スーさんが亡くなった。
享年55才だそうだ。
彼と出会って10年。
明るく聡明な人だった。
入院してからは、会えなくなった。
彼は、泌尿器系のガンだと知った時、私に言った。
諸悪の根源は、やはりここかと。
どうツッコミを入れて良いものか、でも、彼はひとりで笑っていた。
私は医者だ。
できれば、私のいる病院に来てほしかった。
普段着では、見舞いにさえ行けない。
当直明け、見計らいつつ、こっそり病室をのぞく。
彼は個室のベッドの上で、バケツを抱え座っていた。
うつぶせて寄りかかったまま、顔を上げた。
水もダメ、唾も飲むなと言いやがる。
おまえとキスもできねえじゃねえかと言って、笑う。
もう長くないのは、わかっているのだろう。
つけたままのテレビから流れる、被災した状況を聴きながら言う。
かわいそうにな。
助けられることがあれば、してやりてえなと。
空いてる借家を、被災者に提供してやる。
ただし、最低限の家賃は払わせる。
人間、タダで施しを受けたらダメになるからな。
他人の心配をしている状況じゃないのに。
自分のことで精一杯のはずなのに。
声を出すのも辛いだろうに、モルヒネの副作用を知っているのだろう。
おまえには感謝してる。
長い間、世話になった。
おまえと娘と3人、思い出をつくってやれないことが悔やまれるが、許してほしい。
将来、親しくしていた友人からってことで、俺のクルマを娘にやってくれ。
それまで、おまえがたまに乗ってくれればいい。
動かせないかもしれないがな、はははは。
車庫に眠っている、ポルシェ911。
エンストする様子を、思い浮かべているのだろう。
抱えたバケツの中で、彼は笑っていた。
病気には勝てねえな。
負けちまうかも知れねえな。
携帯で録音したこの言葉が、最後になった。
Posted at 2011/04/28 16:41:32 | |
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