M340iと呼吸が合った日 — シートポジションと脱力がもたらした変化
愛車M340iのポテンシャルを解放する場所を求め、休日の早朝、慣れ親しんだ峠道へとステアリングを向けた。
M340iと共に暮らしてまだ1月も経っていない。走行距離は1000kmを過ぎた(新古車だったので、総走行距離は約2000km)。3.0L直列6気筒、B58エンジン。387馬力を誇るこの傑作を所有する歓びは大きい。しかし同時に、ある違和感を感じていた。
「この車の性能を、引き出せていないのではないか?」
ペースを上げた時だけの話ではない。
街中を流している時や、休日のドライブにおいてさえ、微細な「ズレ」を感じていた。 M340iは高性能車だ。しかし、身体がその性能とわずかに噛み合っていない。
「このままではいけない。一度、本来のステージで車と向き合わなければ」
この引っかかりが、私を突き動かす原動力となった。その正体を探るべく、まず基本であるドライビングポジションの見直しから始めることにした。実践の場には、走り慣れた峠道を選んだ。
出発前の「作戦会議」
ドライビングポジションのあるべき姿を再検討している時、なべふく氏の記事を見つけた。力の入った記事であるとともに、そこには真髄があると直感した。記事を読み込み、以下のポイントを頭に叩き込んだ。
1. 骨盤の位置: お尻をシートの一番奥まで押し込み、骨盤が寝ないようにセットする。基本だが「やっていたつもり」になっていないか、疑ってみることにした。
2. シートバックの角度: 背中とシートの密着感に不足を感じていた。強いGがかかった際、無意識に身体に力が入っており車との一体感を阻害している可能性がある。その要因はシートバックの角度にあるのではないかと考えた。
3. 座面の高さ: ブレーキのGを引き出しきれていない感覚があった。シートの高さが原因だと感じてはいたが、ブログ記事の指摘でその確信が強まった。
作戦会議にはGoogleのGeminiにも参加してもらい、客観的な視点を取り入れた。
1.
「9時15分」のグリップ :M340iの太めのステアリングリムに対して、時計の「9時と15分(3時)」の位置を持ち、親指はスポークの上に軽く添える形を基本としてください。
2.
左足のフットレストへの「置き方」 :フットレストには常に左足を置き、
「踏ん張る」のではなく「壁として使う」 意識を持ってください。
違和感からのスタート
走り出しのワインディングロード、最初の数キロは苦痛だった。 車と身体がバラバラに動いている感覚だ。力で車をねじ伏せようとし、アクセルは中途半端にしか踏めない。「駆けぬける歓び」とは程遠い、ぎこちない時間。
まさに予想していた通りだった。
転機となった「シート調整」
車を停め、シートポジションの見直しにかかった。
1. シート位置を下げる: 重心を低く、路面からの情報を近くに。
2. シートバックを立てる: 圧迫感を感じないギリギリまで垂直に起こす。
この再調整が、劇的な変化をもたらした。何回か調整したことは付記しておきたいが、想像以上に立てたシートバックに、最初は戸惑いすら覚えた。しかし走り出すと、背中全体がシートに吸い付き、タイヤのグリップ感が背骨を通じて脳に直接伝わってくるようだった。
この時感じたのは、まるで
「前傾姿勢」 をとっているかのような感覚だ。
もちろん物理的に前傾しているわけではない。しかし、M340iの強烈な加速Gを背中で受け止め、フットレストに乗せた左足で身体を安定させると、臀部から背中にかけて力が一本の線で繋がる。
すると、アクセルを踏み込み
加速Gがかかるほど、背中全体、特に上部がシートに強く密着する。 この感覚が前傾姿勢を意識させたのだろう。車との一体感は増していく。
逆にフルブレーキングのような強い減速Gがかかる場面でも、左足の踏ん張りは最小限で済む。骨盤が正しくシートに収まっているため、身体が前方へ投げ出される感覚がなく、安定している。これがGeminiが言っていたフットレストを壁として使うということだろうか。
身体を支えるための無駄な力が消えたことで、加速・減速のどちらの局面でも、「車との対話」に神経を集中できるようになった。
脱力がもたらす好循環:脇を締めるという意味
シート調整により背中と腰がシートに完全にホールドされたことで、ハンドルをサポートに使う必要がなくなり、腕から力が抜けた。B58エンジンの強大なトルクで加速している時も脱力しているのは不思議な感覚だ。
そして、
「脱力すること」を、楽しめるようになった。
力が抜けると、自然と脇が締まる。脇が締まると、ステアリング操作の支点が不安定な肩ではなく、安定した体幹へと近づく。
- 積極的な脱力 : 力を抜くことで、ステアリングからのインフォメーションがクリアに伝わってくる。
- 精度の向上 : 体幹で操作することで、的確なタイミングで的確な量のステアリング操作が可能になる。
この「脱力」→「脇が締まる」→「精度向上」のプロセスが、M340iの正確無比なハンドリングを引き出す鍵だった。
荷重移動という「対話」
ペースを掴んでからは、コーナーへのアプローチが変わった。 以前のようにただ減速して旋回するのではない。身体的な緊張から解放されると、一段深く車の動きを感じ取り、思考に転換できる。
- ブレーキを残す : コーナー進入時、すぐにブレーキを離さず、フロントタイヤに荷重を残したままステアリングを切り込んでいく。
- 旋回力と速度の一致 : コーナーで最も速度が落ちるポイント(ボトムスピード)と、車の旋回力が最大になるポイントを一致させるよう、ブレーキをコントロールする。
フロントタイヤへの過度な荷重はアンダーステアを招くが、適正にコントロールされた荷重は旋回力を発生させる。 そこからアクセルを踏み込むと、M340iのxDriveは強大なトラクションで車体を前へと押し出す。
これぞ求めていたドライビングだった。
走りを「イメージ」すること
身体の力が抜け、頭がクリアになったことで、ドライビングにおける「思考」の領域が広がった。
コーナー間の直線では、安全マージンを確保した上でB58エンジンの咆哮を楽しむ。ノロノロ走ってリズムを崩すこともなく、安全を確保した上でテンポを創り出す。
コーナーの手前では、一瞬ナビゲーションに目を向けてコーナー全体を確認、進入速度、減速度、旋回のピーク、加速の流れを瞬時にイメージする。 「ここは下りだから荷重が乗りやすい」「次は複合コーナーだ」 そうした予測と操作がシンクロした時、車との一体感は極致に達する。そこにスリルは存在しない。もしスリルを感じるとしたら、それはまだ改善の余地があるということだ。あるのは、スリルの一歩手前で踏みとどまり、冷静に車をコントロールする歓びのみ。
結論:しなやかで強靭
走り終え、M340iとの違和感が解消した。 B58エンジンはスムーズで、パワフルでありながら、荒々しくはない。そして足回りは、入力をしなやかにいなしつつ、強靭に路面を捉え続ける。
事前の入念な打ち合わせによる「理論」と、現場での修正による「実践」。
これらが揃って初めて、BMWの真価は発揮される。
今日の学びを胸に、これからもこの愛車と共に「終わりのないドライビングの探求」を続けていく。