
僕に会う度、いっつも口ぐせのようにそう言ってた婆ちゃん。
90過ぎまで髪を結って、仕立ての良い着物を身に纏い、店を切り盛りしていた姿を僕は幼少の頃から数年前に店をたたむまでちゃんと見てました。
経営の壁にぶつかると、良く黄色いクルマ(エスティマ)で婆ちゃん家に遊びに行って、店屋物のうな重を御馳走になり、二人で他愛もない話でゲラゲラ笑って、別れ際に婆ちゃんのしわくちゃな手と強く握手をすると、悩みなんか良くわからないうちに吹っ飛んでたっけ。
いっつも“凜”として時代を駆け抜けてた強い強い女性でした。
婆ちゃんの言う黄色いクルマを、事故で廃車にするのと同じ頃、婆ちゃんはホームに入り、キリッと結っていた黒髪もあっという間に白髪となってしまいました。
廃車にした後も、婆ちゃんは僕と会う度にベッドに横たわりながらも、強く手を握り、
“黄色いクルマでどこか連れてっておくれよ。”
そう何度も言ってました。
“元気になったら日本一周、いや世界一周だって連れてってやっから”
って精一杯の笑顔で返事はしたものの、婆ちゃんの夢を壊してしまいそうで、黄色いクルマがもう手元に無い事をずっと言い出せずに。。。
そして先日、婆ちゃんは空の上に旅立ってしまいました☆
でも、婆ちゃんはすべてお見通しだった事を、旅立った後に身内から聞いて知りました。
黄色いクルマが無くなって、銀色のクルマに乗っていた事も。
婆ちゃんは黄色いクルマで四季折々の海岸線を僕と一緒にドライブしたのがすごく想い出深かったらしく、いつでも一緒に出掛けられる様にと、最期の最期までキレイな靴をしのばせていた様です。
ごめんよ、婆ちゃん。
婆ちゃんのたった1つの願いすら叶えてあげる事も出来なくて。。。
そう最期のお別れの際に、眠っている婆ちゃんに伝えて来ました。
僕にとって大切な愛車との想い出が大切な人達にとっても“心の頼りどころ”になっていた事を大変光栄に思いました。
婆ちゃん、今は銀色や白いクルマしか無いけれど、それでも良かったらいつでも僕が何処にでも連れてってあげるからね!
【おしまい】

Posted at 2012/12/05 12:15:02 | | モブログ