
海外に輸出するクルマは事故歴の有り、無し、走行距離の改ざんなど関係無い。
それどころか現状の事故車だって立派な商品になる。バラバラにしてパーツとしてコンテナに詰め込み向こうで組み立てる。その方が税制的に有利だからだ。バラバラにするなら現状事故だって問題無い。
事故車を目の前にすると、いつも思い出すクルマがある。20年以上前の話です。
「おい!RAY!明日、時間空けとけよ?クルマ見に行くからよ。大学、休みなんだろ?」
いきなり電話を掛けてきたのは昔から苦手なI先輩だった。彼は高校を出てから中古屋でバイトで雇われていた。高校時代は偉そうにしてたが社会に出て現実を知り、変な形にひねくれたタイプ。
「S商会の社長がな、高そうなパーツ付きの事故車が入ってきたから好きなパーツ取ってイイってよ。格安だぜ?転売出来るわなww」
(ハイエナみたいな奴だな・・・) 口には出さなかった。
「あんまり気乗りしないですけどね。」と僕が言いかけた時にI先輩は間髪入れず話続けた。
「クルマ、何だと思う?ポルシェだぜ?wそれも911ターボ!どう?見たいだろ?w」
つまり、彼は僕にポルシェに付いてるパーツをレクチャーしろよ?ということらしい。クルマ好きは先輩達の間でも有名だった。
次の日、I先輩が家まで迎えに来た。汚くてセンスの無いハチロクだ。
車内ではデカイ音量でブルーハーツを聞かされる。昔から変わりゃしない。
「しっかしRAYよぉ、アホな奴だな?ポルシェのオーナー。金持ちなんだからポルシェをチューンなんかしないでパーティーでも行ってりゃイイのによw女なんていくらでも抱けただろうによw」
「200キロオーバーで高速で激突したらしいわ。即死らしいわw」
「まぁ、俺とは無縁の世界の人間だからなw横にオンナ乗っけてオシャレな洋楽でも聞きながら○○でもしてたんじゃねぇの?www」
I先輩はよほど金持ちが不幸になったのが愉快だったようだ。ポルシェに妬みもあったんだろう。

写真はイメージです。
S商会に到着し、911ターボを目の当たりにした時、愕然とした。大破だった。前もって聞いて無ければこのクルマが911とは誰も思わない。エアバッグも無い時代だ。ドライバーが無事なワケがなかった。
「S商会の社長、格安でパーツ売るったってよぉ金になりそうなもん外側には無ぇなぁ。」
「RAYよ、そっちのドア開くか?ちょっと車内見てくれや。」
助手席側から車内に入る。軽量化とロールバーで素っ気ないポルシェらしくない車内。
この人はポルシェで本気で走ってたのだろう。例え、それが非合法であっても悪であったとしても、当時の僕にはカッコ良く見えた。
本気のポルシェ乗り。
高速で非合法な速度で事故死。
僕とは違う世界の人だ。何一つ共通点など無いんだろう。I先輩となど絶対に無いに決まってる。
「RAY、何にも無ぇなぁ。しゃーねーな。カーオーディオ貰って行こうぜ。」
車内にはカセットテープが散乱していた。
「ついでに、それも持って帰ろうぜ。コイツ、何聞いてたんだ?」
カセットのラベルには一つ一つアーティストの名前が記入されていた。それをI先輩が全て拾い集めた。
「ほとんど洋楽ですね。先輩、興味無いでしょ?」僕の問いに先輩は黙っていた。一つのカセットテープを見つめながら。
そのカセットテープのラベルには”ブルーハーツ”と記入されていた。
その日、I先輩はポルシェから一切、パーツを外そうとしなかった。
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2012/12/09 02:05:20