●KPGC10のカッコよさ
僕にとって「R」は、昭和の「スカイラインGTR」(KPGC10)の様な、快適装備や走りには関係が無い余計なギミックを一切排し、兎にも角にも、走る事に特化したスパルタンなモデルである、と子供の頃から擦り込まれている。
今でもそれは正しいと思うし、「R」のカッコ良さだと思っている。
●Honda-R登場の期待
だから1989年にスカイラインGTRが錦の御旗を掲げて復活した時、思わず涎で濡れた食指を伸ばしそうになってしまったが、すぐには飛びつかなかった。
やはり、僕が好きなHondaが、GTRに匹敵する様な『Honda-R』を世に送り出して欲しいと思っていたからだ。
F1で世界を制し、NSXやBeatを開発したHondaなのだから、その様な“期待”があって当然だったのである。
期を満たして、92年にNSX-Rが登場したのだが、当時(そして今も)Honda流の「R」は誰もが手に入れる事ができないスペシャルなスーパーカー。
それ故に、グッと身近な存在である「インテグラ TYPE-R」が登場した時は、PreludeとBeatを下取りに出して、この「R」の購入を本気で検討したのだが、当時の僕を取り巻く生活環境や経済事情等が「この手のクルマ」を迎える事はできず(要は周囲を説得できるだけの根拠とタイミングが合わなかった、というわけなんですけどね...)、結局、結婚を機に「Accord Wagon」への乗り換えで一段落してしまった。
その後、進化をし続ける一連の『R』を横目で見つめながら、僕にとっての「R」はKPGC10同様の「遠い憧れ」となってしまったのである。
●FD2購入決意
それから約10年、2007年に「Civic TYPE-R(FD2)」が登場した。今度の「R」は家族持ちのお父さんでも、家族への「大義名分」を作り易い、「4drセダン」(!)。このクルマの登場で心の中で凍結していた「Rへの憧れ」が緩んだ。我が家の子供達もそれなりに成長したし、10年目を迎えた「Accord Wagon」の買い替え時期の検討も重なり、今度こそ「Honda」の「R」を手に入れようと決心をした。
しかし、NSX-Rを除く歴代の「R」と比較して、とことん作りこまれ、煮詰められた「FD2」の素性とポテンシャルは、価格と比較して当然お買い得車とわかりつつも、やはり諸経費込みで約300万円の出費はきつい。
●「R」との思わぬ出会い
新車での購入は諦めて、1回目の車検を迎える頃になれば、いくらか中古の玉数もそろうだろうと、高年式中古車をターゲットにすることに決めた。
そのころから密かに「R購入資金・貯蓄計画」(“へそくり”とも言う)を始めたのだが、2008年暮れあたりから、ぼちぼちと中古市場に出回り始めた「Civic-R」の中から、現在我が家の車庫に鎮座している、2007年初期型ロット、スーパープラチナメタリック、オーディオレスの「Civic-R」を八王子にあるHondaCarsで見つけてしまった。
当初予定した時期よりも、1年前倒しとなってしまったが、2009年初頭に横浜の自宅から約1時間かけて、八王子にあるHondaCarsへ「R」を見に出かけた。
ディーラーのガレージで初めて対面した銀色の「R」は、約2年落ちでありながら、まるで新車の様にボディもホイールもかすり傷がほとんだ目立たない、ピッカピカの極上車だった。
実走行距離数は2万キロ近くではあったが、室内も、ドライバーシートの腰があたる部分に多少のスレがあるものの、助手席や後部座席などはどう見ても未使用な状態。
新車特有の香りまでもがまだ仄かに漂っていた。
担当のセールスさんからの情報によると、前のオーナーは、この「R」を日常の足としてはほとんど使用せず、趣味のクルマとして、主にサーキット走行を楽しんでいたそうだ。サーキットでは純正18インチホイールとPOTENZA RE070は使用しなかったそうで、タイヤの減りもほとんどなかった。
おまけに「フロアマット」「ドアバイザー」「ビームライト」「フロント5段階減衰力調整機構付きのModuloスポーツサスペンション」「Honda純正ETC」が装備された上に、ボディ全面に「G'Zocのガラスコーティング」も施されて(この様な時、中古ってお得で、えーなぁと思ふ…)おり、可能な限り高年式で特上の中古車を望んでいた身の上にしてみれば、願っても無い好条件だった。
もちろん、試乗をさせてもらった後に何もためらいもなく契約書にサインをした。
10数年来、「遠い雲の様な“憧れ”」が突然、目の前に姿と形を伴って現実化した瞬間だった。
遠回りこそしたが、至福の時である。
●FFらしからぬ「Civic-R」
納車されてから、さほどワインディングロードを走ったわけでもないのだが、「R」はプロドライバーのインプレッション通り、兎に角よく曲がってくれるので驚く。
ハイグリップ性能を誇る、RE070の貢献もあるのかもしれないが、こんなに素直によく曲がってくれるクルマはMRのBeat以来だ。
僕はHondaをこよなく愛してきたのだが、FFは未だよく曲がらないという偏見がある。
だがFD2はハイパワーであるが故に発進時にトルクステアを少し感じるが、FF特有の頭の重さから来るかったるさが無い。
リアにもしっかりと仕事をさせている。これはすごいと思う。
道路の小さな凹凸でも突き上げが激しい「硬い足」も、「Rに乗るとはこういうことである」と教えられる。(因みに僕のRにはModuloスポーツサスペンションに換装されているが、減衰力は一番硬い「5」のまま)。
2速から3速にかけて6000回転あたりから強力なパワーとともに聞こえてくる木管楽器の様な甲高いK20Aの咆哮もまた官能的でいい音だ。
回転を上げて走りたいときは助手席側の窓も思わず開けてしまう。
現在のところ、このクルマの走行性能に関する不満は無い。というか、性能を手に余している状態というべきか。「R」はサーキットを疾らせてこそ「R」だというのもよくわかる。
サーキットを走らせたら、さぞかし楽しいだろうなぁ。
●「R」ですから・・。
インパネ周辺のデザインやインテリアも余計なボタン類や、大よそ不必要なギミックの設定も無く、シンプルで良いけれど、「R」であるならば、「実益を兼ねた効果的な演出」があっても良かったかもしれない。
例えば、「電動格納式ドアミラー」の設定をしなかった様に(2008年秋のMCでは追加されたが...)、「パワーウインドー」や「バニティミラー」などはオプションでも良かったと思う。
車速応動型のパワードアロックなどは間違いなく不要だ。
時代錯誤甚だしく、マニアックで少数派の<妄想>なのかもしれないが、もともとこのクルマは「軽量化」を目的に快適性をとことん犠牲にしてこそ、本来の「Rらしさ」が引き立つような気がするのだ。
快適化に必要なオプションはそれを欲しい人が自由にカスタマイズできる設定で良かったのではないだろうか。
誠に変な話だが、この手のクルマは、運転をする本人以外の同乗者から不評、もしくはヒンシュクであれば、あるほど、所有する価値感と喜びが強まるのだ。
自分以外、わかってくれなくても良いのである。
とにかく「“R”ですから・・・」で全てを言いくるめてしまうのも「R」の楽しみ方なのでR(アール・・・・^^;)。
●納車日 2009年2月2日
●納車時の走行距離 19,802キロメートル
<追記>
2010年11月7日、箱根をドライブ中に対抗車線から飛び出してきたベントレーにシビックの横腹を直撃され、シビックは大破。もう少し強く押し出されていたら、ガードレールを突き破り、箱根の断崖絶壁から落下するところでした。スーパープラチナのシビックは大変気に入っていた車だけに廃車せざるを得ないと知った時はショックでした。