「ここのホテルの朝食、ビュッフェスタイルのバイキングで結構いけますよ。
ご一緒にいかがですか?」
最初、カレが何を言ってるかわからなかった。
オトコに、それも露骨にお泊りを促されるなんて、初めてだったからだ。
簡単に口説けるように見えたとしたらどうよと思うが、誘われて嫌な気はしない。
おひとり様を覚悟してから、一人暮らしも長い。
戻っておいでと言ってくれていた両親も、弟夫婦との同居を決めた途端、あからさまにオミット。
今さら実家もないけれど、生きた証しと言えるほどの仕事かと自ら問えば虚しい。
合コンに呼ばれるほど若くもなくなり、出会いもないまま時間だけが過ぎて行く。
婚活と言ってしまえばお気楽な時代だけれど、人に会いに出かけるのも結構億劫。
実際、ひとりで不便なことなんて何もない。
この歳でオトコに騙され貢ぐなんて、ありえない。
貯めたお金は、私の老後のためのもの。
煩わしい思いをするくらいなら、ひとりでいた方がよっぽどいい。
ネットのメルフレ検索で出会ったカレ。
今どきは年齢認証が必要だなんて、知らなかった。
ふとした日常を共有できる健康的な男性を希望、と書いて登録したのだ。
すぐに、たくさんのメールが届いた。
カレのコメントは、気配りと良心に自信ありというものだった。
趣味はクルマとスポーツ観戦、ちなみに愛車はマツダRX-8だと書いてきた。
エイトは後部座席にバッグも置ける4シーターのスポーツカー。
マニアックだけれど大好きな1台。
大人のセンスを感じさせる選択だと思う。
話題も軽快で嫌味もない。
プロフでは私より5歳若く、慣れた感じでお会いしたいと言ってきた。
あまり遅くない程度の時間と、安全な場所を設定。
待ち合わせたホテルのロビーに、ノータイのスーツ姿で現れたカレ。
詐欺師のようでも想像していたプレイボーイ風でもなく、爽やかな風貌。
私は結構若く見られるが、カレは年齢よりは老けて見える。
喫茶ラウンジで飲みものを頼み、お互い初対面での第一印象を話す。
と、いきなりお泊まりのお誘いときた。
会ってまだ15分といったところで、展開の速さにちょっと驚く。
純粋なメルフレ希望だけれど、会って誘われるのはやぶさかでない。
忘れかけていたとはいえ、やっぱ私も女だなと思う。
何の準備もなくお泊りなんてありえないが、電車のあるうちに帰れば全く問題ない。
「もしかして、セフレをお探しでしたら見当違いですよ」
安く見られてるとしたら癪だし、警告するつもりで言ってみる。
もちろん、大人のジョークで切り返してくることを期待して。
ここで軽く笑いがとれれば、楽しい夜が待っていたはず。
「ソレ目的の隠れ主婦が多いので、誘わないと失礼かと思いまして」
主婦ですか? 私が?
既にじゅうぶん失礼なんですが。
真顔で話すカレの言葉に、返す言葉が浮かばず席を立つ。
私がサイトの使い方を間違えたってこと?
それとも普通のことなのだろうか。
イマドキの主婦たちよ、同世代として恥ずかしいんですが。
Posted at 2011/08/23 17:16:39 | |
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