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2014年06月12日

機械の限界、それ故の魅力。MGマエストロの英国的精神

機械の限界、それ故の魅力。MGマエストロの英国的精神 §日付けのある Car コラム
§『アクション・ジャーナル』selection

このクルマをもし買ったら、ぼくは(日本人であるから)まずダッシュボードから出て来るキシミ音を何とかしようとするだろう。要するに、プラスチックのパーツ同士がスレているわけだから、そのスレ具合を穏やかにしてやればいい。

然るべきところに、半分に切った名刺を挟んでみるとか、あるいは“万能薬”CRCを吹き付けてみるとか。そういった諸々の、いまとなっては懐かしいノウハウで、少しずつクルマを仕上げていく。

エンジンルームにしても、四本のプラグはまったく何の妨げもなく露出しており、オイルフィルターも上から手を伸ばせば触れる位置にあって、ともに、人間の手を待っている。プラグの熱価と自分の走りとのマッチングを何種類か試してみるかもしれないし、オイル交換も、自分の手を汚してみる気になるんじゃないか。

最初にダッシュからのキシミ音について書いたのは、べつにこのクルマを否定するための指摘ではなく、むしろ“情け”の出発点なのだ。この音に対策さえしてやれば、彼女はもっと“マイ・フェア・レディ”たり得る。そしてそれは、わが“イライザ”が山出しの──じゃない、作られっ放しの状態でも、かなりチャーミングであることを意味している。

ミニに乗った際にも感じたのだが、英国車というのは、なぜにかくも「関与」の意欲をそそるのであろうか。ミニで言うなら、クーパー氏の「関与」によるミニ・クーパーというスポーツカーの出現は、ユーザーの側として(チューナーとして、でなく)むしろ必然だと思ったし、このクルマ、つまりMGマエストロにおいても、ワタクシは“ヒギンズ教授”になってしまいそうな気配がある。

キカイに対して、人間が関与する余地を必ず残しておく。キカイはむしろ、パーソナルなものである。各個人によって、キカイの持つ意味はそれぞれに異なるはずだから……という意識が確固としてある。なるほど、これが英国流のクルマとの接し方なのだろう。

オーナーの各々のための、それぞれのマエストロ──。このイメージは鮮烈に男のコの気持ちを昂揚させる。いや、男のコだけではあるまい。人間と、日常的に用いるキカイとの関係を考えてみた時、この人間優位のかたちは、たまらなくあったかい。たぶん、根強い英国車のファンの存在も、ひとえに、このことによるのだろう。

揺るがぬ信頼性と耐久性を、まずキカイ存立の条件とする考え方は、時として、キカイの召使いとして人間を位置づけるものではないか。そこから生まれるのは、おもしろさというより、単純至極な性能比べゴッコになるはずだ。450から500、そして560と数が増えていくメルセデス・ベンツのトランクリッドのバッジは、そのような風土で王者の象徴であり、また、やらなければならないことでもあろう。

しかし、MGが呼吸している空気は、明らかにそれではない。2リッターEFI搭載のMGマエストロの性能は、アウトバーン上でも、同クラスの西独車にヒケを取るものではないはずだが、そうしたライバルとはいささか異なった尺度をわれわれに示している。この「発見」をこそ報告したいと思う。

誤解のないように付け加えれば、マエストロは、走っておもしろいクルマである。キビキビとしてレスポンスよく、気分よく、ドライバーを乗せてくれる。そのレベルの高さと、たとえばダッシュのキシミに見る仕上げの水準との落差が、ひどく興味をそそるということなのだ。無国籍的なアピアランスのMGマエストロだが、その走りは、まぎれもなくブリティッシュ・スピリットに溢れていることを、重ねて記しておきたい。

(1986/06/04)

○単行本化の際に、書き手自身が付けた注釈
MGマエストロ 2.0EFI(86年~88年)
◆オイルなんかは滲むもの、クルマは完璧な機械ではないんだとして、使う側へのそういう呈示も含んで英国人は自動車を作る。ムカシこのような話を読んだことがあり、その現実を肯定的に書くと、こういうコラムになる。しかし、実際にそういうクルマと暮らすのは、けっこう“困ったこと”も多いのではないかと思う(実は二輪で実体験あり)。かつてのMGマグネット、さらにはMG-A。少年として、ぼくはこれらのクルマのファンだったが、60年代はもう彼方に去った。さらば、MG……。
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Posted at 2014/06/12 08:43:17

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