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  • ☆ジェット オン ドリーム ~夢幻飛行~  第2部
    elyming♂ 2006/11/23 22:35:55



        【 ジェット オン ドリーム 】

          ~ 夢幻飛行 第2部 ~  

            <第15幕>



  • elyming♂ 2007/01/03 23:58:00











        ~ 遠きにありて ~



    ●18時51分すぎ

    機体は 飛行高度1万フィート(約3000メートル)付近まで上昇した。

       航空機関士「フラップは」

       副操縦士 「下げましょうか」

       機  長 「下りない」


    123便は油圧システムを失ったため、通常の操作ではフラップは展開しなかった。
    非常用の代替電動システムを使う手段は残されていた。しかし、油圧駆動時と違い
    展開スピードは遅く、また、左右の展開タイミングに差が出てしまう傾向があった。
    そうすると左右の主翼で、揚力や抵抗にも差が生まれ、機体が横へ傾く(ロール)
    運動モーメントが発生しやすくなる。それでも、正常に操縦舵が効く機体ならば
    パイロットの修正操舵でロールモーメントを打ち消すことができるわけであるが
    しかし、123便のようなノーコントロール状態では、この左右の非対称的特性
    の運動モード発現は、深刻な飛行状況をもたらす可能性があった。

    しかし、眼下に山が迫っている状況では、推力増大のみによる不安定な姿勢も
    危険を感じさせるものであった。操縦室乗員は、残された操縦動翼フラップの
    揚力効果と失速防止効果に期待するしかなかったのかもしれない。


    0

  • elyming♂ 2007/01/03 23:58:47











        ~ 遠きにありて ~




       123便の最期 ―――――


    123便のゆくてには、2000~2500メートル級の山々が連なる奥秩父山系が
    迫っていた。困難な姿勢制御と、失速時の急降下によって、山に墜落するのは悪夢の
    シナリオであろう。これは何としても避けるべき最大の危機であった。



     航空機関士「いま(フラップは)オルタネート(代替手段)で出ていますから」

     機 長  「あったま、下げろ」(機首が上がりすぎて失速を警戒)

     副操縦士 「はい」



     ●18時53分すぎ  ――― 機体は飛行高度1万3400フィートまで上昇するが
                   再び大きな降下が始まる。

                   平均降下率 3000フィート/毎分 以上になった。
     

     ●18時54分12秒 ――― フラップ20°下げ

     ●18時55分42秒 ――― フラップ25°下げ


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:00:01











        ~ 遠きにありて ~




       123便の最期 ―――――


    オルタネート(代替電動で)フラップを展開させた123便だったが、左右の主翼で発生する
    揚力、抵抗に不均衡が生じ、機体が大きく右に傾く予想外のモーメントが発生した。
    その左右の不均衡は、修正できないまま急激に高度を失う降下を招くことになった。
    代替手段でフラップを出しすぎたことの代償は、あまりに大きかった。


     ●18時55分43秒 ――― 機 長 「フラップ 止めな」


     ●18時55分45秒 ――― 不 明 「あ~~~」


    制御困難な飛行姿勢の乱れに気づいたパイロットは、ただちにフラップを上げ始める。

    だが、代替システムでは思うように戻らず、左右の不均衡が引き起こしたロールモーメントは
    右への横揺れ角 50~60°バンクとなり、機体は急降下を始めた。


     ●18時55分47秒 ――― 機 長 「パワー! フラップ(アップ)
                        みんなでくっついちゃダメだ」

     ●18時55分49秒 ――― 副操縦士「フラップアップ、フラップアップ!」

     ●18時55分51秒 ――― 機 長 「フラップアップ!」

                   副操縦士「はい!」


     ●18時55分56秒 ――― 機 長 「パワーパワー! フラップ(アップ)!」

                  航空機関士「(フラップを)上げてま~す!」



    操縦舵面の効かない123便にとって、これは致命的な運動モードであった。パイロットは
    機体の急激な落下を食い止めようとする。しかし、操縦機能はすでに失われていて本能的に
    操縦桿を引きパワーレバーを前進させるしかなかった。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:01:54









        ~ 遠きにありて ~




       123便の最期 ―――――


    非番の客室乗務員は、頭を下げながらも機内をちらっと見た。たくさん垂れている酸素マスクの
    チューブの多くが、ピーンと下にひっぱられているのが見えた。マスクをつけたまま安全姿勢を
    とった乗客が大半だったのだろう。そのうち、安全姿勢をとっていた座席のなかで、体が大きく
    揺さぶられるのを感じた。船の揺れなどというものではなく、ものすごい揺れであった。客席の
    前のほうで、女の子の「キャーッ」と叫ぶ声が聞こえた。それほどの揺れである。これが客席で
    聞いた最後の人の声だったのかもしれない。


    そして、すぐに急降下がはじまった。それはまったくの急降下で、まっさかさまに落ちてゆく
    ような感覚であった。まるで髪の毛が逆立つくらいの感じである。頭の両わきの髪がうしろに
    引っ張られるような、声も出せないような加速度を感じながの急降下だった。

    客室ではもう誰一人として声が出なかった。というより墜落の恐怖のあまり出せなかったのだ。

    非番の客室乗務員も『これはもう死ぬ』と覚悟を決めるほど、とにかく機体はまっすぐ落ちて
    ゆく感覚の中、目を閉じたまま体全体がかたく緊張しているのを感じていた。

    それまでの人生が、まるで走馬灯のように駆け巡った。しかし、それはスローモーションのような
    光景が幾つもつなぎ合わさったような不思議な時間感覚であった。
    数秒、数日、数ヶ月、数年・・・もう何が何だかわからない。

    傷ついたジャンボ機が、確実に堕ちていることを感じていた。





     ●18時56分04秒 ――――――― 機 長 「頭上げろ!・・・頭上げろ!・・・あ~!」


     ●18時56分07秒~11秒 ――― 大きく右に傾く角度を深めながら急激に高度を下げ
                         始めた。落下方向への垂直加速度、速度ともに上昇。
                         機首下げは約36°右横揺れ角は約70°に達した。

    エンジンパワーの増大は、速度をさらに加速させ、大きな右横揺れバンクを伴った飛行姿勢は
    もはや‘航空機本来の飛行’と呼ぶには程遠いものであった。

    まるで、紙飛行機が渦の中心に向かって落ちてゆくかのように右円を描きながらの急降下で
    ある。そして、夕暮れ迫る奥秩父山系北部の連なる山なみが迫っていた。



    http://www.youtube.com/watch?v=Ydq2H3uHfkU&mode=related&search=


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:03:08











        ~ 遠きにありて ~




       123便の最期 ―――――


    飛行速度、垂直加速度を増しながら落ちてゆく機内では、すでに墜落を予感したのか
    わが身の死を悟った乗客たちが、これが遺書となるかもしれないメモを手元の手帳に
    したためていた。そこには恐怖、無念、感謝、愛情の気持ちが綴られていた・・・


        ギィ~~~~~~~~~~~~~ン

    客室ではエンジン音の増大が聞こえていたが、それに気づくよりも
    急激に落下してゆく機体の加速度に耐えるのが精一杯だった。






     ●18時56分10秒 ―――  機 長 「パワー!・・・」

    右バンク急降下というジャンボ機の巨大な慣性モーメントに打ち勝つすべは、もはや
    無いに等しかった。まるで、渦の中心に向かって落ちてゆくような急降下であった。
    夕暮れ近い山、その地表の暗闇が眼前に迫っている。



     ●18時56分15秒 ―――

      ウープウープ 『プゥゥル アップ』 ウープウープ 『プゥゥル アップ』 (引き起こせ)

        コクピットにGPWS(対地接近警報装置)の警報音と合成音声が鳴り出し
        それは墜落の瞬間まで続く。


     ●18時56分21秒 ――― 機 長 「もうダメだ・・・」

      ウープウープ 『プゥゥル アップ』 ウープウープ 『プゥゥル アップ』 (引き起こせ)


     ●18時56分23秒 ――― ガガガ(最初の衝撃音)


     ●18時56分26秒 ――― ガガガガガ(地表接触衝撃音)


    日航123便 JA8119号機は、激しい機種下げと大きなバンク姿勢のまま
    時速600キロメートルもの猛スピードで、樹々が生い茂る山肌に機体の一部を
    接触させる。水平尾翼など機体の一部は別方向に飛び、落下姿勢はさらに乱れた。

    そして、その勢いは止まらず、山の斜面と谷をおよそ500メートル程飛び越えて
    地表接触から数秒後・・・


     ●18時56分30秒 ――― 山つづきの頂きから南側に張り出した尾根の中腹
                   その稜線上の樹林帯斜面めがけて 激突した。

                    力尽きた123便の墜落であった・・・


    墜落直前、迷走飛行最期の姿勢は、まるで大きな巨人の手が、ジャンボ機の胴体をわしづかみにして
    機体をさかさまに投げつけたようなショキングなものであった。




    http://www.youtube.com/watch?v=iOA4GTR8wHU&NR


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  • elyming♂ 2007/01/04 00:04:02











      ~ 遠きにありて ~



     ●18時57分00秒

     東京コントロール
    「ジャパンエア123 ジャパンエア123  ディスイズ ヨコタ アプローチ
     コントロール オン ガード    ユア ポジッション イズ 4・・・35マイルズ
     ノースウェスト オブ ヨコタ   ユーアー クリアー トゥ ランド アット ヨコタ
     リパート  ユーアー クリアー トゥ ランド アット ヨコタ」

    (日航123便へ、横田進入管制所は貴機の着陸のため警戒体勢をとっています。貴機の位置は
     横田基地の北西 4・・・35マイルにいます。繰り返しますが、横田基地への着陸に支障は
     ありません。横田基地への着陸に支障はありません。最優先で着陸できます。)
     

     ●18時57分10秒

     東京コントロール
    「ジャパンエア123 ジャパンエア123  トウキョーコントロール
     え~ もし出来ましたら、横田アプローチ ワン・ツー・ナイナ デシマル フォー に
     コンタクトしてください。」 
                    ――― しかし、それは、もはや応答のない交信だった。




         ――― シアター バックグランド ミュージック ―――

                  ENYA ♪ Only time





                                <第23幕につづく>


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  • elyming♂ 2007/01/04 00:04:36



    【 ジェット オン ドリーム 】

      ~ 夢幻飛行 第2部 ~
      
        <第23幕>


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  • elyming♂ 2007/01/04 00:05:01




       1985年8月12日 夕刻


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  • elyming♂ 2007/01/04 00:05:48











      奥秩父 十文字峠 ―――――


    武蔵の国 秩父大滝村と、信濃の国 南佐久川上村を結ぶ峠である。
    一帯はシラビソやコメツガなどの美しい原生林に覆われ、峠の近くには1軒の山小屋が建っている。

    峠の尾根つづきは、北は三国峠 三国山 1818m(埼玉・群馬・長野県境) 両神山 1724m など
    外秩父や遠く西上州の山々に連なっている。南の尾根つづきは、日本百名山のひとつとしても
    知られる甲武信岳 2475m(山梨・埼玉・長野県境)そこから さらに西に尾根を辿れば 奥秩父
    の主脈、国師岳 2592m そして日本百名山の一つ 盟主 金峰山 2598m など 山梨県境に連なる
    秩父山系の山々がゆったりとした山容をならべて連なっている。

    中部山岳に比べると、山頂付近まで森林に覆われた山が多い奥秩父山域は、どこか地味である。
    だが、その森林の美しさ静けさに惹かれて、何度となく訪れる登山者もいるようである。

    峠から東に下れば、武州の秩父大滝村。西に下れば信州の南佐久川上村。
    南に辿れば甲州境の甲武信岳。北に辿れば上州境の三国山。それらの道が
    この峠で十字に交差していることから‘十文字峠’の名がある。

    つづら折りの峠道をゆくと、背負子を背負い カスリの着物を着た若い娘が家路を急ぐすがた・・・。
    そんな光景にヒョッコリ出会うのではないか。などという錯覚に襲われる。‘峠’という国字から
    連想するのは、そんな日本的風景なのかもしれない。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:06:31











      奥秩父 十文字峠 ―――――


    森のこずえの西の空に、淡い夕焼け色を望む頃。峠の小屋にも昔ながらのランプの
    ともしびが灯る。夏休み期間中にもかかわらず訪れる人は少なく、静かな夏の日の
    夕暮れを迎えていた。今夜の泊まり客らしき登山者がひとり、秩父側からの峠道を
    辿って登ってきた。さっき聞こえたジェット機のような音、しばらくして聞こえた
    遠い雷鳴のような音が気になっていた。深い樹林帯の中、しかも夕暮れどきの時間
    とあっては、音だけで判断するしかない。



      カラカラ カラン・・・カラカラ カラン

    山慣れた服装の 飛山 広端(とびやま ひろはし)は、熊よけの鈴をかすかに鳴らしながら
    最後の坂を登りつめてゆく。森の中は、すっかり薄暗くなりかけている。

    そろそろヘッドランプを出そうかと思っていたところ、尾根の上に出て、峠の道標を見る。
    峠の反対側に降りれば信州の南佐久地方である。左に進むと今夜泊まる予定の小屋がある。
    あたりは、うっそうとした森林の静寂がみなぎっている。わずかに足を運ぶと峠の小屋が
    見えてきた。彼にとっては初めての小屋だ。それでも何故か、なつかしい気持ちがわいて
    くるのだから、山というのは不思議なものである。
           

      バキッ スッコ~ン カララン 

    山小屋の主人は斧を振るい、夕食の釜土火を起こす薪を炊事場の横でせっせと割っていた。


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  • elyming♂ 2007/01/04 00:07:50













      奥秩父 十文字峠 ―――――



     主 人 「おや、お客さん、こんな時間に到着? もうちょっと待っておくんなさい・・・」

     飛山広端「秩父側は、やっぱり山が深いねぇ・・・ところで、さっき鳴ったのカミナリかねぇ?」

     主 人 「ほう? 鳴りましたかのお?」

     主 人 「飛行機のような音なら聞こえたかのぉ? 最近、耳も遠くなりましてな(笑)」

     飛山広端「いやねぇ・・・北のほうで ドドンっていう音が聞こえたような気がして・・・」

     主 人 「んじゃ今夜は、群馬の方から ひと雨くるかねぇ・・・」

    薪を割る手を休め、あごヒゲを撫でながら、木々の間に淡く残る遠い夕焼けの空を見上げた。



     飛山広端「この頃になると、山の夕立 多いですからね~」



    彼が聞いた遠い雷鳴のような音は、ちょうど北方に連なる三国山の方角から聞こえてきたものだった。
    しかし、それがカミナリ雲による稲妻の音なのか否かは知るよしもなかった。


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  • elyming♂ 2007/01/04 00:10:58











       ~ 遠きにありて ~   



     ●18時56分すぎ

    日航123便の機影がレーダーから消失した。

    その一報は、羽田の救難調整本部、各地自衛隊、警察庁外勤課、海上保安庁警備救難課
    運輸省航空局、管制保安部運用課に伝えられ、やがてその情報の断片は各報道機関にも
    流されていった。

    米軍横田基地では、所属のC-130輸送機に捜索依頼を決定した。



     ●19時01分

    自衛隊レーダーサイトからの独自の提案を受け、航空自衛隊百里基地(茨城県)から2機の
    F-4EJ戦闘機が捜索任務のため緊急発進した。日本側における最初の機動飛行であった。

    防衛庁上層部からの出動要請は、まだ行われていなかったが、現場上官の迅速な判断で行われた。

    F-4EJが発進したあと、百里基地では、ひきつづきMU-2救難機、V-107ヘリが救助
    活動のため待機中であった。しかし、通常は正式な出動命令が出ないかぎり、自衛隊は出動でき
    なかった。航空自衛隊側は、何度も運輸省など要請権者に出動要請を促していたが対応は遅れて
    いたのだった。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:11:40











         ~ 遠きにありて ~


        航空自衛隊 百里基地 ―――――


    百里偵察飛行団 第501飛行隊 斗来 保志一(とらい ほしいち)、日出見 栃郎(ひでみ とちお)
    城屋木 吉人(しろやぎ よしと)らは、ただちに出動態勢に入った。


      百里F-4EJ 2号機前席 日出見一等空尉「コントロールチェック コンプリート」

      百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉 「チェック コンプリート」



     ▽百里F-4EJ 1号機後席 城屋木一等空尉
    「ヒャクリ タワー レインボー01 02 リクエスト ゴー ゲイト」

    (百里基地管制塔へ AB アフターバーナーを使用しての離陸許可願います。)


     ◆百里基地 管制塔
    「レインボー01 02 ラジャ  アプルーブ エービー 
     コンタクト ディパーチャー アフター エアボーン」

    (出発機 了解。アフターバーナー使用での離陸を許可する。離陸後は出発管制に連絡せよ。)


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:12:49











      ~ 遠きにありて ~


    二人一組4人が乗った2機のF-4EJ 偵察機は、スクランブル発進のごとく轟音を上げて
    百里基地の空に舞い上がった。アフターバーナー(AB)を点火した機影が急上昇してゆく。


     ▽百里F-4EJ 1号機後席 城屋木一等空尉
    「ヒャクリ ディパーチャー レインボー01 02 エアボーン」

    (百里基地 出発管制へ われわれ2機は離陸しました。)


    基地管制塔のレーダースコープを監視しながら管制管が応答する。

     

     ◆百里基地 出発管制
    「レインボー01 02  ヒャクリ ディパーチャー  ラジャ レーダーコンタクト
     リポート リーチング フライトレベル ツー・ゼロ・ゼロ
     バックアップ フリクエンシー ワン・ツー・ツー デシマル シックス」

    (百里F-4FJ  レインボー01 02 了解 レーダーで機影を補足。高度2万フィートに
     達したら報告せよ。予備の緊急周波数は、国内航空機用共通の122.6MHZとする。)


    AB点火による急上昇により一時的に燃料消費は多くなるが、短時間で高高度に達することができ
    これにより目的地への飛行時間短縮が可能となる。


     ◆百里基地 出発管制
    「レインボー01 アルティチュード リストリクション キャンセルド
     ポジッション トゥウェニィ・ワン マイルズ ウェスト オブ ヒャクリ
     レーダーサービス ターミネイテド、 フリクエンシー チャンジ アプルーブド
     イン エマジェンシー  コンタクト ヒャクリ オペラ アンド トウキョーコントロール
     ワン・ツリー・フォー ポント ワン・ファイブ」

    (百里F-4FJ  レインボー1号機へ 高度制限を解除する。貴機の位置は、百里基地から
     西に21マイルの地点。レーダー監視を終了する。緊急時、周波数の変更は可能である。以後
     飛行部隊司令所 および 関東西セクター VHF周波数帯 134.15MHZに連絡せよ。)


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:13:33











     ~ 遠きにありて ~



     ◆東京コントロール
    「レインボー01 ユア アイ・エフ・アール キャンセル
     レーダーサービス ターミネイテド、リーブ オン フリクエンシー
     コンタクト ヨコタ ツリー・シックス・ツリー ポイント エイト」

    (百里F-4FJ  レインボー1号機へ レーダー誘導終了です。交信周波数を
     変更しても構いません。横田管制連絡 UHF周波数帯 363.8MHZ。)



     ▽百里F-4FJ 城屋木一等空尉
    「トウキョーコントロール レインボー01 
     ヨコタ ツリー・シックス・ツリー ポイント エイト ラジャ」

    (東京コントロールへ こちら百里レインボー01 横田基地 363.8MHZ了解。)



     ▽百里F-4FJ 城屋木一等空尉
    「ヨコタ エアベース  ジャパンエアフォース レインボー01 02
     ウィアー フライング トゥザ クラッシュサイト オブ ジャパンネア」

    (横田基地へ こちら百里F-4FJ 2機編隊 日航機123便の墜落現場に向かっています。)



    その頃、米軍横田基地に向かっていた同軍C-130輸送機は、横田管制の指示と位置情報を受けながら
    すでに日航機の墜落現場へと急行していた。軍事衛星等の正確な位置情報は、遭難機捜索の際にも強力な
    武器となるであろう。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:15:38











       ~ 遠きにありて ~



     ◆プーゼット・ホワイティー(米軍横田基地管制官)
    「レインボウ ゼロ・ワン ロジャ、 サム シー ワン・サーティ ハーキュリー ゴーイング
     ジャパンネア クラッシュポイント、 コウション シーフィット アンド コリジョン」

     ◆プーゼット・ホワイティー(米軍横田基地管制官)
    「トランスミット ア ネンパァシス アイデンティファイング シグナル 」

    (百里F4EJへ 横田は了解した。なお、こちら米軍の C-130輸送機も墜落現場に向かって
     いるが、貴機も山や他の航空機との衝突に注意されたし。貴機の強調識別信号を送信されたし。)

    ‘シーフィット’は、突然、山などの地表にぶつかる現象を、‘コリジョン’は航空機同士の
     衝突を指している。

     日本の空域、とりわけ羽田空域の西側に壁のごとく大きな管制権領域を持つ米軍である。
     日本の空に制空権を持つ横田レーダー米軍管制管の指示は的確なものであった。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:16:25











      ~ 遠きにありて ~



     ◆プーゼット・ホワイティー(米軍横田基地管制官)
    「レインボウ ゼロ・ワン ゼロ・ツー  ヨコタコントロール エリア  キャンセル
     リストリクション  ヴィ・エフ・アール アプルーブド、 リーブ オン フリクエンシー
     アンド コンタクト ユア ジー・シー・アイ スリー・ツー・セブン ポイント フォー」

    (百里F4EJへ 横田空域の飛行制限は解除しています。有視界飛行可能です。以後そちらの
     地上要撃管制 GCI 327.4MHZとの交信や、周波数の変更は構いません。)



     ▽百里F-4FJ 城屋木一等空尉
    「ヨコタベース レインボウ ゼロ・ワン ゼロ・ツー ラジャ サンキューサー」



     ▽百里F-4FJ 城屋木一等空尉
    「GCIコントローラー、 レインボウ ゼロ・ワン、 ウィアー ダーリングサーチ
     フライト トゥーザ ジャパンネア クラッシュサイト、 スタンバイ ディセント
     ア~ リクエスト ポジション オーバー」

    (GCI司令へ、こちら百里F-4FJ 編隊です。墜落現場への捜索飛行中ですが
     まもなく降下を開始します。飛行位置を確認したい。どうぞ。)


    百里偵察飛行団 第501飛行隊 城屋木 吉人(しろやぎ よしと) 一等空尉は、フライト
    ナビゲーションと同乗パイロットの交信をモニターチェックしながら有視界飛行でF-4FJ
    ファントム編隊の飛行を監視する。独特のクセを持つ機体ではあるが、飛び慣れた愛機である。
    ジェットの頼もしい音と振動が後尾から伝わってくる。GCI司令レーダーサイト等の情報を
    受けながら、徐々に高度を下げてゆくことになる。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:18:56











        ~ 遠きにありて ~



     ▼百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉
    「山が近いせいか、やけに雲が出てきたな・・・」

     ■百里F-4EJ 2号機前席 日出見一等空尉
    「先輩、ブリーフィングじゃ、山の方、サンダーセルの情報はなかったですよね?」

     ▼百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉
    「サンダーセルかぁ・・・マルチ(マルチセル)だろうがスーパー(スーパーセル)だろうが
     空の脅威(雷雲)はなぁ、くるときは くるものさ。」

     ■百里F-4EJ 2号機前席 日出見一等空尉
    「とにかく一刻も早くインサイトポジション(墜落現場の視認位置)特定ですね。」

     ▼百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉
    「助けられる命があるのを今は信じるしかない・・・」

     ■百里F-4EJ 2号機前席 日出見一等空尉
    「先輩、まさか空の脅威はないと思いますが・・・エマジェンシーコマンドのセレクターは
     マニュアル通り、ノーマルですよね?」

     ▼百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉
    「さぁなぁ・・・あの雷雨の最中のスクランブル事故以来なぁ、俺はこいつ(ファントム)と
     運命共同体だと思っているのさ。市街地への墜落を避けるため己の命を捨ててまで脱出手段
     を選ばずに死んでいった同僚の事故以来なぁ・・・」

     ■百里F-4EJ 2号機前席 日出見一等空尉
    「ええ? じゃ、今回の出動も脱出セレクターいじってあるんですか?」



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:19:57











        ~ 遠きにありて ~



     ▼百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉
    「我々の任務は国民の生命と財産を守ることだろ? ならば俺もあの事故と同じコントロール
     困難になった機体をだな、最後まで市街地を避けるべく操縦する道を選んだと思う。たとえ
     それが内規の緊急脱出手順要綱に反することだとしてもだ・・・」

     ■百里F-4EJ 2号機前席 日出見一等空尉
    「ということは、先輩・・・今回、万が一のことがあったら・・・」

     ▼百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉
    「俺が愛機もろとも死を選ぶとしてもだ、前途有望な後輩の命をムダに捨てる理由はないさ。
     君が座る前席の脱出だけは可能だからな・・・」

     ■百里F-4EJ 2号機前席 日出見一等空尉
    「しかしですね、先輩・・・」

     ▼百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉
    「だがな、安心したまえ。今回の出動ではノブは内規とおりノーマルのままだ。」

     ■百里F-4EJ 2号機前席 日出見一等空尉
    「それを聞いて安心しましたよ。」

     ▼百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉
    「優秀な君のことだ。ゆくゆくは教導隊で活躍するはずさ。君は君なりの考えで後輩たちの
     安全教育をしたまえ。俺はじきに引退の身さ。これからは君らの時代だから・・・」

     ■百里F-4EJ 2号機前席 日出見一等空尉
    「先輩・・・」




     ●百里F-4FJ 1号機後席 城屋木一等空尉
    「レインンボー ゼロ・ツーの お二人さん。レディオが入りっぱなしで、ひみつの話まで
     聞こえているぞ。」

     ▼百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉
    「ゼロ・ツー 了解。モニターはツーカーでよろしく。」


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:20:55











        ~ 遠きにありて ~



     ●百里F-4FJ 1号機後席 城屋木一等空尉
    「チェック スイッチング ガード」(UHF 緊急周波数 243.0MHZ 切り替えチェック)

     ▼百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉
    「ガード ノーマル」(緊急UHFチャンネル 切り替え異常なし)


     ●百里F-4FJ 1号機後席 城屋木一等空尉
    「チェック スイッチング ドッグ」(VHF 緊急周波数 121.5MHZ 切り替えチェック)

     ▼百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉
    「ドッグ ノーマル」(緊急VHFチャンネル 切り替え異常なし)


    目的地が接近してきた。雲の多い夜間降下を前に、先導機と僚機との間で緊急無線機能試験を行った。
    この二つ(UHFチャンネル、VHFチャンネル)の国際緊急用無線チャンネルは、コクピット内の
    レディオ コントロール パネルのスイッチ操作だけでチューニング可能だ。



     ●百里F-4FJ 1号機後席 城屋木一等空尉
    「ゼロ・ワンからゼロ・ツー、ヘディング280、マックホールド キャンセル
     これより雲の下へ降下する。」


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:21:49











        ~ 遠きにありて ~



     ▽百里F-4FJ 1号機後席 城屋木一等空尉
    「ヒャクリ オペラ、 レインボー ゼロ・ワン ゼロ・ツー  レス アルティチュード
     ・・・ア~ エンジェル ワン・ゼロ オーバー」

    (百里飛行司令へ、こちら百里F-4EJ2機編隊 え~ 高度1万フィートへ降下する。どうぞ。」



     ◆百里基地飛行部隊司令
    「レインボー ゼロ・ワン  オペラ コントロール ラジャ
     ディセンド アルト ワン・ゼロ タウザンド  コウション シーフィット」

    (百里レインボー 部隊司令了解した。高度1万フィートへ降下せよ。ただし地表衝突に注意せよ。)



     ●百里F-4FJ 1号機後席 城屋木一等空尉
    「ゼロ・ワン ゼロ・ツー ディセンド・・・ナウ」(01から02へ 降下開始)

     ▼百里F-4EJ 2号機後席 斗来一等空尉
    「ゼロ・ツー ディセンディング」(02 降下了解)



    パイロットパネルにあるメイン水平儀計器と予備回路の計器が
    暗闇の夜間飛行でも空間認識を得る上で重要な航空計器となる。

    計器表示やパイロットの身体に異常が起きれば、空と地表と機体姿勢などの空間認識を失う
    バーディゴ(空間識失調)に陥ることになる。


    夜雲のすきまに見えていた、星くずをちりばめたような関東平野の街あかりは、しだいに地上から
    消えつつあった。夜間の訓練飛行で慣れていることとはいえ、秩父山系一帯の夜の暗闇が、眼下に
    不気味に拡がり始めていた。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:23:04











        ~ シーフィット ~


    夜間における低空飛行、とりわけ、切り立った地形がつづく山岳地帯に分け入っての
    遭難救助飛行は大きな危険を伴っている。

    いわゆるシーフィット( CFIT : Controlled Flight into Terrain ) というリスクである。
    これは、航空機に何ら異常がないにもかかわらず、地表や山に衝突してしまうことの航空用語で
    パイロットが地形など事前の危険性を認識せずに激突してしまう現象だ。特に、雲中飛行、また
    晴れていても夜間時間帯での発生頻度が高い。‘シーフィット’は、突然、山や地面に激突する
    ので、全員死亡の確率が高い恐ろしい現象である。

    小型機やヘリが何のSOSを発しないまま行方不明となり、捜索の結果、山中に激突している
    といったニュースを聞くことがあるが、これも機体や計器のトラブル以外に、雲中や夜間での
    低空飛行に多い‘シーフィット’が、かなりの確率で含まれているといわれている。

    小型機やヘリに限らず、旅客機も例外ではない。

    統計によると、1988年から1997年までの10年間に起きた全航空機事故の死者のうち
    実に、およそ41%が、この‘シーフィット’によるものといわれている。


    古い事故では、1971年の夏、札幌(丘珠空港)発 函館行き 東亜国内航空 63便 YS-11
    ばんだい号 横津岳墜落事故があげられる。(※)

       (※)事故当時の夕方、悪天候による視界不良の中、函館空港上空での旋回アプローチ中
          空港から北西約15キロの横津岳に激突した。機長の体調不良説や、来日間もない
          副操縦士を含めた操縦乗員の空港周辺の航法地理や標高地形の誤認説などがある。


    1990年代では ――――
    1992年 タイ航空のエアバス機が、カトマンズ空港北方でヒマラヤ山系に激突した墜落事故。
    1995年 アメリカン航空のボーイング757型機が、カリ国際空港手前の山に激突した事故。
    1997年 大韓航空のジャンボ機が、グアム国際空港手前の丘に墜落した事故などは典型的な
          シーフィットによる墜落事故といわれている。


    近年の旅客機には、GPWS(対地接近警報装置)が装備されていて、危険が差し迫った場合
    パイロットに警告を発する。しかし、装備されているGPWSのタイプによっては、飛行状況
    により(例えば、フラップ、ランディングギアが降りている場合)警告を発しないタイプがある。
    衛星による地形走査を併用した改良型のEGPWS(機能向上型の対地接近警報装置)の普及が
    望まれる。しかし、飛行の状況や地形によっては、このようなハイテク装置をもってしても
    回避操縦が間に合わずに山に激突してしまうところに、‘シーフィット’の恐ろしさがある。


    救助ヘリが山岳地帯を飛ぶ場合、2次遭難にも注意が必要で、特に山岳地帯では
    晴れた日の日中であっても予測できない気流の変化があり、ベテランパイロット
    であっても油断できないという。雲量の多さや夜間ならば地表や地形の誤認など
    なおさらリスクが大きいことは言うまでもない。

    気温が上昇する昼間は、谷風と呼ばれる上昇気流や雲が発生しやすい。
    気温が降下する夜間は、山風と呼ばれる吹き降ろしの下降気流が発生することがある。
    しかし、これも気象条件や地形で異なり、局地的な気流を予測するのは、むずかしい。
    山岳遭難における救助活動において、天候や日没後といった時間帯で、その日の捜索が
    いったん打ち切られることが多いのも、そのような2次的リスクを回避するからである。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:23:52











      ~ 遠きにありて ~


     1985年8月12日 夜 ――――


     ●19時19分

    米軍機C-130は、ついに墜落現場を確認した。暗闇の秩父山系にあがるオレンジ色の炎と煙は
    まぎれもなく、日航機の墜落地点であった。


     ▽インプスター・トライレッサ 一等大尉(米軍C-130輸送機)
    「ヨコタ レーダー、 リーパット17、 ラージファイヤー アット ナイティーン・ナイティーン
     サーティフォー マイルズ ツリー・ゼロ・ファイブ ディグリー フローム ヨコタ・タカン オーバー」  

    (横田基地へ、こちら第36空輸飛行隊 C-130 リーパット17。午後7時19分 無線
     標識 横田TACAN から方位角305度、距離34マイルの地点で大きな火災を発見した。)



    そして、まもなく 航空自衛隊 百里基地から発進したF-4EJファントムも墜落現場を確認した。
    城屋木 吉人 一等空尉(百里基地 F-4EJ 偵察機パイロット)は興奮と落胆を抑えつつ無線で
    コントロールへ連絡を入れた。

     ▽百里F-4FJ 1号機後席 城屋木一等空尉
    「ア~ コントロール、 レインボー ゼロ・ワン、 イット コンファームド ビッグ ファイヤー
     アット ザ ジャパンエア クラッシュサイト、 ポジション アバウト・・・
     スリーツー マイルズ スリー・ゼロ・ゼロ ディグリー フロム ヨコタ ボルタック」

    (部隊司令へ、こちら百里F-4EJ レインボー01 日航機が墜落した現場の大きな炎
     を確認した。おおよその場所は、横田VORTAC から300度、32マイルの地点です。)


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:24:38











    ~ 遠きにありて ~


     ●19時35分

    当初、墜落現場は長野県側の県境付近との情報が流れていた。
    長野県警では事故に関する情報の収集を各地元警察署に指示を出しはじめていた。
    長野県臼田署では、南佐久郡北相木村を中心に捜索を開始した。

     ●19時45分

    運輸省航空局長に、日航123便墜落の対策本部が設置され、全国の警察を所管する警察庁にも
    日航機墜落情報を受けて事故総合対策室が設置された。


     ●22時ごろ

    自衛隊空幕は、運輸省運用課に対して、千葉県嶺岡山のレーダーサイトから日航機が消えた位置は
    北緯36度02分、東経138度41分であると連絡を入れた。




     ●19時54分

     航空自衛隊 百里基地 ―――――

     バタバタバタバタバタバタ・・・(V-107ヘリの音)

     パイロット 宇都宮 英美(うつみや ひでみ)は、すでに離陸のためのクロスチェックを終え
     基地の指令に出発の無線を入れる。

     ▽百里航空救難団救難隊 V-107ヘリ
    「ヒャクリタワー ヴァイタル55 エアボーン」

     ◆百里基地タワー管制
    「ヴァイタル55 リポート リーチングレベル・・・」

    事故から1時間ほどのときが流れていた。しかし、政府、運輸省などからの災害派遣出動要請はなかった。
    まだかまだかと出動要請を待つ航空自衛隊 百里基地では、航空救難団救難隊 V-107ヘリが離陸する。
    出動要請を見越しての、いわば見切り発進であった。


    20時すぎには、群馬県警 警備2課にも日航機墜落の事故対策室が設置され
    その後、政府内にも対策本部の設置が決定されるが、初動の遅れは否めなかった。



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:25:13




      ~ 遠きにありて ~



      警察庁 ―――――

    その頃、警察庁の外線電話に1件の情報がもたらされた。発進元は、日本アイソトープ協会であった。
    設置されたばかりの日航機事故総合対策室に内線電話が鳴った。


    警察庁事故総合対策室「はい、事故総合対策・・・」

    警察庁渉外 担 当 者 「もしもし、対策室ですね・・・え~、今、日航機墜落事故にからみまして
               日本アイソトープ協会から緊急に電話が入っております。外線つなぎます。」


    日航機墜落事故に関係して、日本アイソトープ協会から緊急情報が警察庁に入ったのであった。


     警察庁事故総合対策室
    「はい、こちら警察庁 日航123便 事故総合対策室です。」


    日本アイソトープ協会 阿華野 丈皇(あかの たけおう)専務理事からの一報であった。


     日本アイソトープ協会 阿華野 専務理事
    「あ~もしもし、アイソトープ協会です。え~至急、捜索関係機関にお伝え願いたいのですが
     ・・・日航機123便の貨物にですね、医療用のラジオアイソトープ(放射性同位元素物質)
     がですね、92個ほど、積載されております。放射能の強度や周囲への危険性はこちらでは
     判断できませんが、緊急情報として流してください。」


     警察庁事故総合対策室
    「わかりました。至急、防衛庁、自衛隊、地元警察、消防団など関係部署に
     連絡いたします。情報の提供ありがとうございました。」


     日本アイソトープ協会 阿華野 専務理事
    「はい、よろしくお願いいたします。」


    警察庁に入ったこの緊急の情報は、東京 市ヶ谷にある防衛庁 東部方面総監部をへて
    埼玉県大宮市(現さいたま市)陸上自衛隊 大宮駐屯地 化学学校(※)にも伝えられた。
    しかし、実際にその情報が化学学校に伝えられたのは、翌午前2時のことであった。

       (※)生物化学兵器など、毒物に関する自衛隊研究機関の一つであり
         地下鉄サリン事件の際にも活動を行っている。



    アイソトープ情報は、政府、運輸省、科学技術庁、防衛庁、自衛隊、地元警察機関等に伝達されたが
    これから深夜に入る時間帯だったこともあり、連絡を受ける担当者の対応もまちまちであった。日頃
    の危機管理意識の薄い部署では、担当者の対応によっては情報が末端に届くまで時間が必要であった。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:26:56




      ~ 遠きにありて ~


     ●20時21分

    長野・群馬県境‘ぶどう峠’付近をパトロール中の長野県警臼田署のパトカーから長野県警本部に
    無線が入った。


    臼田署パトカー「長野臼田35より県警本部へ、長野臼田35より県警本部へ」

    長野県警本部 「こちら県警本部、ナガノ35どうぞ」

    臼田署パトカー「え~、現在位置 北相木村の東、え~‘ぶどう峠’から200メートルほど群馬県側
              長野・埼玉県境方向・・・ ‘ぶどう峠’から見て南東方向にあたると思われますが
              山の上に黒煙があがっているのを確認。どうぞ。」

    長野県警本部 「ナガノ35、了解しました。え~、ゲンジョウ(現場)の黒煙視認は‘ぶどう峠’の
            南東方向、埼玉・長野県境でよろしいか?」

    臼田署パトカー「え~県警本部へ、こちらナガノ35、南東方向、三国山方向と思われます。どうぞ。」
            

    この一報は、警察機関を含めた地上からの目撃としては、最初の客観的な情報であった。これを受けて
    長野県警本部は、パトロール中の各警察車両や各駐在所に対して、目撃情報のさらなる収集を指示する。
    現地警察官らは、ぶどう峠、および三国山、三国峠(ぶどう峠の南東方向:埼玉・長野県境)付近一帯
    で事故現場の捜索や住人への聞き込み捜査を開始した。




     ●20時33分

    日航機墜落から、およそ1時間半・・・運輸省 東京航空局 航空機救難調整本部 羽田空港事務所より
    航空自衛隊 中部方面航空隊(入間基地)に対して、災害派遣要請が出た。これにより、航空自衛隊の
    救難部隊をはじめとする航空機は、その出動根拠を ようやく手にしたが、各地に展開する陸上自衛隊
    の地上師団には、この時点では まだ救援出動要請は出ていない。

    群馬県内では、陸上自衛隊 相馬原 第12師団偵察隊や第12戦車大隊などが、長野県内では、松本
    第12師団、第13普通科連隊情報小隊、第13連隊などが救難支援活動のための出動態勢を整えて
    いたが、運輸省側からの要請はなかなか出なかった。防衛庁から運輸省への要請催促も行われていた。
    その後、防衛庁内にも日航機事故への対策本部が設置される。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:27:53











      ~ 遠きにありて ~



     関越自動車道 ―――――

    午前中から続いていた お盆の帰省ラッシュはピークを過ぎていたが
    夜に入っても下り線の混雑は残り、依然として流れは悪かった。

    「まいったなぁ・・・まだ混んでんのかよぉ・・・」

    親譲りの スカイライン ジャパン のハンドルを握る若者は、練馬インターチャンジから
    本線に入ってそうつぶやいた。助手席には 今度結婚する彼女を乗せている。彼の実家で
    ある軽井沢に向かう途中である。

    カーショップでオイル交換したばかりで、クルマの調子は快調そのもの
    だったが、とてもハイウェイクルーズを堪能する速度ではない。

    それでも、ときどきクルマの流れがよくなる区間はあった。


    彼氏「そろそろ、サービスエリア入る?」

    彼女「そうね、実家にも遅れるって電話したら?」


    今までの渋滞は、徐々に解消に向かっているようだが、愛車スカイラインは
    左にウェインカーあげて高坂サービスエリアに入り込む。

    駐車スペースは、この時間でさえマイカーで埋まっていた。場所さがしも、ひと苦労である。
    エリア内をグルグル周ってみたが、ゼブラゾーンや路肩駐車の車にウンザリ。休憩施設から
    ほど遠い北側の大型スペースに、なんとか空きを見つける。ここもマイカーで埋まっている。


      バタバタバタバタ ババババ ブ~~~~~~~~~ン ダダダダダダダダ・・・


    クルマを降りて夜空を見あげると、大型のヘリらしき機影が衝突防止灯をチカチカと
    点滅させながら、東の空から西の方角へ飛び去ってゆくのが見えた。南西の方角にも
    何かの航空機らしき点滅光が複数移動しているのがわかった。


    彼氏「自衛隊のヘリかな?」

    彼女「けっこう低空飛行みたい・・・こんな時間に何かしら。」

    休憩施設に向かう二人は、用を済ませマイカーに戻る女性ドライバーとその子供
    そして車で留守番する家族らの会話に耳を疑った。

    父親「ママ、遅かったね(トイレは)混んでた?」

    母親「女子トイレ人でいっぱい、けっこう並んでいたわ。」

    父親「じゃ、パパもトイレ行ってくるからさ、クルマの留守番たのむよ」

    子供「ねえパパ、ヒコーキが長野の山ん中に堕ちたんだって。」

    父親「ママ、ホントか? またパパをからかうんじゃ・・・」

    母親「日航のジャンボみたいよ・・・さっき(施設の)中のテレビでやってたわ。」

    父親「長野の山ん中って・・・まさかウチの実家の方じゃないよな?」

    母親「ラジオつけてみれば? ニュースやってんじゃない?」



    長野の山の中に旅客機が墜落? それも日航のジャンボ機が?・・・
    にわかには信じがたい話である。

    彼女「ホントかしら・・・」

    彼氏「長野の山ん中だってよ・・・オレんちの近くじゃないよな・・・」

    彼女「早く実家に電話しなきゃ・・・ね?」


      ブ~~~~~~~~~~~~ン


    また1機、小型のヘリらしき音が、付近の夜空を通過してゆく音が聞こえた。
    どうも、ただごとではないことが起きているらしい・・・

    二人は駆け足で電話ボックスに向かった。



    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:30:14











      ~ 遠きにありて ~



     ●20時42分

    航空自衛隊 百里救難隊のV-107ヘリが墜落現場上空に到達した。

    宇都宮 英美(うつみや ひでみ)航空自衛隊 百里救難隊 V-107救難捜索機ヘリパイロットは
    上空を旋回しながら、現場の状況を報告する。


     ▽百里航空救難団救難隊 V-107ヘリ
    「オペル コントロール ヴァイタル55 ウイ リーチド ザ クラッシュサイト スカイ オーバー」

    (部隊司令へ、こちら百里救難隊 ヴァイタル55 墜落現場上空に到達しました。どうぞ。)


    基地司令の管制管も、午前中から基地管制業務の激務がつづいていた。しかし、日航機墜落という
    非日常的事態を前にして、疲労の色を出すわけにはいかなかった。


     ◆基地司令
    「ヴァイタル55  ラジャ レイディオ コンタクト バイ ジャパニース プリーズ」

    (ヴァイタル55へ 司令了解した。なお以後の交信は、日本語でお願いします。)


     ▽百里航空救難団救難隊 V-107ヘリ
    「ヴァイタル55 了解しました。え~ 墜落現場は、150から200メートルにわたり
     山腹が炎上しています。え~現場の位置は、横田タカンから299度、35.5マイル。」


     ◆基地司令
    「横田TACANから299度、距離は35.5マイル 了解しました。受信はパラレル。
     以後この周波数でOKです。現場の詳細を報告できますか?」


     ▽百里航空救難団救難隊 V-107ヘリ
    「え~ 現場付近上空は、捜索の航空機が集まってきている。現場への接近を試みる。」
     

     ◆基地司令
    「え~ ヴァイタル55 指令了解  空中衝突に注意されたし。飛行を十分監視するように。」


     ▽百里航空救難団救難隊 V-107ヘリ
    「ヴァイタル55 指令了解・・・現場の状・・・すが・・・煙の・・・」(交信が途切れる)


     ◆基地司令
    「ヴァイタル55 応答せよ、ヴァイタル55 応答せよ。」


      なぜか、しばらくの間、通信が途切れ途切れとなる。


     ▽百里航空救難団救難隊 V-107ヘリ
    「こちらヴァイタル55から司令へ え~墜落地点の状況ですが、山肌に大小の炎が上がっており
     煙が立ち込めている。距離や面積は地表の暗闇で不明。降下を試みたが、高度がつかみにくい。
     谷に入ると地形のためか、交信がうまく入らない。夜間の接近は危険と判断される。どうぞ。」


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:31:02











      ~ 遠きにありて ~



     ●20時50分

    米海軍 厚木航空隊基地を飛び立った海兵隊救難チーム UH-1ヘリも、墜落現場上空に到着した。


     ▽米軍海兵隊 プリメラァ・ヒロターン一等海尉(救難機 UH-1ヘリ)
    「コントロール ドラゴン11 フロム ナウ イットユースア サスペンションズ ディセント ロープ
     アンド プランズトゥ ロウワー トゥーメンバーズ トゥ ザ クラッシュィング スポット 」

    (基地指令へ こちら海兵隊ドラゴン11 これより2名をロープ懸垂降下で墜落地点に降ろす予定。)


    米軍のUH-1ヘリは、墜落現場付近に海兵隊員2名をラペリング(垂直降下)する計画であった。
    しかし、厚木および横田の基地司令部は、事故現場からの帰還命令を出していた。


     ◆ピニン・キャメラーナ司令官(基地指令)
    「ドラゴン11  ベースコントロール  ナウ ストッパ レスキュー アクティビティ アンド
     リターン トゥ ザ ベース オーバー」

    (基地指令からドラゴン11へ 救助活動を中止し、基地へ帰還せよ。どうぞ。)


     ▽米軍海兵隊 プリメラァ・ヒロターン一等海尉(救難機 UH-1ヘリ)
    「ベースオペラ  ホワッツ ザリーズン フォー ストッピングア レスキュー アクティヴィティ?」

    (基地指令へ 救助を止める理由は何か?)


     ◆ピニン・キャメラーナ司令官(基地指令)
    「ビコゥズ ジャパンネアフォース アンド アナザーエアクラフト イズ ヘディングフォー
     ザ クラッシュサイト・・・アンド ゼアイズ デンジャー オブ コリジョン オーバー?」

    (日本の自衛隊などが墜落現場に向かっているため、現場上空は飛行機同士の衝突危険性がある。)


    その間、米軍海兵隊や自衛隊の無線交信をモニターしながら、それまで上空で旋回待機していた
    米軍C-130輸送機も 無念ではあったが、UH-1ヘリと共に基地への帰還飛行を決断した。


    米軍機が墜落現場上空を離れる頃、朝日新聞東京本社ヘリ「ちよどり」が
    墜落現場上空に接近していた。


    0

  • elyming♂ 2007/01/04 00:31:50











      ~ 遠きにありて ~


    123便の客室後部に座っていた非番の客室乗務員は、墜落と同時に激しい衝撃を感じ
    一瞬にして意識は遠ざかった。しかし、その一瞬の時間の中で、多くのことが走馬灯の
    ように頭の中を駆け巡っていた。

    どれくらい時間が経ったのかは判らなかった。やがて真暗な暗闇の中で ヘリコプター
    の音が聞こえた。あかりは見えなかった。しかし、音は、はっきりと聞こえていた。
    それも、そんなに遠くではなかった。

    『ああ、これで、助かるんだな』夢中で右手を伸ばして手を振った。

    しかし、ヘリコプターの音は、しだいに遠くの方に去っていった。
    もう一度一生懸命に手を振る。

      『助けて』『だれか来て』しぼるように声を上げてみたが・・・


    このとき、彼女の周囲では、まだ、何人もの荒い息遣いが聞こえていた。

    家族の顔や、それまでの人生など、いろいろなことが走馬灯のように再び頭を駆け巡っていた。
    そしてまた、あの激しい衝撃を思い出す。意識が、また薄れていく・・・



                                <第24幕につづく>


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