こんなに雪が降るのも珍しい。
ヘッドライトに照らし出された雪が反射し、車内が明るく感じられる。
先が見づらい状況で、周りの景色を確認しながらクルマを走らせている。
ひと月振りのデートだった。
お互いの都合が合わず、メールのやり取りもなく気まずかった。
俺35、彼女は33、いつまでも恋人同士って歳じゃない。
俺もわかっているから、早くけじめようと思っている。
不思議なのは、彼女から結婚したいといった素振りが全くないことだ。
気がないのか、好きじゃないのか。
昼に待ち合わせ、市内の喫茶でランチを済ませ、ラブホテルへ。
昼間でも寒かったが、ホテルから出たら雪が降っていた。
ホテルで観た映画がラブストーリーだったからか、特に口数が少ない。
俺は本当にコイツのことが好きだろうか。
愛してるなんて、言ったこともなければ言う気もない。
愛なんて言葉を気安く口にする男に、俺はなりたくはない。
俺のスカイライン クーペで、彼女の家へ向かっている。
最初に乗ったクルマは、親父から譲り受けたセドリックだった。
技術の日産、オトコの日産、今も俺はそう信じている。
落ち着いたオトナの雰囲気が漂う室内。
これ以上は必要ないと思わせる動力性能。
インテリアも、特別なクルマと感じるのに十分な演出がなされている。
成熟したVQエンジン。
セドリックも、これの前のステージアも、このスカイラインも。
いつだってVQなのが日産だ。
雪がレフ板の役目を果たし、助手席の彼女が明るく照らされ綺麗に見える。
若いって歳でもないが、俺好みの顔でブスではない。
結婚すれば、この顔とも一生付き合ってゆくことになる。
笑った顔、困った顔、怒った顔、驚いた顔、泣いた顔。
コイツはあまり感情を表に出すことがない。
そう言えば、どの顔も見た記憶が無いことに気付いた。
いつも冷静に何かを考えているような表情で、言葉も選んで話す。
大きな声を出して笑うこともなく、微笑む程度。
別れ話をしたとしても、泣かずに冷めた顔で終わる気がする。
性格だろうが、感情を露わにするほど若くないからかもしれない。
出会ってそう長くはないが、お互いに経験を重ねて今の自分がある。
様々な場面で、これから知ってゆけば良いことだと思う。
山間に差し掛かった緩やかな左へのカーブだった。
注意していたつもりだが、少し気が抜けていたからだと思う。
積もる程ではないと、路面が凍っているかもしれないことを忘れていた。
一瞬、視界が予想から少しズレたような感覚。
ぬるりと浮いたように、ステアリングに従わず外へ膨らむ車体。
あっと思ったが、右車線へはみ出した。
ハンドルを左へ切り、リアが流れ出したところで右へ。
抜いていたアクセルを少し踏む。
対向車線だが、戻れる手ごたえはある。
が、そこへ降りしきる雪の中から対向車のライトが光った。
一瞬ハッとしたが、スカイラインが左車線へ戻るほうが速かった。
アクセルを緩め、ふぅっと息をつく。
スピードが遅かったことが幸いだった。
タイヤが新しかったことも、このクルマだったことも。
命を預けるクルマだからこそ、俺はこれからも日産を選び続けるだろう。
ふと助手席を見ると、彼女は目と口を大きく開き、手を前で合掌したまま固まっていた。
驚きのあまり、声も出せなかったらしい。
初めて見るコイツの驚いた表情。
こんなに目が大きかったのか。
口を開けたまま、丸い顔が縦に伸びている。
「ゴ、ゴメン」
謝ったものの、前を向きながら笑えてきた。
ダッチワイフ人形みたいで、可愛いなと思った。
Posted at 2011/01/24 16:46:30 | |
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