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- ☆ジェット オン ドリーム ~夢幻飛行~ 第2部
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☆ジェット オン ドリーム ~夢幻飛行~ 第2部
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~ JANA 飛行訓練生 応募要件 ~
江里 博志(えり ひろし)は、大手エアラインのパイロットを志願する
青年の一人だった。若くして結婚し、愛妻とかわいい子供二人を持つ子煩悩な
父親の顔も持つ。遊覧飛行や調査飛行を行う(株)カービュー航空の第1線で
操縦桿を握る日々を送っていた。時折、大空高く尾を曳く白い飛行機雲の帯を
望むたびに、彼は何か言い知れぬ憧れを抱き続けていたのだった。
そんなある日、民航JANAが、パイロット訓練生を新規募集しているとことを
聞きつけ、ダメモトでもいいと思いながら、問い合わせの電話のしようと決心する。
いつもと同じ電話の受話器。なのに、何故か重く感じられたのは心の迷いがあった
のかもしれない・・・
「もしもし、パイロット訓練生の募集に関する問い合わせなんですけども・・・」
『はい、ありがとうございます。ご応募はA制度でしょうか? B制度でしょうか?』
「A制度です・・・内容を詳しく教えて頂ければ、ありがたいんですが」
『はい。では、メモのご用意よろしいでしょうか?』
「はい、どうぞ」期待と不安が入り混じる。
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~ JANA 飛行訓練生 応募要件 ~
『まずは必要な応募資格です。陸上多発の事業用操縦士技能証明。計器飛行証明。
航空無線通信士資格。これらは日本国内でのライセンス保有が条件となります。』
「はい・・・」
『次に語学力ですが、英検2級以上の英会話ができるのが条件となります。』
「はい・・・」
『身体条件ですが、第1種航空身体検査基準が必要となりますが
一般的な視力や健康的な体であれば、まず問題ないと思いますので』
「はい・・・やはり理系でないと大手民航は厳しいですかね?」
『いえいえ、文系出身の方々も沢山活躍していますので、ぜひチャレンジしてください』
『詳しくは、JANAのホームページをご覧ください。エントリーシートをプリントアウト
期日までに指定形式のエントリーシートと必要書類を同封の上、A制度採用係宛に郵送です。
書類選考の上、後日、1次試験、2次試験等の日程をお知らせします。』
「はい、ありがとうございました・・・」「ふぅ・・・」
やっぱ、エアライン パイロットは、むずかしそうだなぁ・・・
江里 博志は、溜め息まじりに電話を切り、高空をゆく遠い飛行機雲をぼんやりと見つめていた。
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~ JANA 飛行訓練生 応募要件 ~
彼は、帰宅後、パソコンからJANAのホームページにアクセスした。
IDを取得し、ログインする。
__________________________________________________________________________________
提出書類 ①指定エントリーシート
②最終学歴の卒業証明書
③健康診断書(航空身体検査証明書でも可)
④航空経歴書(及び取得ライセンスの写し)
⑤英語資格証明書(英検、その他の資格があれば、その写し)
⑥必要があれば、現在勤めている雇用主の承諾書を提出
していただくことがあります。
1次試験 面接と筆記試験(理数図形、国語、英語)
2次試験 実技試験(シミュレーター及び実機)
最終試験 身体検査 及び最終面接
__________________________________________________________________________________
「雇用主の承諾書かぁ・・・」
彼にとって、それが最大のハードルかもしれない。
彼は、悩んだ末、航空大学校からの同僚パイロット、渡鳥 翔太(わたとり しょうた)に
JANA応募のことを打ち明けたのだった。
渡鳥 翔太「そうか、頑張れよ・・・ヒロシ、お前なら、きっといいエアラインパイロット
になれるよ。合格したら教えてくれよ。パァーッと派手に(飲み会を)やろうな。俺もあと
をついていくかもしれないけど(笑)」
そう言ってくれた彼の言葉が嬉しかった・・・
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~ 社長室にて ~
ある日、(株)カービュー航空の代表取締役、拝羽 一岩(はいば かずいわ)が
彼を社長室に呼んだ。どこで情報を聞きつけたのか、彼のJANA応募を知っていたのだ。
拝羽 社長「やぁ、しばらくだねぇ・・・最近、顔色が冴えないって聞いてたもんでね」
江里 博志「社長・・・実はですね・・・」
拝羽 社長「知っているよ、JAJAに応募したんだって」
江里 博志「え? 何でご存知で・・・」
拝羽 社長「はは、社長たるもの、そのくらいのアンテナは張っているつもりだよ(笑)」
江里 博志「社長、今まで隠していたわけではないんですが・・・申しわけありません」
拝羽社長「いやいや、気にしない、気にしない(笑)・・・もし、優秀な君を失うとしたら
わが社にとっても痛手なんだが、君の人生は君自身が決めることだ・・・君がJANAの
第一線で活躍するなんて、すばらしいことじゃないか・・・会社としてもバックアップ
するつもりだから、君、何にも心配するな。」
江里 博志「しゃ、社長! ありがとうございます!」
予想だにしていなかった 社長の言葉に、彼は目頭の奥が熱くなるのを感じていた。
その半年後、彼は南西諸島にある上地島の訓練施設に旅立っていった・・・
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~ 航空訓練学校 ~
JANA航空訓練学校 ――― ここは江東区京浜島。パイロット養成学校の研修所である。
航空界では団塊世代のパイロットが大量退職し、航空需要が高まる中、今後パイロット
不足が予測されているため、航空各社も優秀な人材の確保と育成に力を入れ始めていた。
ここは、その第1研修室。教室の窓ごしには、遠く羽田の飛行場風景があり
離発着するエアライナーの飛翔を望むことができる。
研修時間の休憩の合間、その優雅でダイナミックな飛翔を望むたびに
訓練生たちは胸を躍らせるのだった。
彼らは、南西諸島 上地島でのジェット練習機を使った厳しい訓練課程を修了していた。
そして、小型旅客機を飛ばすためにステップアップした精鋭の訓練生たちでもあった。
私生活にも厳しい制限のある全寮制の訓練期間。それに耐えかねて脱落してゆく仲間たち。
しかし、いつの日か大空へはばたくことを夢見る強靭な信念が、今ここに残っている彼ら
の背中を後押しするのだった。その訓練生の中に、江里 博志(えり ひろし)の凛々しい
姿があった。彼は厳しい訓練を脱落することなく、夢を追い続けていたのだった。
午後の昼下がり。食堂での談笑もつかのま、昼食後の時間帯だけに睡魔に襲われがちだ。
訓練生たちは、航空に関する勉強を連日深夜までしていたからである。
しかし、そんな甘えは許されない世界でもあった。
この日の座学オリエンテーリングでは、元JALの機長経験者である
渡 鳥男(わたり とりお)講師によって、基調の講話が行われていた。
渡 鳥男 講師「さて、意識レベルの下がってきた人も見受けられるので
・・・ちょっと目の覚めるような話でもしましょうかね(笑)・・・」
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~ 研修所教室 ~
渡 鳥男 講師「多くの人命をあずかるエアライン パイロットにとって、事故はあっては
ならないものですね。ちょっと古い話になりますが、1985年に起きた日航ジャンボ機
の墜落事故は、みなさんはご存知かな?」
江里 博志 訓練生「はい、御巣鷹尾根の日航機事故・・・」
渡 鳥男 講師「はい、そうですね。わが社でも、あの事故を風化させてはならない
との声の大きさもあり、事故原因とされた事故機の圧力隔壁などを、あの羽田の
一角に保存しているんですが・・・みなさんの中で見たことある人は?」
訓練生一同「・・・・・」
日本における航空機事故の歴史を淡々と語る講師の話に、訓練生は真剣に耳を傾けた。
渡 鳥男 講師「はい、いらっしゃらないよね。今後、見る機会をつくりましょうかね。
・・・突然、襲い掛かる困難に正面から向き合い、自分を犠牲にしてでも、お客様を
守りぬく・・・エアラインのパイロットが求められる資質だよね。この気概と自信が
ない者は、今この場を立ち去ってもかまわないからね。」
訓練生一同「・・・・・」
渡 鳥男 講師「みなさんのような精鋭訓練生に対して、ちょっと愚問だったかな(笑)」
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~ 研修所教室 ~
渡 鳥男 講師「さて、ここでゲストをお招きしました。元航空事故調査委員をされていた
浦安 哲蔵(うらやす てつぞう)さんです・・・さ、こちらへ、どうぞ」
渡 鳥男講師「浦安さんは、航空宇宙技術研究所に在籍されていました。国内における
数々の航空事故の調査と研究に従事されてきた方です。」
浦安 哲蔵 講師「みなさん、はじめまして。浦安 鉄蔵と申します。よろしく お願いします」
訓練生一同「よろしく お願いします」
浦安 哲蔵 講師「みなさんが生まれる前の古い話ばかりで退屈かと思いますが(笑)
残り時間、リラックスして聞いていただければと思いますので。今日は、日本の国内
で起きた古い航空事故について、お話しようと思っています。」
遠近両用メガネを使い、時には資料を、時には遠くの航空機を見つめるような
まなざしで、白髪の紳士は静かな口調で語り始めた。
遮音された教室ではあるが、時折、着陸してくるジェット機の音が聞こえてくる。
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~ 研修所教室 ~
浦安 哲蔵 講師「私が最初にかかわったのは1966年の2月でしたか・・・札幌発
東京行き 全日空ボーイング727の‘東京湾墜落事故’でしたね。当時、航空会社
では、競合する路線で‘速さ’を競い合うような風潮があったようですが、ひょっと
したら、それが遠因ではなかったかと思っていますが・・・」
浦安 哲蔵 講師「B727は、当時の旅客機の中では運動性能がよくて、巡航高度へ
の上昇性能とか、大きな降下率を誇る機体でした。昔ながらの職人パイロットも多く
いらっしゃったと思いますし、機長の権限も絶大だった時代ですね。」
渡 鳥男 講師「機長、副操縦士間のコミュニケーションの重要性は、今後、勉強して
ゆくことになりますよ」
浦安 哲蔵 講師「この全日空機の東京湾墜落事故は、羽田空港への着陸進入中に発生
しまして、夜を徹して捜索活動が行われたんですが・・・NHKのテレビで事故現場
の中継をしてましてね・・・海から引き上げられた機体の残骸がサーチライト浴びて
映し出され、お茶の間のテレビに映し出されたわけですから、一般の方々にとっても
ショッキングな映像だったんじゃないかと・・・そして、搭乗者名簿のお名前が次々
のアナウンスされ・・・」
訓練生一同「・・・・・」
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~ 研修所教室 ~
浦安 哲蔵 講師「一見やわらかいはずの水面も、航空機のような高速物体が突っ込むと
突入具合によっては、水がまるでコンクリートのような応力を与えることをあの事故は
世間に知らしめたんじゃないかと思います。」
浦安 哲蔵 講師「この札幌からの便は、茨城の大子VORを経由して、羽田へ降下して
いったわけですが、エンジンから黒煙が出ていたなどの目撃情報などもあり、時間短縮
のためにパイロットが無理な飛行をした結果、エンジンが不調になったとか、いろいろ
な憶測があったんですね。しかし交信記録やレコーダー解析などでも事故原因は不明の
ままで謎の多い事故でしたね。」
訓練生一同「・・・・・」
渡 鳥男 講師「ジェットエンジンは、最大運用限界を越えてオーバーブーストさせる
ケースもあるんだけど・・・例えば、離陸中にエンジンが1発停止して残りで必要な
推力を確保するために緊急的に限度一杯のパワーを使う場合があるよね・・・しかし
これも、ある一定時間内を越えて連続使用しまうとエンジンの寿命に影響して場合に
よっては、エンジン交換となるわけ(笑)・・・いや、笑いごとじゃないぞ。」
-
~ 研修所教室 ~
浦安 哲蔵 講師「そうですね(笑)・・あとですね、この1966年という年は、日本
の空にとって‘魔の年’と言われました。2月に全日空機の事故が起きて、そのわずか
1ヶ月後の3月・・・今度も羽田空港に着陸進入中に墜落炎上事故が起きましね・・・
驚いたのもつかの間、その翌日には、富士山の近くでまた旅客機の墜落事故ですから
私ら航技研の連中は息つくヒマもありませんでしたね。」
浦安 哲蔵 講師「3月の事故は、悪天候で視界の悪い状況の中、カナダ太平洋航空の
DC-8が、管制官との交信誘導で羽田の滑走路に向かっていたんですが、なんとか
して羽田に着陸したいという焦りもあったんでしょう・・・当時は、ILSのような
計器着陸装置は、まだ普及前ですから・・・飛行時間の長いベテラン キャプテンなり
の判断もあったんでしょう、濡れた滑走路でオーバーランを警戒したのか、管制官の
コース指示よりも低めの高度で滑走路に進入しようとして着陸に失敗・・・滑走路の
直前で墜落してしまったんですね。」
渡 鳥男 講師「‘魔の11分’って知ってるよね」
江里 博志 訓練生「離陸後3分と着陸前8分の、リスクのある時間帯のことですね」
浦安 哲蔵 講師「そうですね、みなさんも実際に操縦桿を握ってきた体験から、緊張
する場面であることは肌で十分感じていらっしゃることでしょう。」
浦安 哲蔵 講師「カナダ太平洋航空事故が起きたその翌日、富士山の近くで発生した
墜落事故もまたショッキングなものでした。墜落した便は・・・東京発 香港行きの
英国海外航空(BOAC)ボーイング707型機で、前日に発生した墜落現場を横
にして羽田を離陸していったわけですから、皮肉なものです。」
-
~ 研修所教室 ~
浦安 哲蔵 講師「墜落したのは富士山の太郎坊付近で、そこには事故の碑があるはずで
確か・・・BOAC慰霊碑だったかな・・・」
渡 鳥男 講師「太郎坊って、どのあたりか知っている人?・・・はい、そこの君。」
訓練生「富士山の御殿場側だったと思いますが?」
渡 鳥男 講師「そうだね、富士の副火山っていうのかな・・・みなさん知っている‘宝永山’
の東側、ちょうど御殿場からの登山道が通じている裾野にあたる所だね。自衛隊出身者なら
‘東富士演習場’が近くにあるから、‘太郎坊’の大体の位置関係、分かるでしょう。」
渡 鳥男 講師「事故機は、富士山の山越え乱気流に巻き込まれ、空中分解して墜落したことが
判明しましたが、墜落直前まで乗客が撮影していたフィルムビデオが回収され、その分析など
でも、その乱気流の衝撃の大きさがある程度解析できました。」
渡 鳥男 講師「‘山越え乱気流’という新たな危険概念を発見した事故でもありましたね。」
訓練生「事故機を墜落させるほどの乱気流だったんですか?」
浦安 哲蔵 講師「そのとおりです。事故調査の課程で、乗客が残したフィルムビデオを見ると
ですね・・・羽田を離陸したBOAC機は、道志山塊上空から山中湖あたりにさしかかって
いたようで、撮影されたフィルムのコマがですね、あるコマから、いきなり真っ黒になって
飛んでしまっていたほどで、そのときの乱気流の衝撃がいかに大きいものだったかを物語って
いました。」
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~ 研修所教室 ~
浦安 哲蔵 講師「回収されたフライトレコーダーの解析結果からも、乱気流の疑いは濃厚で
私ら調査委員は、富士山に見た立てた風洞実験を行った結果、事故機が空中分解に至った
経過も、だんだん判ってきたんです。」
渡 鳥男 講師「富士山のような独立峰の風下で起きる‘山越え乱気流’は、冬場の季節風でも
容易に起こりえるようですね。」
浦安 哲蔵 講師「このとき、BOAC機は事故直前までは、比較的安定した気流の中を飛んで
いたようです。しかし、富士山が近づいてきた時、突然、尾翼が倒壊するほどの激しい乱流を
受け空中分解してしまったわけで、乱気流の怖さを思い知らされた事故だったですね。重要な
ことは、このような乱気流に遭遇する直前までは、まったく気流が安定しているということが
風洞実験から判りました。・・・はい、それでは、そろそろ時間のようですので・・・」
渡 鳥男 講師「東亜国内航空YS-11‘ばんだい号’の函館事故とか、松山空港沖事故とか
それから全日空B727と自衛隊機の雫石空中衝突事故、日航機123便の御巣鷹山事故など
いろいろあるわけですが、今日は時間がありませんので、またの機会があれば・・・」
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~ 研修所教室 ~
渡 鳥男 講師「先生、今日はお忙しい中、ありがとうございました。」
訓練生一同「ありがとうございました」
『キンコン カンコン・・・』(終業のベル)
渡 鳥男 講師「航大で飛行計画を作るのに色々苦労した経験もあるでしょうが、みなさんが
今後エアラインの第一線で活躍するときにも、フライトプランと航路上の天候や気流の検討
重要な課題になりますからね・・・はい、それでは、今日の講話はここまでにしましょう。
次の時間は、模擬計器室に移動ですね。」
江里 博志 訓練生「起立! 礼!」
訓練生一同「ありがとうございました」
渡 鳥男 講師「あ、それから言い忘れましたが、明日、JANAの現役機長の講話があり
ますが、予定していた白矢 義参(しろや よしぞう)機長のスケジュールの都合により
カリキュラムが一部変更になりました・・・え~と・・・国際線のジャンボ機に乗務され
ているフェアレ・オッサーニ キャプテンが講師としてきます。外人機長ですが、日本語
ペラペラですから、大丈夫ですよ(笑)」
渡 鳥男 講師「ここでの座学とシミュレーター訓練が終わると、また上地島での厳しい
飛行訓練が待っていますからね・・・笑えるのは、今のうちかもしれませんね(笑)」
訓練生一同「はい(笑)」
遠く飛行場の方角で、着陸したばかりのジェット機の逆噴射の轟音。
それが、訓練生たちの耳に、かすかに聞こえていた。
<第16幕につづく>
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~ シックス センス ~
飛行訓練生たちにとって長い一日が終了した。
ガランとして人けを失った教室。その空間には、静かな時の流れの中で
教室に掲げられた時計の針だけが規則正しいリズムを刻んでいる。
陽は西に傾きかけていた。
渡 鳥男は、教務員室に戻り、パソコン画面をひらく。今後の飛行訓練課程の
調整のため、教官となる機長たちのスケジュールをローカル・ネットワークの
データベースセンターで確認するためである。教育カリキャラムに変更が必要
かどうかをチェックするのも日課の一つであった。
厳重なセキュリティーによって管理されているため、外部の人間がパイロットなど
運航乗務員の勤務スケジュールに関するデータベースにアクセスすることはできない
ようになっている。
-
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~ シックス センス ~
渡 鳥男「よ~し OK、カリキャラムに問題ナシ。さてと、窓閉めて そろそろ帰るか」
今日は天気のいい暖かい日よりだった。そんなとき、彼はこの場所にいるときは決まって
窓を開ける習慣があった。無音の空間よりも、なぜか航空機の音を聞くと安心する習性が
あるのかもしれないが、着陸便を観察するたのしみもあるからである。
教務員室を出た後は、いつも決まって羽田空港に足を向け、JANAの運航管理本部に
顔を出す。それも彼の日課の一つであった。
開けていた部屋の窓を閉める際、羽田を離陸する双発機が遠く上昇していくのが見えた。
彼は目を細めながら、その機影を追う。そして今度は、東京湾から接近してくる着陸機
を双眼鏡で確認する。全日空の B747-400Dが‘羽田カーブ’をこなして城南島
京浜島の上をかすめるように滑走路 16Lにランディングした。
渡 鳥男「彼は、あの便かな?・・・今日も羽田は平穏だな・・・」
-
-
~ シックス センス ~
渡 鳥男「あれえ もしかして? 富士 峰子さん!?」
峰子「あ、やっぱり渡さんですね・・・私のこと覚えて(微笑)」
渡 鳥男「当たり前じゃないか。いや~それにしても立派に・・・ええ!?」
渡 鳥男「その制服・・・!」
峰子「ヘヘ、そうなんです・・・今度、JALのCA訓練生に・・・」
渡 鳥男「へえ~知らなかったなぁ、ビックリだよ~」
彼女は、日航ジャンボ機 御巣鷹尾根の事故で、父親を亡くしたのだった。
当時、渡 鳥男は、日航社員として遺族を回っていたのだが、そんな中
まだ幼い少女だった彼女と出会っていたのだった。
峰子「JANAのセンターに聞いたら、この研修所で時々先生を務めてるって聞いた
ものですから・・・で、さっき受付で聞いたら、いつも、この時間に、この階段を
使って降りるって(笑)」
渡 鳥男「はは、こりゃ一本取られたなぁ・・・いや~しかし、おめでとう!」
峰子「渡さんには、いつも励まして頂きましたから・・・だから、早い機会に
今の私を見て頂きたいと思いまして・・・」
渡 鳥男「そうでしたか・・・あ、ここで立ち話も何だから、そこの会議室で話しよっか」
峰子「ええ、そうですね」
-
~ 遠きにありて ~
西日が当たりはじめた午後の会議室 ―――――
渡 鳥男「節電でうるさいから(笑)・・・まだ、電気は要らないよね」
峰子「ええ(笑)」
彼の教え子である訓練生たちが、ここで何かのミーティングをしていたらしく
航法に関する文字と数字が、ボード一杯にびっしりと書かれている。
渡 鳥男「ったく、つわものどもが夢のあとかぁ(笑)・・・後始末してから帰れよなぁ」
渡 鳥男は、苦笑いしながら、白いボードに書かれた文字の羅列を消す。
渡 鳥男「あれから、もう何年になりますかねぇ・・・命日には、お母さまと
いっしょに毎年(御巣鷹の尾根に)登っているの?」
峰子「ええ、ただ・・・2年ほど前に母が病気で倒れてからは、あの山道は・・・
杖を付いてでも、母にとって辛い山道になりましたけど・・・」
渡 鳥男「そうですか・・・あ、いや、こんな暗い話はよしましょうかね(苦笑)」
峰子「いいんですよ・・・今はまだ実習生ですけど、晴れてアテンダントバッチを
付けることができたら、その時は、また是非お会いしてください」
渡 鳥男「んん、たのしみに待ってるよ、でも、先輩のイジメも大変だろ?(笑)」
峰子「ええ、ネチネチと(笑)・・・いえ、でも、後輩を思っての指導だと思い
ますから・・・大空に飛びたつことが、私にとって父への供養になると・・・」
-
~ 遠きにありて ~
渡 鳥男「君が中校生になった頃だったよね・・・ある日、ボクのところへ
ひょっこり来て・・・123便の‘事故報告書’見たいって言って。」
峰子「ええ、そうでしたね。」
――――― 父を奪ったジャンボ機、何故あんなふうに墜落したんですか?
――――― わたし本当のこと知りたいんです
そのときの彼女のまなざしと、鋭い言葉が、彼の脳裏に焼きついていた。
しかし、専門調査委員会がまとめた事故報告書は、膨大な内容であった。
航空分野の専門用語を知る者でさえ、その記述は、きわめて難解であった。
破壊に関する部分など専門的な知識なしでは読解できるものではなかった。
渡 鳥男「でも、君の熱意には驚いたよ。新聞の切り抜きや、むずかしい航空用語が
書かれた資料 びっしり詰まった君の自作のファイルを見てからね・・・」
二人の間に、しばしの沈黙が流れる。
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~ 遠きにありて ~
峰子「渡さん、ほら・・・これ・・・」
彼女は、ショルダーバッグの中から、小さな‘お守り’を取り出した。
その袋を開け、中から一片の汚れた紙切れを広げた。
みっこ イマおとうさんわヒコウきのなかだよ
だぶんこのひこうきわオチルトオモウ
キミがうまれてきて ほんとにおとうさんおかあさんはしあわせだった
デモモウダメダトオモウ ママ みっコをたのむね
まま あいしている ぱぱワおちているおちてく
異常事態が発生したJAL123便の機内で、彼女の父親は‘死’を覚悟していた。
しかし・・・墜落現場からは、遺体の残骸さえ判らず、父が残した遺書とも言える
メモ帳だけが唯一の遺品になってしまったのだった。いつも肩車をしてくれた父親
の大きな背中の記憶だけが、幼かった彼女にとって唯一の心の遺影であった。
峰子「きっと、揺れる機内で満足な字体を書くことすら出来なかったんでしょうね。
父は無念だったことでしょう・・・これ 私にとって、生涯のお守りなんだと・・・」
渡 鳥男「君は、えらいな、強いな・・・ほんとに立派な娘さんになったんだな。」
-
~ 遠きにありて ~
峰子「最近、不思議な夢見るんです・・・不思議な夢・・・どこまでも ず~っと
雲の平原が続いていて・・・何も聞こえないし誰もいないのに、お父さんがそばに
いる・・・お父さんの声が聞こえるような錯覚がして、ハッと目が覚めるの・・・」
峰子「それから、深い深い青い空の上に、ひとすじの不思議な雲があって、その方向に
向かって体は上がろうとするんですけど・・・苦しくて苦しくて上がれないんです・・・
‘おとうさん! おとうさん!’って叫んでいるんですけど、苦しくて声を出せなくて。」
渡 鳥男「・・・・きっと、お父さんは天国で君を見守っているから、安心しなさいって
いうメッセージじゃないかなぁ・・・いや・・・ボクのかってな想像だけど・・・」
峰子「ごめんなさい・・・こんな私の話で暗くなってしまって」
渡 鳥男「いや、私こそ・・・ところで、同期の訓練生とは仲良くやってる?」
峰子「はい(微笑) 今夜、飲み会の幹事しますから」
渡 鳥男「そっか、一人立ちするまで大切な仲間だからね、大事にしなよ」
-
~ 遠きにありて ~
研修所 正門 ―――――
峰子「今日は、こんな時間におじゃまして、すみませんでした。」
渡 鳥男「いや、とんでもない・・・こちらこそ心機一転でノックアウトさぁ(苦笑)」
帰りぎわ、峰子は握手を求めてきた。そして彼はその手を両手で固く握り返した。
渡 鳥男「いつか君がはたらく便に乗りたいものだね。その時はよろしくね。」
峰子「はい」
その手の中で亡き父のぬくもりを感じていたのだろうか。
大きな左旋回を行い、つぎつぎに羽田カーブを経由して舞降りてくる着陸便。
淡い影を帯びながらランディングするJALのジャンボ機。その機影が16L
滑走路方向に消えてゆく。
遠くから聞こえてくる逆噴射の轟音が、夕刻ちかい空にこだましていた・・・
ジェットストリーム シアター 間奏曲 ――――
都はるみ 「♪愛は花、君はその種子」より
やさしさを押し流す 愛 それは川
魂を切り裂く 愛 それはナイフ
とめどない渇きが 愛だと言うけれど
愛は花 いのちの花 君はその種子(たね)
くじけるのを畏れて 踊らない君のこころ
さめるのを畏れて チャンス逃す君の夢
奪われるのがイヤさに 与えないこころ
死ぬのを怖れて 生きることができない
長い夜 ただひとり 遠い道 ただひとり
愛なんて来やしない そう思うときには
思い出してごらん 冬 雪に埋もれていても
種子は春 お日さまの 愛で花ひらく
(スタジオ・ジブリ『おもひで ぽろぽろ』エンディング・テーマ)
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【おことわり】
この物語は、ドキュメンタリー タッチのフィクション ドラマです。
登場人物、会社団体、地名等、内容は、すべて架空のものです。
また、航空機に関する事項も事実とは限らず、実際の運航オペレーション等を
再現しているものではありません。予めご了承下さい。
なお、画像はシアター効果を高めるためのものであり、必ずしも本文と合致いたしません。
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