
3連休の最終日、所要でDにお邪魔した際に、とある1台のクルマが目につきました。
発売されたばかりの「BMW初のFF車」2erアクティブツアラーです。
心なしか駐車場も他社のモデルが多く、注目を集めていることが窺い知れました。
今回は運よく試乗することができましたので、インプレッションをお伝えしたいと思います。
なお、写真の大半は展示車の218i LUXURYですが、試乗車は218iベースグレードでした。
デザイン
「革新≦保守のバランス」
BMWはクリエイティブなモデルをリリースする際、革新>保守のバランスで絶妙なデザインを採用する印象があります。
X5(E53)や1er(E87)が登場した時もそうでした。
そう考えると、2erアクティブツアラーは全体的にはやや保守の要素が強く、同クラスに馴染むことに重きを置いていると感じます。
しかし、細部を見るとキドニーグリル上部のリップや車幅一杯のトレッド等、クラスを超えた主張も確認できます。
リアフェンダーの法規対策モールは、18インチ仕様にも16インチ仕様にも装着されていましたが、F30やi3のボディ貼付けタイプよりスマートで、これなら許容できそうです。
インテリア
「切り詰める余地がある」
全体的に良く纏められており、VWトゥーラン,メルセデスBクラス,シトロエンC4ピカソといった同クラスとの比較だと質感は頭一つ抜けていると思います。
インパネ周りのデザインはBMWに乗り慣れていれば違和感なく受け入れられる上、国産車からの代替えでも違和感がないように工夫されている印象です。
例えば、ATのセレクターが電気式ではなくストレートゲート式である一方、パーキングブレーキが電子式になっている点はスバルのようですし。
着座位置はこの高さでダッシュボードの奥行きも深く、モノスペースワゴンをを明確に意識します。
ディメンジョンの近いX1と比べると一段高く、X3に近いアイポイントと言えば分かりやすいでしょうか。
それにしても、ショートノーズにも関わらずドライビングポジションからボンネットが見えたのはBMWのセンスを感じました。
気になった点はシートのデザイン。
調整幅が広く、ポジションの自由度は高いのですが、座面の面積が絶対的に不足しています。
欧州車独特の「シートに包みこまれる」感覚がなく、身幅やダンピング性は申し分ないだけに勿体ないと思います。
M-Sportも公式写真を見る限りサイサポートアジャスタこそ装備されていますが、基本的なデザインは変わらないように思います。(現車確認できていないので何とも言えませんが・・・)
ここは是非とも改良をお願いしたいです。
乗り味
「ベーシックな欧州車の味」
走り出して最初に受けた印象は、F世代のBMWが持つ足回りとは一線を画す硬質なダンピング。
確認するとi3と同じく日本仕様はタワーパーキング対策で全車M-Sportサスを採用しているとのこと。
結果論になりますが、多人数+多積載で移動するケースを考えても、安定志向のセッティングは正解と言えそうです。
また、その入力を滑らかに受け入れるボディには驚きました。
フリクション面では不利な直3を搭載しているにも関わらず、車内はアイドリング中でもステアリングを通じて僅かに振動が伝わるだけでしたし、ボディは相当補強されていると思います。
硬質だけど滑らかというベーシックな欧州車の乗り味で、絶対的なマスに対して開口部を大きく取らざるを得ないモノスペースワゴンの構造を考えると異質に感じます。
ちなみに、ステアリングの切れ角はFRには及ばないものの取回しは容易で、実用域で不便に感じることはないと思います。
走行性能
「軽快感」
注目ともいえる、直3 1.5Lターボのパワーユニットですが、クルマの成り立ちやスペックとは裏腹に古典的な遊び心を感じました。
1500rpmまでは排気量なりの反応で、交差点や歩道の通過時にはアクセルワークに気を使う必要があります。
しかし、実用域の2000rpmからは徐々にパワー感が伝わり、ターボの効きを強く意識します。
回転自体は5000rpmを超えると頭打ち気味になりますが、レブリミット"付近(後述します・・・)"の6800rpmまで雑味なく回ります。
特筆すべきは2500rpm~4500rpmで、NAとは違う荒々しいレスポンスと共に、アクセルのON/OFFでリサーキュレーションバルブ開放の音がハッキリ聴こえます。
エンジン屋の意地が垣間見えるこの領域は、小排気量ターボ故の特性を逆手に取った面白い味付けだと思います。
外部に聴こえるエンジン音は粒の大きさで直3と分かる程度で、音環境,サウンドデザインの賜物でしょう。始動時のセルモータ音も含めて軽さは全く感じません。
同じく注目のFFパワートレインについては、3気筒との相性の良さを感じました。
試乗車が16インチ仕様ということもあってか、重心の高さこそ意識しますが、ハンドリングを含めた軽快なフットワークが印象的でした。
試乗コースの範囲ではコーナリング中は弱アンダーに終始し、安心感のあるものでした。
BMWとしては軽いセッティングのパワステや、硬質な足回りに因る部分もあると思いますが、鼻先の軽さが大きく効いているのでしょう。
・・・と思い車検証を確認すると、車重1460kgに対して前軸850kg,後軸610kg。つまり前後重量配分は58:42でした。
FFとしては「後ろ寄り」なセッティングで、エンジン横置きで成立させているのはユニットの重量が効いている証拠です。
一方、残念だったのがATのセッティングです。
レスポンス自体は悪くなく、シフトプログラムも絶妙なのですが、前述のようにレブリミットまで引っ張る前にシフトアップします。SPORTモードでも同じ特性でした。
確かに回転は頭打ち気味ですし、クルマのキャラクターを考えれば正しい方向とも言えそうですが、折角のレブリミット7000rpmを活かしてほしかったです。
確認してみるとサプライヤーがZFではなくアイシンAWとのこと。
個人的にはBMWにはZFが合っていると思うのですが・・・。
総評すると、ローバー75,MINIと研究を続けてきたBMWのFFに対する回答はあくまでもドライバーが主役と言えそうです。
直3+FFの組合わせは想像以上に軽快でしたし、「飛び道具」を一気に世に問うた理由はよく分かりました。
このエンジンをリッター100PS程度にチューンしてZFスポーツATと組合わせると・・・
スペース効率をより追求すれば、同じ室内空間で一層運動神経の良いモデルになりそう・・・
このような想像が絶えず頭を過っていました。
現時点での選択肢は前述のシートの件もあり「直3+M-Sport」の一択だと思いますし、やはりカタチは違えど血は争えない気がします。
個人的にはLCIでどこまで熟成されるかとても興味深いです