最初に“乗った”のが白いギャランで、その次に買ったのがFRジェミニだった。そして、そのジェミニの色は濃い茶色。カタログには“オータム何とかメタリック”とか、そんなふうに書いてあった記憶があるが、ただ実車をひと目見た友人たちは、みんな、私のジェミニを「ゴキブリ色」と呼んだ(笑)。まあ、言われてみればその通りで、チャバネゴキブリというのか、あのタフな昆虫の背中のあたり、“照り”まで入った深い茶色が見事にクルマで再現されていて、(うまいこと、言うよなあ!)と、私は彼らのセンスに秘かに感心した。
このジェミニは新車での購入だったので、実は、色は何でも選べた。ギャランは中古で買ったが、色は「白でいい」と思っていた。それに続いての“ゴキブリ・カラー”、濃い茶色の登場である。……あ、そういえば、ほとんど走れなかった私の「ゼロ号機」である某欧州車は黄色だった。
こうして三台のクルマを買ってみて、ふと、気づいた。それは、少なくともクルマにおいて、私には「好みの色」というものがないんじゃないかということ。こういう色のクルマに乗りたいとか、また、こういう色では乗りたくないとか、そういう感覚がほとんどない。そして、どんな色のクルマにも乗れるというのは、色についての関心もセンスもないということではないのか。
また、女性の友人とクルマの話になった場合のことも思いだした。いま、このクルマがいいと思うよとか、あのクルマはカッコいいよね!とか。そうやってクルマが話題になると、女性たちはさり気なく、しかし鋭く訊いてくるのだ。「そう。……で、そのクルマ、《色》は何があるの?」
──その質問に、まったく応えられない私(笑)。こんなコンセプトで、あんな狙いで、そのクラスとしては画期的なナニソレが盛り込んでとか、そんなことは知っていても、そのクルマに「何色」があるかなんて考えたこともない。当然、色のラインナップを調べることもない。せっかく女性たちとクルマの話題になっても、この局面になった途端に話は止まり、話題はほかへ移って行く。
しかし、興味や関心がなくても、クルマの色を考えなければならない時がある。例の“ゴキブリ・カラー”にしても、私が決定したから、購入者である私のもとに来たわけで、誰かに押しつけられたわけではない。なぜ、私は“ゴキブリ”……じゃない、濃い茶色、つまりオータム何とかメタリックのジェミニを買ったのか?
それは「似合っていた」からだった。カタログ巻末のボディカラーの一覧にも目を通したし、実車も見に行った。そうして、こういう格好のこのクルマに一番「似合う」のはどの色だろうか? そういう考察や見極めをした。その結果、ジェミニについては、コーヒーにミルクを入れすぎたような色(笑)よりも、濃密な茶色の方がボディがキレイに見える。そういう判断をしたのだ。
白のギャランから、茶色のジェミニへ。一台目から二台目へという時に発揮された、色に関する“節操の無さ”は、その後も引き継がれた。ジェミニに続く、同じいすゞの117クーペのカラーは黄色で、次のVWのゴルフ(二代目)は白だった。でも、同じVWでも、ジェッタを買う際には藍色にした。
この二台のVWは実はディーゼル仕様で、走り(足)と燃費は良かったが、当時(1980年代)の欧州製ディーゼルは、エンジンの騒音については“あるがままに”の垂れ流し状態。ある日、その音量に耐えられなくなり、このクルマはもう販売元に引き取らせようと、買ったディーラーに行った。
そして、外国車のトラブルにも懲りていたので、次は日本車にしたいと思ったのだが、そのディーラーが扱う国内車はピアッツァ・ネロだけだった。そのネロは「黒」が売りもので、ほかにもカラーはあったのかもしれないが、私はそのまま素直に、ピアッツァ・ネロのイルムシャー仕様を選んだ。まあ「黒」は似合っていたので、このカラリングに異議はなかったが。
さて、何だかんだ言ってるけど、「似合う色」ってカタログで表紙や最初に開いたページに載ってるメインカラーであり、要するに、それを選んでるだけなんじゃないかという声は、どこからか聞こえる。メーカーやデザイナーの思惑や戦略に乗せられてるだけではないか、と。あなたは“自分の色”は、ついに持てなかったのだね、と。まあ、たしかにその通りであるかもしれない。
色についての、そんなこだわりの無さは、職業としてクルマの雑誌を作ってきたことにも関係があるだろうか。このページのこの部分に、Aというクルマの写真を載せるとしたら、どうする? そんなことばかりやって来た結果、“自分の色”ではなく、似合う/似合わないというモノサシだけで、クルマを見るようになった?
そして1990年代。その後の十数年を一緒に過ごすことになる「P10」(初代プリメーラ)というパートナーを決める際も、私はそれまでと同じことをしていた。メーカーが、このクルマのメインカラーはこれです!……という、まさにその色である「エンジ」を選んだのである。
──そういうヒトって、着るものの色やセンスもメチャメチャなんだよね! ……はい、そうかもしれません。たしかにテキトーに、いろんな色、着てるような? というか、ジーンズのインディゴ・ブルーはどんな色にも合うので……と、小さな声で言ってみる(笑)。
Posted at 2016/04/30 16:22:50 | |
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