コーナリング物理の考察０１　荷重とグリップ

さて。
夏休みの自由研究をやってみようと思います。
ちょくちょく更新予定です。
よろしくお願いします。

＊＊＊

自動車はタイヤを地面に押し付ける力によって発生する摩擦でカーブを曲がります。
タイヤ表面は、地面に押し付けられる力によって、摩擦を発生させています。

加減速や旋回Ｇによる荷重移動が発生していないものと考えて、たとえば１２００ｋｇの自動車に４つのタイヤがついていて均等に重量が割り振られている場合、１つのタイヤには３００ｋｇの荷重がかかっていることになります。
この３００ｋｇという地面に押し付ける力が、摩擦を発生させています。

この摩擦力は、押さえつける力に比例して強くなります。
たとえば、単位面積あたり１０ｋｇの荷重がかかっている場合と比べて、同じ単位面積あたり２０ｋｇの荷重をかけると、摩擦はそれに正比例して２倍になります。３倍の荷重をかければ、摩擦も３倍になります。
走行中の自動車で、各タイヤにかかる荷重を増減させる方法は、一般に加速と減速を利用することが多いです。路面の凹凸や傾斜、旋回によって発生する遠心力なども、荷重操作に影響します。車高などのセッティングでも荷重移動に影響します。

グリップは単純に、単位面積あたりの荷重に正比例して増減します。
ただ、厳密には違います。現実の細かいところは、最後のほうで触れます。

このことは、タイヤサイズがグリップに影響ないことを意味します。
タイヤが大きいほうがグリップが良くなる、というのは嘘だということになります。タイヤサイズが大きくても小さくても、摩擦の大きさは同じになるんです。
これも厳密には違うのですが、これも最後のほうで触れます。
ここでは、計算上はタイヤサイズがグリップに影響ないことを証明します。

仮に、ある自動車が荷重移動操作をしていなくて、１つのタイヤに３００ｋｇの荷重がかかっているとします。このタイヤのサイズを大きくして、接地面積を２倍にしたとします。タイヤの重さの変化は無視するものとします。
すると、グリップは２倍になるのか？
接地面積が２倍になっても、その接地面全体にかかる荷重は３００ｋｇで変化しません。すると２倍になった接地面の半分の部分（もとのタイヤの接地面と同じ面積）には半分の１５０ｋｇしか荷重がかかっていません。グリップは荷重に比例するので、荷重が半分になればグリップも半分になります。
ところが、同面積あたりグリップが半分で、面積が２倍だから、接地面全体でのグリップは元のタイヤサイズの時と変わらないことになります。
ですから、逆にもしも元のタイヤよりも幅を狭くするかなにかして接地面積を半分にしたとしても、同面積あたりのグリップは２倍に増えて面積が半分だから、やっぱり元のタイヤと同じグリップになってしまいます。

したがって、タイヤサイズはグリップに影響ないことになってしまいます。
ここであえて現実的なことを考えると、グリップに影響がないのならタイヤは細いほうがバネ下が軽くなって良いはずです。それなのに、なんでＦ１みたいなのは太いタイヤを履いているのか、という謎が出てきます。

実は、タイヤのグリップは荷重をかければかけるだけ無制限に上がっていくわけではなく、グリップには限界があります。
理由のひとつは、ゴムの特性によるものです。もうひとつは、荷重の上昇度合いに対して加減速に使うＧのほうが大きくなるためだと思います。数値化をこころみたのですが、重心やロールセンターの出し方がわからないと計算のしようもないことがわかったので、今のところ検証をあきらめています。

図のグラフに示した通り、単位面積あたりのグリップは、あるていど荷重をかけていったところで正比例で増加しなくなり、やがてほとんど増加しなくなります。
つまり、接地面積全体においては、接地面積が広いほうがこのグリップ限界が高くなるということです。だから、ハイパワー車や、自重そのものが重い大型車両などは、接地面積の広いタイヤを使います。
ちなみに、負荷や疲労によってタイヤが壊れる限界もまた、接地面積を広げて単位面積あたりの負荷を減らすことで向上させることができます。

パワーが低く、ブレーキも弱く、車重も軽く、トップスピードも遅い車ならば、タイヤにかかる負荷も小さいです。するとその使用用途や運動性能の範囲内ならば、接地面積の小さいタイヤのほうがバネ下重量を軽減できるはず、という話になります。
極端な例で考えるとイメージしやすいです。ローパワーな車にむちゃくちゃ太くてでかいタイヤを使うと、運動性能が悪くなります。

よって。

１）グリップは荷重に正比例して増減する。

２）荷重によるグリップ増加には限界がある。

という二つのことが理解できます。