夢だったマイホーム。
小さくても面白い家がつくりたかった。
ガレージは屋内から見えるように。
玄関とリビングは、3階まで吹き抜けに。
その吹き抜けに沿って階段を見せ、踏み板は透明なアクリルを使いたい。
天井の梁(はり)からロープを垂らし、ロッククライミング用の滑車を付ける。
壁はALCにしてボルトを打ち込めるようにしたい。
3階の天井まであれば、自宅でもじゅうぶん楽しめそうだ。
風呂、洗面、トイレの仕切りは全て透明なガラスに。
床材にはコルクをふんだんに使いたい。
屋上のトップライトから陽が入るようにしたい。
3階の寝室から屋上へは、クローゼットの中に梯子をつけ小屋裏経由で。
1階床下は書籍類の収納スペースにして、堀コタツから出入りする。
本は箱単位だし、直にコンクリでも床下に収納できると助かる。
敷地面積は限られているし、予算も必要最低限。
用途地域からして、1階がガレージと玄関スペース。
2、3階が生活空間になる。
将来の為じゃなく、今、僕らの希望がかなう家を楽しんでつくるのさ。
これからの10年15年を、この家で楽しめたら元がとれる。
その頃には、僕たち家族を取り巻く環境も変わっているだろうし。
ガレージと玄関を一体化し、電動シャッターにしたい。
趣味の自転車と、TVRを収めておく場所が絶対必要だから。
シャッターなら防犯面も問題ない。
僕のタスカンは2人乗り。
西部警察で石原軍団が事故を起したという伝説のクルマだ。
ミラー下のボタンを知らなければ、ドアすら開けられない。
完成された市販車と言うより、MGかセヴンに近い趣味のクルマだ。
このクルマ、雨の日には乗らない。
レインコートもそうだが、英国人は雨に濡れることを気にしてはいけないと
子供の頃から教えられている気がする。
傘をさすなんて野暮、とでも言いたげなお国柄のクルマ。
親父は田舎で大工をしている。
将来のことはわからないが、今、田舎に戻ることは仕事上無理。
頼みはしないが、これも親孝行と妻が言うので話すことにした。
実家に寄り、プラン図を見せた途端、父の笑顔が消えた。
図面を開き、簡単に説明を加えてゆくが、相槌もない。
眉間の皺が更に深く寄った気がする。
職人の顔だ。
クルマをここに出し入れする時の換気は?
出入りの度に電動シャッターを操作するのか?
堀ごたつが欲しいくせに、和室は要らねえってどう言うことだ?
片流れでも、屋根は瓦を使え。
アイランド式キッチンって、油が部屋中に飛び散っちまうだろう。
キャットウォークだか何だか知らねえが、将来、子供が落ちたらどうすんだ。
言わせておけばいいと思ったが、これも性分、ついテンションが上がる。
「床下に本なんて、湿気ですぐカビるに決まってる。
捨てりゃいいじゃねえか」
「本は捨てられないんだよ」
「家はお前ひとりが住む訳じゃない。
ガラスのトイレで、来客が使ってたらどうすんだ?」
「見なきゃいいんだよ」
・・・・
「なんで小さな書斎が2ヶ所もいるんだ?」
「奥さん、テツコだからひと部屋いるんだよ」
「テツコって、窓際のトットちゃんか?」
「古いよ、それ、オヤジ。鉄道ファンの鉄子だよ」
・・・・
子供の頃からモノへのこだわりは人一倍強かった。
部品ひとつひとつの形にも理由があり、優れた作品は美しい。
親父は職人で頑固、たぶんこれは遺伝だろう。
僕も妻も最低限の知識くらいはある。
大学は建築科だったし、今はメーカーで工作機械のCAD描いてる。
妻は店舗建築のインテリアコーディネーターをしている。
「だから、壁にトタンは嫌だと言ってるだろ」
トタンという金属の響きが嫌いなんだよ、僕は。
「トタンの良さを知らねえクセして」
そりゃ昔の土壁と思えば革命的な材料だっただろうさ。
「あのぉ、だったらガルバニウムでいかがでしょう?」
妻が、そっと間に入ってなだめようとした。
が、
『ダメだ!』
親父とハモってしまった。
Posted at 2011/01/13 20:22:54 | |
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