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今回はDジェトロニック制御のスロットル補正について書きます (^o^;
先ず、Dジェトロニック制御とは何なのでしょうか?
Wikiにはこう書いて有ります↓
D ジェトロニックとは吸入された空気量を直接計測するシステムではなく、
圧力センサーで計測したスロットルボディ付近の吸入空気圧を基本データ
とし、吸気温センサーで計測した吸入空気温度とスロットル開度センサー
からのスロットルバルブ開度の情報を補足データとして、吸入された空気
量を予測する。
ついでに↓
Lジェトロニックとは吸入された空気量をエアクリーナーとスロットルボディ
の間に装着したエアフローセンサーで直接計測することで、吸入空気量
を基本データとして燃料噴射量を決定する。
エアフローセンサーは、初期タイプではフラップ式の物が使われていたが、
これだと吸気管内での抵抗になるため、ホットワイヤー式やカルマン渦式
のエアフローセンサーが採用されるようになった。
吸入空気の脈動による計測誤差が少ないので、気筒数の多いエンジンに
採用されることが多い。また、吸入空気を過給するターボチャージャーや
スーパーチャージャーを装着させたエンジンにも向いている。
なるほど、上手に書いて有りますね。若干の異論も有りますが・・・(笑
ゴキ流にDジェトロ制御の燃料噴射量演算概念を整理すると↓
①一定周期毎にエンジン回転数と吸気管圧力を読み込んで、適切な
基本噴射時間を基本噴射時間Mapから求める。
②同時にその時のスロットル開度を読み込んでスロットル補正Mapから
求めた補正係数を乗じる。
③更に吸気温や水温の補正値を乗じる。
※話を分かり易くするために過渡補正は除外しています。
ここで質問です! どうして②スロットル補正が必要なのでしょうか?
今回はこれをテーマに話を進めたいと思います。
③の必要性はいまさら説明する事も無いと思いますので省略 m(__)m
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では、本題に入る前に、少し復習(予習?)をします。
画像の基本噴射時間Map(通称;燃料Map)はあるメーカーHさんにて丁寧
に現車セッティングされたBNR34_Dジェトロ仕様ライトチューン車輌の一部
分のデータです。
横軸はエンジン回転数、縦軸は吸気管圧力で1工程当たりのインジェクター
の噴射時間(μs)を示しています。
先ず、上側の表についてデータをよく観察すると、
吸気圧力が高くなるほどに噴射時間が長くなっている事に気付きます。
何故そうなるかを理解するためには、シリンダー内に充填される空気の量
がどう変化するかを理解する必要が有ります。つまり必要な燃料量はシリ
ンダーに充填される空気の量に拠って決まるからです。
ひとつの気筒がひと仕事(2回転で1工程)する際に、吸気圧力が高いほど
空気が沢山充填される事は容易に想像できると思います。この傾向は回
転数が1000rpmでも4000rpmでも変わりません。
また、1回転当たりの空気の充填量も1000rpmから4000rpmまでそんなに
極端には変わりません。(事例のデータは変わらなさ過ぎですが・・・汗)
つまり充填効率は吸気管圧力に対する依存度が強いのです。
但し、空気や燃焼ガスは質量がありますので、(表には示していませんが)
エンジン回転数が7000rpm以上では空気の流れるスピードが追いつかな
くなるため充填効率は急低下してきます。
また、作用角の大きいカムを入れた場合のアイドリングや極低回転域など
も吹き抜け等により充填効率は低下します。
次に下側の表について、
これは基本噴射時間を1工程当たりの噴射時間比率に変換したものです。
例えば↓
1000rpmは(1/(1000/60))×2×1000=120ms、4984μsなら4.2%
4000rpmは(1/(4000/60))×2×1000=30ms、5001μsなら16.7%
つまり燃料の回転当たり噴射時間(μs)はエンジンのトルク、回転当たり
噴射率(%)で表せば出力(仕事量)を示すイメージになるのです!
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ようやく本題に入ります!
例えばこのBNR34_D車輌を
4速1000rpmで走行している際に軽くアクセルを踏み込んで加速したとします。
イメージ的にはスロットル開度30%程度での緩い加速。
この時のMap軌跡をピンク塗部分で示します。(上表)
緩い加速ですが、吸気管圧力はほぼゼロを示しています。
今度は4速1000rpmからフルスロットル(開度100%)で加速したとします。
この時の軌跡をライトグリーン塗部分で示します。(下表)
2750rpmからはターボの過給が始まり正圧に入って行きますが、2500rpmまで
は吸気管圧力ゼロでスロットル開度30%の時と同じ軌跡を辿ります。
つまり2500rpmまではECUの計算上の基本噴射時間はスロットル開度30%も
100%も同じ燃料噴射量となってしまう訳です。
なんか変ですね???
そうなんです。実際にはスロットル開度100%の方が吸入空気量(充填効率)が
多いので燃料量が変らなければスロットル開度100%の方は空燃比が薄くなっ
てしまいます。
例えばスロットル開度30%時の空燃比が14.5だったとすれば、スロットル開度
100%時は空燃比16.0程度になってしまいます。(数値はエンジンによって異な
ります。)
実際の場面を想像して見ましょう。
・貴方は上り坂を4速2000pm、スロットル開度30%で走行していますが、速度
が落ちてしまいそうなのでアクセルをゆっくりと全開まで踏み込みました。
しかしエンジントルクは上昇せず、逆にエンジンがガクガクしてまともに走れな
いので、仕方なくシフトダウンして坂を登りきりました。
ここでの問題は、トルクを出そうとアクセルを踏み込んだにも関わらずエンジン
のトルクが低下してしまう。即ち、空燃比が状況に応じて上手く適合できていな
いと言う事が原因です。
では、どうすれば良いのでしょうか?
<対処>
・基本噴射時間Mapを作り直す。つまり低回転域の吸気管圧力ゼロの噴射時
間をスロットル開度100%時に空燃比が14.0程度となるように見直す。
<課題>
・但し、この場合はスロットル開度30%時の空燃比は12.5前後となってドラビリ
(Driveability)に支障は無いが、燃費悪化、燃焼室やマフラーの汚れなどの
弊害を生じます。
そこでスロットル補正の登場となるわけです。
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この表はスロットル補正Mapの一例で、同じ車両BNR34_Dのものです。
この表を見るとスロットル開度90%以上を基準(補正ゼロ)としてスロットル開度
が小さくなるほどにマイナス補正(減量)されている事が分かります。理由は上で
説明済みですね。
(スロットル開度0.0%や5.0%で減量値が少なくなっているのは基準とする
基本噴射量が元々小さいためで、ここでの詳細説明は省きます。)
おさらいですが、定常運転時の燃料噴射量は
=基本噴射時間×スロットル補正×(吸気温補正×水温補正)
従ってこのスロットル補正Mapを使えばスロットル開度の少ない領域はきちんと
減量補正でき、上述の課題(低開度域で燃料が無駄に濃い)がクリアされる訳
です。
【ご参考まで】
スロットル補正を使わない状態で上述の領域を空燃比学習(メインMap)させよ
うとしても、いつまで経っても収束してくれません。これはスロットル開度が変化
する度に目標空燃比とする為の燃料噴射量が変わってしまうからです。
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先ほどの説明でスロットル補正の意味が何となくご理解戴けたかと思います。
ついでに、サーキット走行などにおいてよくある高回転でのハーフスロットルや
パーシャルスロットル時の事例も紹介しておきます。
貴方は高速のS字コーナーをアクセルコントロールをしながら駆け抜けています。
・3速フル加速後にアクセルを少し戻しながらコーナーに侵入(青矢印)
・次にクリップ付近から少しアクセルを入れて後輪に荷重を乗せ、その直後に
アクセルを全開(黄矢印)
Map上の軌跡を示すと左図のようになります。
緑色は①と②の軌跡が重なる部分で、この部分においては減速側(青矢印)は
アフターバーンやぐずつきを防ぐためにやや薄めの空燃比が良く、加速側(黄矢
印)はトルクや排気圧が欲しい等の理由でやや濃い目にしたいものです。
しかしながら、実際には(スロットル補正を使わない場合は)意に反して減速側
は濃くなり、加速側は薄くなる傾向となります。
つまり、基本噴射時間Mapの調整だけでは上手く行かない場合があるのです。
この様な場合においても、スロットル補正Mapを用いれば、減速側(青矢印)は
スロットル開度が30~50%と低めなので多めに減量し、加速側(黄矢印)はス
ロットル開度70~100%で減量を殆どしない補正Mapとすれば希望が叶えられ
る訳です。
「加速時は加速補正だろ!」って言われそうなので、誤解の無いように付け加
えておきますが、
アクセルを踏み込んだ瞬間の空燃比は補正出来ない(運転手の行動が予測で
きない)ためスロットルポジションセンサーの電圧変化をトリガーに数ms~数10
ms間の割り込み噴射を行います(非同期噴射)。
そして、その後は噴射燃料の吸入遅れを補う目的で数10ms~数100ms間の増
量補正(吸気ポート壁面付着補正、加速補正)を行います。
これらの過渡補正は非常に短時間で終了するもので、いずれも『基本噴射時間
×スロットル補正』で算定された噴射量に加算されるため、ベースとなる基本
噴射時間Mapとスロットル補正Mapをしっかりと作っておく事はとても重要なの
です。
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これまで述べたように、私はスロットル補正を上手く活用すべきと考えています。
でも、使わないと言われる方も居られます。
確かにスロットル補正を用いなくてもフィーリングの良いセッティングは可能です。
例えば、最初の事例にある1000~2500rpmの部分はスロットル開度100%時に
吸気管圧力ゼロ部分の噴射時間を空燃比14.0になるように調整すればハーフや
パーシャルスロットルでの空燃比は11.2~12.6程度に留まり、トルク感たっぷりで
普通に走れます。
空燃比の数値を見なければ、お客は「おぉ、トルクあるぅ~」と喜びます。
また、S字を駆け抜ける事例では加速側の空燃比を12.5程度になるように噴射時
間を調整すれば減速時は10.0~11.3程度となり、格好良いアフターバーンが出せ
ます。
当然ですが、前者は燃費が犠牲になり、後者はいずれ触媒が逝かれます(哀
つまり、スロットル補正を用いなくてもドライブフィーリングに影響が出ないように
セッティングする事は可能ですが、高次元の要求を満たそうとすればスロットル補
正が必要になります。
量産車では大昔から必要不可欠な要素となっています。Wikiにも書いて有ります。
スロットル補正は初期の〇Proでも付いていますし、スロットル補正Mapを使うのは
タダなのです。
「使わない」「使えない」「使う必要がない」
それぞれ意味合いが異なりますので、尋ねてみれば相手の技量が分かるかも。
最後にもう一度、
Lジェトロは直接的に空気の質量を計測しているが、Dジェトロは吸気管圧力から
吸入空気量を予測する方式であり、精度的に不利。温度や気圧の変化に対する
空気密度補正が必要。脈動を避け、適切な位置からの圧力取り出しが必要。
Dジェトロの空燃比セッティングが難しい理由は全てココに有るのです。
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