
ああそうか、パジェロはSUVじゃなくクロカンだった。
三菱パジェロ(ロング)スーパーエクシードに乗り始めて数分、右の肘をドアに何度かぶつけたところで、このことを思い出した。フロントシートが外側に設置されていて窮屈なのだ。けれど、大きなクルマなんだからもう少し左右のシートを内側に寄せればいいのに……などと不満を漏らしてはいけない。パジェロはわざわざフロントシートをできるだけ外側に設置しているのだ。パジェロは日本でこそ、ほとんどがSUVっぽく使われるが、行くところへ行けば、それこそ命を託す相棒。ほんの数センチでも狙ったラインを外せば崖下へ落ちるようなシーンも走らねばならない。そういう場面では、窓を開け、身を乗り出し、右フロントタイヤの位置、角度を直接目視しながらクルマを進めるのが、オフロード走行のセオリー。そのため、パジェロだけでなく、ジープ・ラングラーだって、高級SUVに生まれ変わる以前のランドローバー各車だって、フロントシートはできる限り外側に設置されているのだ。
突然ですが、『Bagnole』は、現状iPadをお持ちの方にしか読んでいただけません。「他のデバイスでも読めるようにしてほしい」というご意見を多数いただきますが、一方で「内容や雰囲気がわからないから『Bagnole』を読みたいかどうか判断できない」というご意見もいただきます。なので「僕らはこんな記事を載せます。例えば、パジェロだったらこんな風にインプレッションします」ということをわかっていただくため、ここにパジェロのインプレッション記事を載せました。「iPadをわざわざ買ってでもすぐ読みたい」と感じるか、「興味はわいたが、他のデバイスで読めるようになるまで何ヶ月か何年かわからないが、待とう」と感じるか、「読まないでいいや」と感じるか、判断の参考にしてください。なぜパジェロか。たまたまです。それでは続きをどうぞ。
フロントシートが外側に設置された副産物として、コンソールボックスとその蓋を兼ねたアームレストは大きい。これは、だから最初のドライブで、往路は互いの手がちょっと触れただけで恥ずかしくて引っ込めていたのに、復路ではそれをきっかけに、ぎゅっと手を握り、手を握るだけじゃ我慢できなくなって……という恋愛ゲームの場として大きめに設定されているわけではない。ただし、あなたがようやく誘った助手席の女性が「この真ん中の箱はどうしてこんなに大きいの? こんなに大きくなくていいから、シートをもう少し内側に寄せてくれればいいのに」と言ったとしても、「いいかい。パジェロはSUVじゃなくクロカンなんだ……」と、まだチューもしてないのにうんちくを披露してはいけない。「そうだよね」と答え、間髪入れずに「そういえばさぁ……」と話題を変えよう。
久しぶりにパジェロに乗って、コンソールボックスのことを書きたかったわけではない。今回借り出したパジェロには、3.2ℓ直4のディーゼルターボエンジンが搭載されている。最高出力190ps/3500rpm、最大トルク45.0kgm/2000rpmのパワースペックは、3.8ℓV6のガソリンエンジンに比べ、最高出力が62ps下回る代わり、最大トルクは10.5kgm上回る。体感上の力強さは最大トルクの値によるところが大きく、だからディーゼル・パジェロはガソリンエンジン搭載車に比べ、相当速い。2.2トンを超える車体をグイグイと前へ進める。
ただ、音はうるさくて、始動直後には振動も感じる。「最新のクリーンディーゼルはパワフル、静か、かつ振動も少ない」といった記事をどこかで目にし、おかしいじゃないか! と感じた方もいらっしゃるかもしれないが、おそらく、それらはメルセデスのE350ブルーテック、もしくはML350ブルーテックの記事のことだろう。あちらは6気筒だし、そもそも車両価格が約800万円のクルマだ。800万円以上の値をつけるなら、ディーゼルだろうが、石炭だろうが、高いレベルの静かさと振動の少なさが要求される。そこへもってくると、476万7000円のパジェロは、決して安くはないが、プレミアムブランドではない。開発者だって「カッコいい」「高級だ」と言われるより「質実剛健だね」と言われる方が本望だろう。だからガソリン車と間違えるほどの“音・振対策”は施されていない。
ところで、ディーゼル・パジェロが日本で売られるということは、このディーゼルエンジンは最新の排ガス規制「ポスト新長期規制」をクリアしているということ。この規制は世界で最も厳しい規制であり、クリアは容易ではない。欧州勢自慢のディーゼルモデルがほとんど入ってこないのは、この規制をクリアできないからだ。正確に言えば、小さな日本市場のために多大なコストをかけてまで対策する意味がないからだが。現在、日本市場でポスト新長期規制をクリアし、販売しているディーゼル乗用車は、国産車では日産エクストレイルとパジェロのみ、輸入車ではメルセデス・ベンツのE350とML350のブルーテックだけだ。これはハイブリッドに非常に優しく、ディーゼルに厳しい国策の結果。ここで、この政策が間違いであるというつもりはない。政策によって、日本には数年前までディーゼル乗用車がいちモデルもない時代が続いていたが、その代わり東京の大気汚染は確実に改善された。
クルマ好きは、ディーゼル乗用車のドライバビリティを経験したくて、ディーゼルのラインナップの拡充を日本メーカー、あるいはインポーターに望むかもしれないが、日本でのクルマの主な使われ方を考えると、今後もヨーロッパ並みにはディーゼルラインナップは充実しないだろう。けれども、クロカン、パジェロにはディーゼルがよく似合う。用途としてもマッチする。助手席の彼女との距離が遠いパジェロ。それなりにうるさくて振動もするが、トルキーなパジェロ。安くはないが、10年間、ヘビーデューティな使い方をするのであればリーズナブルな価格のパジェロ。結構よかったな。また借りて乗ろ。
いかがでしたでしょうか。繰り返します。これは『Bagnole』がどういう内容かをわかっていただくために掲載したもので、パジェロを借りたはいいけれど、タイミングが合わず本誌に掲載しそびれた原稿を復活させたわけではありませんので、ご注意ください。
Posted at 2011/01/29 20:07:26 | |
トラックバック(0) |
クルマの記事 | 日記