2010年06月09日
音楽を圧縮して聴く・・・MP3の話
HMV渋谷店が閉店するニュースには驚いたが、CDの売り上げが落ちていることが原因のようだ。反面、音楽ソースのネット配信は徐々に増えているとのこと。実際、CDをそのままプレーヤーで再生することは少なくなり、ほとんどの方は圧縮された形の音楽ソースを楽しんでらっしゃることと思う。
一昔前までは、カーオーディオでも、趣味として楽しむなら「圧縮はご法度」とされてきた。音質を向上させようと、ウン万円もするケーブルに投資するような熱心なオーディオファンにとっては、圧縮による音質の劣化など許されるはずもない。しかしながらiPodに代表される携帯型音楽プレーヤーの普及に伴って、状況は少しずつ変わってきたかにみえる。
どんな環境であれ、できるだけ高音質で楽しみたいのは人の子として当然だ。しかし、車の中で音楽を楽しむ以上、ある程度の妥協は必要である。音楽を流しているときはつねにエンジン音、周囲の雑音が混入する。極めて狭い車内は間接音のコントロールが難しい。はっきりいって、理想とは程遠いリスニング環境である。そのなかで、1%、いや0.1%程度の音質差を論じることは意味があるのだろうか?ということだ。これは、アンプやケーブルに関する過去のブログでも私が主張してきたことである。つまり、劣悪な環境での"妥協点"として、圧縮音源を選択するのも一つの選択なのではないか?ということである。
音楽の圧縮フォーマットはたくさんある。デファクトスタンダードになった、というよりなってしまったMP3(MPEG Audio Layer-3)だけでなく、Ogg VorbisやAAC、WMAなど、いろいろだ。「どれが高音質か?」という議論もあるだろうが、基本的にはハフマン符号化や高域成分のカット、マスク効果による圧縮が基本だろうから、個人的にはどれも「五十歩百歩」なのではないかと思っている。本質的には後発のフォーマットのほうが有利であるが、エンコーダーの開発に費やされている人的エネルギーや、汎用性の観点から考えると、特にこだわりのない限りMP3を選ぶのが自然というところだろう("ライセンスフリーでない"という点が若干気になるのであるが)。
MP3のエンコーダーとしては、現時点ではLAME(レイムと読む)以外に選択肢の余地はなかろう。私はiTunesのようなコンテンツ管理ソフトは使わないので、Lame Ivy Front Encoder (LIFE)をLAMEと組み合わせて複数のWAVファイルを一気にエンコードしている。ちなみにWAVファイルの取り込みは古くから使っていて慣れているということで、B:s Recorder GOLDを、タグの編集にはSuper Tag Editor、もしくはSuper Tag Editor (改)を愛用している。LAMEにはさまざまなオプションがあり、初心者は使い方に悩むことだろう。LAMEについての解説はあちらこちらにあるだろうが、AnonymousRiver氏のサイトが特に詳しく、高音質再生に関する情報も豊富だ(ただし、現在は休止中である)。
さて、問題はどの程度まで圧縮するかだ。一般には128kbpsのビットレートに圧縮することが多いようだが、このレートはディープなオーディオファンには酷評されている。ただ、一部の酔狂なオーディオマニアの意見、「聞くだけで気持ちが悪くなる」とか、「高域と低域がすっぽり抜けてからっぽの音になる」といったような、思い込みだけで書いているような極論には耳を貸さないほうがよい。果たしてこの128kbpsのMP3は、それほどまでに音が悪いのだろうか・・・
肩の力を抜いて、レートの高いファイルから順に聞き比べていくと、256kbps, 192kbps, 160kbps, 128kbpsまではほとんど変化を感じないであろう(このほとんど・・・というのが微妙だが、あくまで一般の方々の場合である)。ところが128kbps以下になると、誰でも気づくほど音が極端に劣化する。周波数帯域でいうと、上限が15kHzから12kHzになると、音の印象ががらっとかわるのだ。ちなみにFMラジオ(テレビ)の帯域は上限が15kHzである。15kHzというのは、人間の耳にとっては非常に重要な周波数であると言えるのかもしれない。128kbpsの場合、上限周波数は15.2kHzなので、その意味で、「ふつうは128kbpsで十分」という主張は説得力がある。
とはいえ、それなりに再生環境に気を使っているオーディオファンなら、上限15kHzにはちょっと満足できないだろう。CDには本来、22kHzまでの音声信号が格納されているのである。では、どの程度までレートを上げればよいのか。固定ビットレート(CBR)でエンコードしたMP3ファイルにおけるビットレートと上限周波数の関係は以下のとおりである。
ビットレート 上限周波数
128kbps 15.2kHz
160kbps 18.0kHz
192kbps 21.3kHz
256kbps 22.0kHz
20kHzを求めるとなると、192kbps以上なら安心できそうだ(ちなみに音声圧縮について上限周波数だけで議論するのはあまり良くない)。
どこかで読んだが、一般的な人の場合、128kbpsのファイルでも音の違いに気づく確率は5%程度だそうだ。つまり、95%は音の違いに気づかないのである。ちなみにこれは再生環境が理想に近い(音がよい)場合であって、カーオーディオの純正スピーカーで聴いた場合や、iPod+付属イヤーフォンのなどの場合、判別できる比率はもっと下がる。対して、聴力の優れた人(音楽を職業にしている人)だと、5%判別の限界値が192kbps程度になるらしい。もちろん、非常に静かな環境で、注意深く特定の部分に注目して音の差を見つけ出そうとして聞いたときの話であって、音楽を楽しんで聞くときの話ではない。ちなみに有意差を見るために検定を行う際には、5%(95%)という数字は一般にはよく使われる"しきい値"であるので、この議論はそれなりに妥当であると思われる。
インターネットをあれこれ調べるよりは、自分自身の耳の能力をきちんと見極めることが大切だ。そこで、以下のような簡単なテストを実施してみた。比較的ワイドレンジの曲を選び、LAMEを用いて固定ビットレート(CBR)のファイルをレートを変えていくつかエンコードした。128kbps, 160kbps, 192kbps, 256kbps, 320kbps。加えてエンコードしないWAVのファイルも用意した。これらをCD-ROMに焼いて車内で再生して、適当に何度かサーチボタンを押して、「音がちょっと違うな」と思ったところで目を開けるという簡単な確認するテストを行った。実際に聞いているファイルがわかるように、ビットレートをファイル名に書いておき、HUのディスプレイに表示させるようにした。現在試聴中のファイルは、目を開ければすぐに確認することができる。
テストの結果であるが、何度か聞いているうちに128kbpsはかなりの確率で違いに気づいた。イントロ部分のピアノに付帯音がつくのがわかったのである。160kbpsは気づかないこともしばしば。それ以上のレートの場合、私の耳では残念ながらもとのファイル(WAV)との違いを判別できなかった。
かなり大雑把なテストだが、自分の場合は192kbps以上なら問題なさそうだ、ということがわかった。で、結果としては、ほぼ同じ圧縮率の可変レート(VBR)を使っている。LAMEの場合、オプションに -V 2 を付ければ、190kbps前後でエンコードされる。自分の耳ではよくわからないが、CBRの192kbpsよりもこちらのほうが音がよいそうだ。ファイルの大きさは元のWAVファイルの1/6程度になる。
最近はUSB端子にハードディスクを接続できるHUが増えてきた。HDDなら、WAVのままでよいのでは?という意見もあろう。もちろん、それも一つの方法だが、自分の耳で気づくか気づかないか、ぎりぎりのレートでエンコードして聴く、というのも、ひとつの楽しみなのである。ファイルサイズの大きなWAVEフォーマットでHDDに詰め込んで車内に持ち込むのは、なんとなくスマートじゃない気がするのだ。
もちろん、「エンコードが面倒だからWAVのままで聞く」とか、「心理的にMP3にはどうしても抵抗があるのでWAVを使う」と言うというならそれはそれでかまわないと思う。ただ、WAVに拘る人たちは、自分たちこそが真のオーディオマニアであるという自負心が強く、MP3を楽しむ音楽ファンを蔑む傾向が強い。「糞耳にはMP3で十分」「MP3を使うなら安物の機器を買え」などというのは、まったくの暴言である。
ここは声を大にして、「音楽を楽しむ分には圧縮された音源でもまったく問題ない」と言っておきたい。音質劣化が非常に少ない圧縮フォーマットの登場は、音楽を楽しむ環境を大きく変えた。音声圧縮ソフトウェアの開発者、高音質なエンコーダーの開発者たちに、心から敬意を表したいと思う。
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Posted at
2010/06/09 04:23:33
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