「すいません、高速が事故渋滞で遅れてしまいまして」
「いいから座りなさい」
課長の言葉で、新人の土屋君が慌てて席に着く。
彼が朝礼に遅れるのは、これで2回目。
今年入社の新人が遅刻、それも理由がクルマ通勤ってどういうこと?
それを叱らない課長って、どうよ。
彼がクルマ通勤してるなんて、初めて知った。
と言うか、この近くに月極借りるとかコインパーキングだなんて大丈夫か。
大卒1年目の安月給で、都心のパーキングはかなり負担なはずだ。
昼食の社員食堂で、今朝のことが話題になった。
「あの土屋君、クルマ通勤とか、あり?」
「入社してからずっとクルマで通っていたのかしらね」
「確か家は隣りのT市でしょ? 地下鉄で1本なのに」
「それより課長の態度、気にならない?」
「他の社員だったら大目玉のはずなのに。知り合いの息子さんとか」
「クルマで通勤なんて、もしかしてお坊っちゃんかもよ」
「でも自分で運転して来てるなら、よほどクルマ好きなんじゃない?」
「マニアってことなら高級車かも」
「ペチャンコに車高低くして、タイヤをハの字にしてるVIPだったり」
「そっちかよ」
「土屋君、どんなクルマ乗ってるのかな」
「大学出たばかりでしょ。古い軽なんじゃないの」
「入社祝いに親に買ってもらったレクサスとか」
「祝ってもらうほどの会社じゃないし」
「彼、見た目も可愛いから、ヴィッツとかじゃないの」
「クルマ好きなら、ホンダじゃない? CR-Zとか」
「オートマ限定免許だとしたら、スポーツカーとか無いっしょ」
「案外、痛車とかだったりして」
「涼宮ハルヒとか描いてあったら、もう最悪」
「そう? 綾波レイとかもイイと思うけど」
「ポルシェにハルヒなら許されるかも」
「彼と痛車って、イメージ合いそうよね」
「似合ってもフクザツだけど」
「仕事できないアニメおたくだったら、救いようが無いし」
「せめて軽に『しずかちゃん』じゃないことを祈るわ」
ちょうど通りがかった土屋君に、皆で微笑みながら声をかける。
「ねえ、土屋君ってどんなクルマに乗ってるの?」
「いや、たいしたことないっす。小さなクルマなんで」
「どこのクルマ? 車種教えて下さらない?」
「言うほどのもんじゃないっす。イタ車なんですけど」
「え~、やっぱり・・・。ちなみに、どんな絵なの?」
「絵ですか? 竜とかヘビみたいな感じで」
「ドラゴンズファンなのね」
「もちろんです。地元ですから」
「あー、もういいわ。仕事がんばってね」
「はい。失礼します」
やっぱ言いにくいよな、アルファロメオとか。
外車ってだけで目立っちゃうし、うちの親父の会社ここの取引先だし。
修行に出されてるなんてこと言わないほうが長く付き合ってもらえそうだもんな。
Posted at 2011/10/21 19:53:16 | |
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