WLTP Gear-Shifts Calculatorに関する第3回です。
追記--------------------
2017年04月04日に道路運送車両の保安基準の細目を定める告示の一部が改正され、WLTCモード法が記載されました。
報道発表資料、国土交通省
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000182.html
道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2017.04.04】 別添42(軽・中量車排出ガスの測定方法)
http://www.mlit.go.jp/common/001184850.pdf
※WLTCモード法は58ページから記載されています
この告示の76ページから「手動変速機を備えた自動車におけるギヤ選択及びの変速位置の決定」について記載されている。
従って、正確な手順は告示を参照してください。
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※WLTP:
Worldwide harmonised
Light vehicles
Test
Procedureの頭文字。「乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法」と訳される。
WLTP Gear Shifts CalculatorとはMT車でWLTPの試験をする際の変速位置の計算機です。詳細は
第1回、
第2回をご覧ください。
WLTP Gear-Shifts Calculatorがどのようにして変速位置を計算しているのかを知るためにインストールパッケージのフォルダ\wltp-0.0.9a4\docs\内にある「23.10.2013 ECE-TRANS-WP29-GRPE-2013-13 0930.docx」という資料を読んでいきたいと思います。変速に関係する箇所は69ページから始まるAnnex 2です。変速位置決定の基本方針と具体的な手順、運転のしやすさや実用性を確保するための追加要件が記載されています。尚、原文は英語なので私がテキトーに翻訳しています。誤訳や用語の誤用などありましたらご指摘ください。拙い翻訳ゆえ理解できない箇所があるかもしれません。そこは翻訳した私自身も理解できていないか私の言語能力不足とお察しください。
インストールパッケージのダウンロード;
トップページhttps://wltp.readthedocs.io/en/latest/内、PyPI repo:https://pypi.python.org/pypi/wltpをクリック、Packageリスト内wltp 0.0.9a4をクリック、ページの一番下、wltp-0.0.9a4.zipをクリックするとダウンロードできる。
※wltp gear-shifts calculatorのホームページに「
5.Annex 2」として同様の資料が掲載されていますが内容が一部異なります。インストールパッケージに含まれる資料のほうが実際の計算に近い気がします。
本文に入る前に、WLTPのMT車の変速位置について注目すべき点は2つあると思います。
まず最も注目すべき点は、変速位置決定のプロセスが公開されていることでしょう。つまり誰でも試験時の変速について調べることができるということです。私のような素人でも、です(必要なデータを入手できるかどうかは別として)。
次に注目すべき点は、「パワーに余裕がある限り高いギアを使う」という姿勢だと思います(本文中「3.4.最有力なギアで仮決定する」を参照)。高いギアを使う、つまりエンジンの回転速度を落とすことでカタログ上の燃費は良くなりますし、排出するCO2やほかの汚染物質も少なくなるでしょう。
本文に入る前に、その2。
今回は数式がたくさん出てきます。codecogsというサービスを利用して、画像化した数式を貼り付けています。外部サービスのため数式が表示されるまで少し時間が掛かるかもしれません。私の環境ではPC(firefox、chrome)でもiPhone(chrome、safari)でも表示されましたが、もし表示されないという方はゴメンなさい。
数式はフォトギャラリーにUpしたものを貼り付けています。
目次
1.基本方針
2.計算に必要なデータ
3.計算により最有力なギアで仮決定
4.変速位置に関する追加要件
目次の3.をもう少し詳しく。
3.1.必要なパワーを計算する
3.2.各ギアでのエンジン回転速度を計算し、使用可能なギアを求める
3.3.使用可能な各ギアで使えるエンジンパワーを計算する
3.4.必要なパワーを上回るギアのうち、最も高いギアを最有力とし仮決定する
上記3.1.~3.4.で試験サイクル全体を通しての変速位置を仮決定します。そのあと4.の追加要件に従い変速位置を修正します。
本文に入ります。
Annex 2(付属文書2)
MT車の変速位置を決める
1.基本方針
1.1.本稿で述べる変速位置の決定手順は手動変速機またはセミオートマチックトランスミッションを持つ車両に適用する。
1.2.試験サイクルの任意の場面において、走行抵抗と加速力から計算される必要なパワーと、各ギアで使えるエンジンパワーに基づいて変速位置を決定する。
1.3.エンジン回転速度と全負荷パワーカーブに基づいて変速位置を決定するが、エンジン回転速度と全負荷パワーカーブはそれぞれ正規化したものを用いる。エンジン回転速度はアイドリング回転速度から最大出力発生回転速度までを正規化、全負荷パワーカーブは最大出力と正規化したエンジン回転速度で正規化する。
1.4.Annex 8によって試験を受ける車両は適用外とする。
2.必要なデータ
試験はシャシーダイナモを使って実施する。変速位置を決めるには下記のデータが必要である。
(a)
:エンジンの最大出力。メーカー公称値。
(b)
:エンジンが最大出力を発揮するエンジン回転速度。この回転速度に幅がある場合は中間値を採用する。
(c)
:アイドリング回転速度。Annex 1で定義する。
(d)
:前進用のギアの段数。
(e)
:3速以上のギアの最低エンジン回転速度。次式で決定する。
メーカーは上式よりも大きな数値を要望できる。
(f)
:オーバーオールギアレシオ。iはギアを表す。エンジン回転速度[rpm]を速度[km/h]で割った値。
(g)
:Test Mass、試験重量。単位はkg。
(h)
,
,
:走行抵抗係数。Annex 4で規定する。単位は順にN、N/(km/h)、N/(km/h)
2。
(i)
:正規化した全負荷パワーカーブ。
と
で正規化する。
訳者注)wot:
wide
open
throttle。スロットル全開の状態。
3.必要なパワー、各ギアのエンジン回転速度、使用可能なエンジンパワーから最有力な変速位置を計算する
3.1.必要なパワーを計算する
試験中の任意の時刻jにおいて、走行抵抗をはねのけて加速するために必要なパワーを次の式で計算する。
式中における変数、係数の説明;
:走行抵抗係数。単位はN
:走行抵抗のうち、速度に比例する成分を表す係数。単位はN/(km/h)
:走行抵抗のうち、速度の2乗に比例する成分を表す係数。単位はN/(km/h)
2
:時刻jにおける必要なパワー。単位はkW
:時刻jにおける速度。単位はkm/h
:時刻jにおける加速度。単位はm/s
2。
:試験時の車両重量。単位はkg
:駆動系の慣性抵抗を考慮した因子。1.1とする。
3.2.エンジン回転速度を求める
車速が1km/h未満ではエンジン回転速度はアイドリング回転速度
とする。ギアはニュートラルでクラッチをつないでおく。
車速が1km/h以上のとき、時刻をj、使用ギアをi、試験サイクルが指定する速度を
とすると、エンジン回転速度
は次式で求める。
を満たすときギアiは速度
において使用可能である。
および
は下記で求める。
3速以上の場合
2速かつエンジン回転速度がアイドリング回転速度の90%以上の場合
は下記のいずれか大きいほうの値とする
もしエンジン回転速度が上記
未満であれば、クラッチは切らなければならない。
1速の場合
3.3.使用可能なエンジンパワーを求める
試験サイクル中の任意の時刻jにおける速度
に対し、使用可能な各ギアiで使えるエンジンパワーを次式で算出する。
なお
は次式で正規化したエンジン回転速度である。
他、式中における変数、係数の説明;
:最大出力、kW
:
全負荷パワーカーブに対する割合。エンジン回転速度がのときの全負荷時のパワーの、正規化した全負荷パワーカーブに対する割合である。
最大出力に対する割合。エンジン回転速度
のときの使えるパワーの最大出力に対する割合。
:セーフティ・マージン。安定した状態での全負荷パワーカーブと過渡的な状態での全負荷パワーカーブとの差を考慮したマージン。0.9とする。
:アイドリング回転速度、rpm
:エンジンが最大出力を発揮するエンジン回転速度、rpm
3.4.最有力なギアで仮決定する
最有力なギアを以下で仮決定する。
(a)
(b)
試験サイクル中の任意の時刻jにおける最有力なギアは上記を満たすギアのうち最も高いギア
で仮決定する。ただし、停車からの発進は1速を使用しなければならない。
4.変速位置に関する追加要件
仮決定した変速位置は以下に示す要件と照合し修正しなければならない。頻繁な変速を回避するとともに、運転のしやすさと実走行における変速に沿うものであることを確保するためである。
これらの修正により変速位置が更新される。更新したために要件を満たさなくなる可能性があるため、照合・修正は2度行なわなければならない。
(a) 停車状態からの発進では1秒前にクラッチを切った状態で1速に入れなければならない。1km/h未満を停車状態とする。
(b) 加速中は飛ばしシフトをしてはならない。また加速中、減速中はギアを少なくとも3秒間は連続して使用しなければならない。
例;112233333という仮変速位置は111222333と修正する
(c) 減速中は飛ばしシフトをしてもよい。減速の最後、停車する際はクラッチを切るかニュートラルに変速してクラッチをつないでもどちらでもよい。
(d) 加速から減速に転じる際に変速してはならない。
例;時刻jに続く速度が
と加速から減速する場面において、時刻jおよびj+1の仮変速位置が共にギアiである場合、時刻j+2での仮変速位置がi +1であったとしてもギアiを保持しなければならない。
(e) 変速から5秒以内に元のギアに戻る場合には、その変速は行わない。
例;23332 は 22222、4333334 は 4444444 とする。
ただし、使用可能なギアでなければならない。
(f) 次の2つの条件を満たす場合、1秒だけの一段低いギアへの変速は、変速しない。
(1) エンジン回転速度が
を下回らないこと。
(2) 1秒だけの一段低いギアへの変速が、試験サイクルのLow、Medium、Highにおいては4回以上、Extra-Highにおいては3回以上起きないこと。
条件(2)について。低いギアへの変速をなくすことにより、引き出せるエンジンパワーが必要なパワーを下回る可能性があるため、必須である。
(g) 高い速度域での加速で、低いギアを少なくとも2秒以上必要とする場合、低いギアの直前のギアは低いギアに修正しなければならない。
例;時刻jからj+6にかけて速度が
と単純増加する場面において仮変速位置が2333223である場合、2222223と修正する。