いつも休日は朝から気分がいいものだ それも空気が澄んだ朝は特別な日になる
木曜の休日の朝 目覚めもいい 天気もいい 小豆の散歩も終わり ソファーに腰を下ろし
壁時計を見つめる
自然と『ふ~』と小さなため息が・・・視線を感じる いや気配を感じ取ろうとしている自分が
いる
洗濯機の動き出す音さえも感じ取れる
『いい加減 検診に行ったら S先生待ってるよ』と感じる視線の先から・・・
『薬がもう無いから ちゃんと貰ってこないと』
薬の事を言われると 証拠を突き付けられた犯罪者の様に凍り付く
それにしても 小豆を叱る口調と同じだなと心の中で 微かな口こたえを・・・
2か月に一度の循環器系の検診日 平日の午前 待合室には多くの迷える人々が
診察券を出す前に必ず本屋に立ち寄り 本を買う・・・それは時間の流れを楽しむ唯一の抵抗手段である
流行りの書を手に取って病気自慢のざわつきの中 意識が開いた小説の中に吸い込まれていく
その小説は宮下奈都 作 『羊と鋼の森』
何故か自分の青年時期とクロスする思いが・・・
看護師さんの名前を呼ぶ声で現実に戻され 処置室で真っ赤な液体が抜き取られる様をみて ドーピングでもして検査値改ざんしてやろうかと悪魔が脳裏を駆け抜ける
そうすれば 薬という鎖から解き放されるのではないかと 浅はかな思いが・・・
また待合室に戻り 検査診断までの時間の流れを 自分に置き換えながら小説の中へ・・・
暫くすると また現実に呼び戻され 目の前には白衣を着た現実の悪魔(Sが先生)がほほ笑みかける
『今日は早かっただろ』
『ちゃんとカルテ出して待ってたからな』
先日 私の仕事場に来ていた時に 必ず木曜日に行く約束をしていたからだ
検査値を見ていつもの聞き慣れたセリフを 本を閉じ今日も聞いたふりをする
『ところで今日の本は何だ?』と
カバー取って見せると もう読んだよと
『なぜか若い時を思い出す』と同じことを言う
悔しいから家に戻り読み切った・・・
やはりこの主人公 職種は違うが何故か同じ香りがする
・・・明日 S先生が来る 今度は私が悪魔になる番だ
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Posted at
2016/08/05 13:20:24