2010年08月30日
わが家では3Dテレビどころか、地デジ放送も受信できない。特に最近は画面の上下に黒帯が入り、文字も小さくなり、だんだんと見にくくなってきた。官民挙げて、買い換えを促すための嫌がらせだと思うが、そうなるとますます買い換えるものかと意固地になってしまう。
ところで3Dテレビであるが、立体視が出来るのは限られたソフトだけで、普通の放送を見ても平面のままである。しかし、簡単にアナログ放送であろうとも、立体的に視られる方法を紹介しよう。この方法は高原や海、山からの眺望でよく効果が現れるようだ。立体視には両目が必要と思っているかも知れないが、両目で見ると画面の距離が分かってしまうので、どうしても平面的に見えてしまう。それで、片目で視ると、不思議なことに画面に奥行きが出てくるのだ。
つまり、両眼視による距離情報が脳に送られないため、画面の遠近法だけが情報になるので、立体的に視ることが出来る。だからこの方法は、さざ波のある海や、家が建ち並ぶ通り、草原がこの条件に合っているので、きれいに3Dで視ることが可能だ。
貧乏人の浅知恵と思うかも知れないが、これは脳の視覚情報処理を利用した方法である。つまり3Dテレビは人間の錯覚を利用した技術だから、この方法も同じカテゴリーである。
Posted at 2010/08/30 18:06:19 | |
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その他 | 日記
2010年08月28日
「見なさい。」
「なにをですか?」
「あの男だ。」
「どうって事の無さそうな人ですが。」
「だから、君は注意力が足らないね。」
「手に何を持っているかね?」
「傘ですが。」
「空が晴れているのにだ。」
「それくらいはするでしょう。」
「神経質な男だとおもわないか?」
「傘は拾ったのかも知れないです。」
「拾ったら届けるだろう。交番を探しているようには見えない。」
「はあ。」
「こんな時によくのんびりできるねぇ。」
「こんな時と言いますと?」
「勤務時間だ。」
「はあ、でも人が来ないものですから。」
「それでも、何かしなくてはだめだ。」
「はあ。」
「昔、聞いた話だが、時間が余ったら、掃除をしたそうだ。」
「はあ。」
「それから、家のお使いもしなくてはいけない。」
「お使いですか。」
「もっと暇なら、どこかへ派遣したいくらいだが。」
「はあ。」
さっきの男が、医院の前で立ち止まった。どうやらこちらへやってきそうである。傘は玄関の傘立てに置いたみたいだ。それで、院長との話はそれっきりになった。
(続く)
Posted at 2010/08/28 14:25:52 | |
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小説 | その他
2010年08月23日
患者が来ない間に、院長がパソコン画面を見て、なにやらメモ紙に写している。さては何か良い治療法でも見つけたかと思ったけれど、ジンとかウイスキーとか書かれていた。
昔の薬にはお酒が入っていた。院長が医者になった頃には食欲増進剤として、ワインリモネーデという薬が日本薬局方に登録されていたが、今でも有るのか分からない。使い方としては、病気で食欲の無くなった患者に、飲ませるわけだが、いわゆる食前酒と同じ発想である。ただし、お酒の好きな人なら、次はビールもほしくなると思うが、それは日本薬局方には載っていないのである。病院でそれの代用になりそうなものには、消毒用のエタノールがある。お酒の仲間には違いないが、患者に飲まれては困るので、味付けになにやらまずいものが含まれていると院長は言っていたが、勝手に職員が飲まないように、脅かしているのかも知れない。
まだ院長は、画面を見ている。熱心にお酒の事を調べているのだから、かなり酒が好きに違いない。カクテルの作り方を見ていたようだ。私はカクテルと飲むと頭が痛くなるので、昔から苦手である。おまけにいつもまにか、口も足ももつれて、変なことになってしまったこともある。
私は高校を卒業してから、地元の食品販売会社に就職した。その日は仕事が忙しく、疲労回復に同僚の能美杉さんから食事に行こうと誘われた。近所の居酒屋でお腹いっぱいになるまで、ビールとおつまみをいただいた。そろそろお開きかと思ったが、能美杉さんは飲み直そうと言うので、タクシーに乗って繁華街へ連れられて行った。片町は私にとっては初めての場所だったけれど、能美杉さんは慣れているらしく、ベリーグットバーというお店で飲むことになった。店は外から見ると狭いように思ったが、中は薄暗く、広く感じた。私は音楽の事はさっぱり分からない。こういうお店ではジャズが流れているらしいが、何を聞いても同じ曲に思えた。マスターは小柄な人で50歳くらいに見えた。「メニューをどうぞ。」手渡されたメニューはカタカナばかりで、全く分からないのでお任せにした。しばらくすると、グラスにライムが載った赤い飲み物が目の前に出された。カクテルの名前はブラッディーマリーというそうだ。ライムを搾って入れると更に口当たりがさわやかである。それを2,3杯程おかわりをした所まで覚えているが、その後、何を飲んだか記憶が無い。能美杉さんが帰ろうと立ち上がったが、私はどうしても立ち上がれないのである。どうやっても足に力が入らなくて私は焦りはじめた。時間稼ぎをしたくて「もう少し後に、帰りましょう。」と言ったつもりだが、能美杉さんには良く通じなかったようだ。後日聞いたら、「もっとしっかりしたかえるをたべましょう。」と聞こえたらしい。
「帰りましょう。」と私が言ったらしい。
その次の瞬間、大きな音が聞こえたそうだ。
能美杉さんが驚いて横を見たら、私が消えていた。
なんてことはない足に力が入らなくて、立ち上がろうとした瞬間に床に倒れてしまったらしい。能美杉さんはそのあとタクシーを拾い、アパートへ運ぼうとしたらしいが、タクシーの中で気がついた私は歩いて帰ると行って聞かないので、降りることにした。タクシーから降りると突然、私は走り出し、車道に飛び出そうとするのでなんとか抑えこんだそうだ。そのあと何かあったらしい。翌日見たら、その時に着ていた服はポケットが取れていた、身体のあちこちに擦り傷があった。その後、能美杉さんは詳しいことは話してくれないし、私も怖くて聞けなかったので、詳細は謎のままである。
(続く)
Posted at 2010/08/23 11:59:20 | |
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2010年08月17日
医院の中庭には高さが2,3mの小さな木が植えてある。春になると赤と白のくっきりした花が咲くらしい。患者の中には桜ですかと聞いてくる人が多くて、そのたびに違いますと言うのも煩わしいので、院長は、幹の真ん中あたりに名前を書いた札を掲げておいたが、そのうちに札は腐って無くなってしまった。そうしたらまた、この木は桜ですか?と聞かれるようになり院長は閉口していた。
院長の生家はいくらかの土地を所有していたが、戦後に目減りした資産をなんとかしようと不動産会社を始めた。しかし、家業を手伝えと口やかましく言う父親とは考えが合わなかった。35、6歳の頃、院長は大学病院に勤めていた。ある時、父親がそこの教授に、将来は息子を私の会社を継がせたいので、その時はよろしくと手みやげを持って挨拶に現れた。そのせいかどうかはわからないが、やがて院長は地方の病院に左遷されてしまったそうだ。悪いことは重なるもので、その頃から母親の病気も思わしくなく、開業の直前に死んでしまったらしい。
12時になると、院長はきちんと医院の2階にある談話室へ行き、時間通りに昼食を摂っているようだが、いつもひもじそうに見える。12時を5分から10分くらい過ぎた時分が一番お腹が空くらしく、むしゃくしゃしているように見えた。しかし、30分を過ぎると、今度は眠たくなるらしく、あくびを続け様にしている。
院長の名前は大助と言うのだが、貧助か病助のほうが似合っている。ついこの間も「ダイエットでもしているのですか?」なんて探りを入れてみたところ、「そんな健康に悪いことはやらない。食べないと不健康だ。」と言う返事だった。
食べても太らないのは不健康じゃないのかしらと思ったが、それ以上は言うのはやめた。
空高くに4,5個のねずみ色の雲があり、その影が時々、医院の上空を通る。まだまだ暑い夏の午前中。どんなに暑くても寒くても、雨が降っても自転車でやってくるIさんが大きな声で挨拶をして現れた。話し好きのIさんの話を聞いて、院長は2,3の質問をすると、「変わりは無いみたいですね。今の調子で頑張ってください。」内科の病気はほとんど変わりがないのが普通である。院長の話をだまって聞いていたが、いつも話す言葉はほぼ一緒だった。それで大丈夫かしらと思ったが、別段問題は起きていないようである。
Posted at 2010/08/17 15:28:18 | |
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2010年08月16日
医院の前には、ずいぶん古そうな地蔵が3体並んでいる。この近辺で災害があったのでその守りかも知れない。そういえば、この辺りは荒川という暴れ川があったらしい。いまではおとなしくなって田圃に水を運んでいるようだが、いつまた暴れ出すかわからないからだ。おかげでこの辺りの住民は健康に恵まれて、医院もそれほど繁盛していない。
私の見たところ、院長は患者を診ている合間に、なにやらノートパソコンの前で、カタカタと書き物をしているらしい。時折、あれ、とか、なるほどね、などと独り言を言っているから、仕事じゃないかも知れない。じっと院長のやることを後ろから見ていたら、私に気がついたようだ。
「ずいぶん慣れましたか?」ぎろっと眼鏡の奥から私の目の中をのぞき込んできた。いきなり振り向かれて驚いたが「いえ、まだまだです。」と答えた。
「それなら、いまからセミナーをするから時間は良いかな?」
「あ、はい。わかりました。」
「他の職員を薬剤室に集めてくれ給え。」
と院長は椅子から立ち上がるとそう言った。
セミナーとは元々ドイツ語のゼミナールが変化した言葉で、本来は大学で少人数の学生を集めて講義をすることであるが、院長は教授になったつもりで私たちに教えてくれるらしい。
薬剤室は医院のちょうど真ん中にある4畳半くらいの部屋で、薬置き場になっている。そこで院長は2枚くらいの紙をみんなに配った。どうやら院長が何か書いていたのは、セミナーの資料のようだ。
「あー、途中で中断されると困るから、手短に行うが、今日は清潔についてである。」
職員たちは立ったまま、黙って聞いていた。私には医学の知識がないので、半分はちんぷんかんぷんである。後の半分がわかっても、全体にしたらやはり半分くらいはわからない。
質問をしようと思ったときに院長が、
「今日のセミナーは簡単だったと思うけどわかったね。」と言われて何も聞けなくなってしまった。そう思って渡された紙を見たら、細かい所まで説明してあったので、思わず
ふーっとため息が出てしまった。
院長は私の方を一瞥したが、これにて終了みたいな事を言って診察室へ戻っていった。
暇な時間は何をしても良いらしいが、職員たちは、診察に使った器具を洗ったり、薬の在庫の確認をしたり、なかなか忙しそうである。しばらくするとみんな暇になったので、私より少し前に働き始めたMさんに小声で聞いてみた。
彼女はこの前の職場は女物の洋服を販売していたが、そこの女店長ににらまれて、少しも気が休まらなかったらしい。それに比べればここはマシな方だみたいな事を言っていた。
「あのー、ここの院長ってどんなキャラですか。」
「そうね、一言で言えば、痩せた馬ね。」
なんだか動物にたとえるのはわかりやすいようでわかりにくい。
「もっとわかりやすく言ってください。」
「痩せた馬は、お腹が空いているから、落ち着きがないでしょう。院長もそうなの。それから、品格を大事にしなさいとか、品がないとか、ヒーンヒン言うから馬なのよねー。」
私はおかしくなったけれど、近くに院長がいるので、何とかそれをこらえた。
Posted at 2010/08/16 10:16:46 | |
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