一昔前に流行った◯ットイナズマ、◯コサンダーなどのコンデンサチューンですが、公取から排除命令(現在は消費者庁ができて、名称が措置命令に変わっている)が出たので、一部商品を除いて今では殆ど一掃されました。
このコンデンサチューン、元を辿ればボンファイアが元祖だと思う。
そもそも昔のポイント式の点火装置においては、一次電流の遮断を妨げ、接点を消耗させるアークを吸収する為に、コンデンサが付いていた。
ボンファイアは、これを置き換えるチューニングパーツなので、広告には「ポイント(接点)の寿命が約10倍延長する」だとか「二次電圧の増大に依りミスファイアがなく始動は一発」などと謳っていました。
見た目は何の変哲もないタダの筒型コンデンサですが、どうやら「高性能コンデンサ」だったらしい(?)
昭和40年代前半の雑誌にすでにボンファイアが登場しているので、その歴史はかなり古いですね。
↑モーターマガジン68/4号のボンファイアの広告(隣は初代フェローの広告!)
広告を見ると特殊半導体素子応用・・・などと謳ってますが、仕組み等の説明もなく一切謎です。
この商品、つまるところ(ポンコツ車の)劣化したコンデンサを新品に置き換えれば・・・のシロモノだったのではと思うが、値段は結構高い(定価2,000円なので一見安く感じるかもしれないが、今の貨幣価値に直すと15,000~20,000円!)
ちなみに、通販なんかでよくある「個人の感想であり、効能ではありません」というのは、メーカー自ら効能を謳うと、それを証明できなかったときに措置命令を喰らってしまうので、それを避けるための「おまじない」みたいなもの(笑)
50年以上前の広告なので、30%馬力アップとか、燃費が5~15%改善とか、堂々と数字で効能を謳っていますが、今なら即アウトです。
それでもこのボンファイア、効果の程はともかくとして、一応は理にかなった商品だったのですが(もちろん肯定する気はなく、ただのコンデンサを理屈並べて高値で売っていたんだから、立派なボッタクリ商品ですが)、ダイレクトイグニッションが当たり前の21世紀になって、不死鳥というよりは亡霊の如く蘇った「バッテリーに並列接続するだけのコンデンサチューン」は、全くもって意味のない商品でした。
↑昔のエロ雑誌とかによく載ってた
理論的には「鉛のバッテリーでは、即時に必要な電力を出力できないので、◯ットイナズマがあれば、◯ットイナズマ側から出力するため、アクセルオンなどの突出した電力が必要な際に安定供給できる」んだそうです。
・・・ですが、まず「鉛バッテリーが即時に必要な電力を出力できない」っていうのが、何を言ってるのかさっぱり理解できません。
たぶんCレート(放電レート)の話かと思いますが、レート特性が問題になるのはEVやPHEVの話で、内燃機関車であれば、エンジンを掛けるという本来の役目を果たせれば、それで十分だと思いますが??(もちろん瞬間的に200Aとかの電流を流すので電圧降下は伴うけど、なにか支障でも?)
それと、そもそも走行中の電力供給はオルタネーターがやっているので、前提からして間違っています(※1)
もちろん、A/Cを掛けるなどして(最近の車は可変容量式なので、段付きにならないよう設計されていますが)、急に電気負荷が増え電圧降下した場合には、バッテリーから瞬間的に持ち出しになるケースも考えられますが、ICレギュレーターですぐに必要な電力が調整されますし、そもそもアクセルオン程度で持ち出しにはなりません(※2)
ついでにもう一つダメ出しすると、「470μFが低速用で4700μFが高速用」と使い分けてるみたいですが、並列で繋げれば合計されるだけなので、もし本気でそのように設計したなら、九九を言えない理工系学生と一緒。
と、この時点で既にツッコミどころが満載なのは、逆に「科学や車のメカに詳しい人は買うな」というメッセージなのかもしれませんが・・・
実際、アクセルを煽って一体どれだけ消費電流が増えるか実験したことはないですが、仮に一時的に僅かな電圧降下が起きたとしても、スパークが飛ばせなくなるとか弱くなる訳ではないので、何も影響はありません(多少の電圧変動でもきちんと作動するように設計されている。そうでなければ、しょっちゅうエンストや息つきを起こす)
また、百歩譲ってスパークが弱くなると仮定しても、合計5170μFの電解コンデンサ数個をバッテリーに並列接続したところで、コンデンサからの放電分はそれこそ一瞬で、イグニッション付近ではオシロで計測しても、まず測定できないレベルでしょうから、何一つ貢献しません(スパークが強くなる訳ではないので、「トルクが上がった」はプラシーボです)
っていうか、鉛バッテリーが、本当に即時に必要な電力を出力できないとしたら、
今時の充電制御車は成り立ちません。
それでも、「トルクはともかく、アクセルレスポンスは確かによくなった」と主張される方にもう一つ付け加えると、電気の伝わる速さは光速と同じと考えられているので、それもプラシーボ以外の何物でもありません。
というのも、光速は毎秒約30万キロメートルであり、アクセルを踏んでからスロットルが開くまでの遅れ(約20~30ms=2~3/100秒)や、スロットルが開いてから気筒内に空気が取り込まれるまでの遅れ(約100ms=1/10秒)の方が、時間的なラグはずっと大きいからです(※3)
ちなみに毎秒約30万キロメートルの速さだと、なんと
一秒間に地球を7周半できます!
特に、取り付けの容易性を狙って発売された、◯ットイナズマポケット、◯コサンダーミニみたいなシガーソケットに差すだけのヤツなんて、何がしたいのか全くわかりません(※4)
ただ面白いのは、モーターマガジン68/4号を見ると、ボンファイアの類似品として、ニューサンダーボルトやE-upという商品の広告も載っていますが、このE-upという商品には「ダッシュ型」といって取り付けの容易な室内置き型の設定もあったこと。
↑モーターマガジン68/4号のE-upの広告
そう、すでに50年以上前にも◯ットイナズマポケットみたいな商品があったんですよ(というかこの業界、発想が何十年も変わっていない・・・)
なお、◯ットイナズマですが、回路保護設計がしょぼかったせいで(たぶんヒューズだけと思われる)、サージ電圧に耐えられず発火事故を起こして、自主回収騒ぎになりました。
以下は、国交省自動車局プレスリリースから引用です。
『不具合の内容
電圧安定化装置(◯ットイナズマシリーズ)において、回路保護機構の設計値を超える、バッテリから生じるサージ電圧(70V~20KV)が繰り返し印加されることにより、基板部品及び基板の一部が破損し、これをきっかけとして基板パターン間での放電が生じ、基板へ炭化導電路が生成され、トラッキング現象が起き、発熱、発煙、発火が生じるおそれがある。』
↑こちらは類似品をバラしたもの(拾い画像)一応ヒューズは付いているが・・・
「バッテリから生じるサージ電圧」という表現が解りにくいですが、要は開閉サージなどのEMS(外来ノイズ)で間違いないです。
今回は基盤のトラッキング(ショート)が原因ですが、サージ電圧でコンデンサ自体が破裂、発火に至る可能性もあります。
↑EMSは主に開閉サージ(特に遮断サージ)でしょう。ちょっと電気に詳しい程度でもせいぜいロードダンプぐらいしか認識していないかもしれませんが(※5)、実はA/Cを切った際など、スイッチ(リレー)のオフ時の急激な電流変化による逆起電力により、過渡的な高電圧サージが発生することがあります(画像は菊水電子工業のPDF資料より引用)
↑純正パーツ、あるいは社外品でも真っ当なメーカーの製品であれば、当然各種バリスタやツェナーダイオードなどでEMS対策がされていますが、それ以外だと何も考えておらず(あるいは知らないだけか)、素人DIYレベルの設計なので回路保護はヒューズのみという場合があります。その手のメーカーの後付パーツや、自作品を取り付ける場合は気をつけてください(画像はTDKのHPより引用)
ちなみに、当該メーカーのHPだと(以下、HPより引用)
『さて、2003年2月より販売しております「◯ットイナズマ」シリーズの下記対象製品におきまして、お車のバッテリーから生じる電圧が影響して、発熱、発煙、発火が生じる恐れがあることが判明しました。』
と、製品ではなくバッテリーのせいとも取れるような書き方・・・いずれにしても、「百害あって一利なし」の典型です。
なお、メーカーに言えば対策部品(事故以降の製品にはツェナーダイオードが付いているようなので、たぶん同じもの)を無償配布して貰えたようですが、類似品や自作品にも同じリスクがありますので、未だにコンデンサチューンをやってる人はもう殆どいないとは思いますが、一応注意喚起しておきます(このメーカーの製品は販売数が多かったので、たまたま発火事故が続いただけでしょう)
この手のコンデンサチューン、一昔前には結構流行ったんで、車好きには文系(orなんちゃって理系)の人が多いのか、それとも陰謀論などにハマるのと同じ理屈なのかわかりませんが・・・いずれにしても、
発火事故にだけは気をつけてください
(確率論的には宝くじに当たるようなものかもしれませんが、愛車が燃えたらシャレになりません)
かくいう私も、20年以上前ですが「オートメカニック」に騙されて(?)アーシングをやったことがあり、直後は「なんかエンジンの掛かりが違うし、アクセルレスポンスもよくなった。オーディオの音も澄んで聞こえる」とご満悦だったんですが、しばらく経って外したところ、何の変化もありませんでした・・・
(このブログはあくまで個人の感想であり、効果には個人差があります)
注釈
(※1)
なお、充電制御車の場合は、加速時などに発電を止めてバッテリーの電力を使うことで、エンジンに掛かる負荷を減らして燃費を向上させています。
(※2)
以下、モーターファンより引用(カーメディアでありがちなコタツ記事ではなく、バッテリーメーカー等に取材した記事)
『バッテリーが蓄えている電力は、消費電力がオルタネーターの発電能力を超えた時だけ補助的に使うもので、バッテリー全体の容量でいうと、せいぜい2%程度の出入りがたまに起こる、というものだった。
回生やアイドリングストップが入ってきても、基本的にその使われ方は変わらない。頻度こそ多くなるが、出入りが5%程度に増えたか?という程度だという。』
(※3)
昔、「1/100秒から1/1000秒の技術へ。あ、この瞬間が◯産車だね」などとCMで言っていたメーカーがありましたが、そんな僅かな瞬間は、エスパーでもない限り体感できません。
(※4)
余談ですが、ネット上で理系?の人が「オルタ(ダイオード)は交流の中からプラスの電気を取り出すだけなので、0~12Vという電圧変動が生じているが、これを平準化できる」とか言っていました。
厳密に言えば、リップル電圧はありますが、電解コンデンサを並べた所でそれを取り除くのは無理だし、取り除く必要もありません。
もし0~12Vで変動していたらオルタが壊れてますし、車は動きません。
(※5)
バッテリー交換時にメモリーを残すために、「ショートさえしなければ大丈夫」と言ってエンジンかけながらバッテリーを外す素人が(整備士にも)いるみたいですが、「知らぬが仏」でしょうね。