にモザイクのかかったワカメが写ってたっけ。
「どうよ、生きてるって感じがするだろ」
いまどきデニムのオーバーオール着てるのは、デブの芸人かピエロくらいだろ。
そういえば子供の頃、中村雅俊がドラマ「俺たちの旅」で着ていたのを思い出した。
いつの時代も学生は悩むものなんだろうか。
いつまでも学生でいられないとわかっていても、悩んでばかりだった。
熱かった部活も討論も、振り返れば女口説く口実だった気もする。
網を敷き、炭火で直に焼いた肉を頬張りながらビールを飲む。
「猪は、普通鍋だろ」と言いつつも、目的は食うことじゃないから気にしない。
薄く切ってはあるが、しっかり焼かないとダメらしい。
「ここ、ケータイの電波は入るけど、テレビ映らないからね」
人里離れ自分のことだけを考えて暮らすグズローを、うらやましいと思うかどうか。
答えは、これまでの人生を生きてきた自分自身の中にある気がする。
変わらない彼を見ていると、「ただお前がいい」って曲が聴こえてきそうだ。
50超えて、人生の半分以上を過ぎてなお思い出すのは学生時代のこと。
時代なんて何も変わってなんかいない気がしたまま老いてゆきたいとも思う。
駐車場で見かけた蜘蛛、蛇、蜂、蜥蜴。
猪もいれば、鹿も猿もいるのだろう。
街灯一つ無い山の中で、カラオケも無いのに呑んで騒いで大声で歌う中年たち。
気分だけは学生時代に戻っている。
「やっぱ、牛のほうがいいや」
正直、この焼肉はいただけないと俺も思った。
でも、だからって俺のランボルギーニを観るのはやめてくれ。
この連中の、酔った勢いってのが不安だ。
Posted at 2011/11/11 13:05:35 | |
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