俺の母校でもある学校に、親として来ている。
中高一貫のこの私立学校は近所にあり、親父も俺もここの卒業生だ。
今ももちろん進学校だが、昔は経営者のやんちゃな息子達が集まる学校だった。
商売屋同士、近い世代間で人間関係をつくる場でもあった。
俺んちは、俺で8代続く造園屋だ。
妻が熱をだしたので、俺が代わりに息子の懇談会に行くことになった。
晴れていたので、ガレージから趣味のクルマ、フェラーリを出す。
駐めるのは、校舎の一番奥の空き地。 勝手知ったる我が母校だ。
教室で子供の席に親が座り、ひとこと自己紹介と近況報告をと言われた。
大手企業のサラリーマン家庭がほとんどなのだろう。
親の話しぶりから、高学歴で教育熱心な家庭のにおいがする。
自営業は、医者と会計士くらいか。
夫が海外赴任中だの、遠くからでも熱心に通わせている様子がうかがえる。
とってつけたように、子供が家で勉強しないと語る奥さんが多い。
俺の番が来た。 最初に名前と家業を言う。
付け加えて、最近息子の部屋がくさいので、同じだけ勉強にも精を出せと。
女の子とする際は、必ず避妊具をつけるよう伝えましたと挨拶。
当然、爆笑になると思ったら、静まり返ってしまった。
教師にまでスルーされた。
何がいけなかったのだろう。
担任から資料を渡され、大学への進学状況を説明された。
グラフは上から、医学系及び超難関校、有名私立及び国立、その他の国公立、
それ以外の4つに分類されていた。
俺の母校は、それ以外らしい。
その後の交流会は、親同士の情報交換をする場となっていた。
上の子供はどこに通っているだの、どこの塾が良いだの、収集に懸命な母親たち。
厚化粧に愛想笑いがキモチ悪い。
近くにいた男性に、女ってのは大変ですねと同意を求めたら、無視された。
この男、確かお役所勤めと言っていたから官僚だろうか。
どうやら他人に興味がないらしい。
俺の居場所がなかった。
傍若無人、かたわらに人がいないがごとし。
ふと山本有三の「路傍の石」が、頭に浮かんだ。
出かける前、熱で苦しそうな妻に「ぜったい変なこと言わないでよ」
と言われたことを思い出した。 が、あとの祭りか。
計6年、親同士も先が長いことを考えてのことだろう。
後日、ここに来ていたママ友から、俺の発言が妻に伝わるかどうか。
怒るだろうな、あいつ。 二度と私は行かないと言うに決まっている。
自ら蒔いた種とはいえ、気が滅入りそうだ。
早々に教室をあとにし、クルマに乗り込んだ。
360のエンジンをかけたところで、ケータイが鳴った。
キャバ嬢の彩加から、同伴のお誘いだった。
このままこのクルマに彩加を乗せ、先に外で食事をしよう。
待ち合わせの時間と場所を決めて、ケータイを切る。
このモヤモヤした気分を晴らしたいと思っていた。
気を取り直し、アクセルをかるく2回踏み込む。 良い音だ。
走り出したところで、玄関から出てくる一団が見えた。
この顔ぶれは、息子のクラスの親たちだった。
近づくと、会話が止んだのがわかった。
得体の知れないモノを見るかのようにクルマを眺め、そしてドライバーをさがす目。
その中を、軽く何度も頭を下げながら、ゆっくりと通り抜ける俺。
これでも精一杯静かに動かしているが、その苦労がわかる人間はいないだろうな。
今頃は、俺の話題でもちきりかな。
常識のない下品なオヤジだと、言い合っているのかな。
家に帰り、バカ親の子供とはつきあうなと、自分たちの子供に言うのかな。
うん、俺もフェラーリも悪くない。
これが普段通りのコミュニケーションなのだから。
わかる人にはわかる、いろんな人がいるってこと、いろんな道があるってこと。
次回も俺が懇談会に参加したら、誰か話しかけてくれる気がする。
なんとなくだけれど。
Posted at 2011/05/28 11:10:55 | |
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