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2014年10月28日

草の上で“遊戯”したマドモアゼルは、黒いシトロエンで去った 《1》

草の上で“遊戯”したマドモアゼルは、黒いシトロエンで去った 《1》  ~ 映画『マドモアゼル』その凄絶と静寂

最初に書いておくと、この『マドモアゼル』という映画にクルマが登場するシーンは二つしかない。そして、こうして一文は書くが、それはこの映画が多くの方にオススメということでもない。

また、これは男子に限定と思われるが、この映画はココロの傷(トラウマ)になるという説があり、それが気になるなら見ない方がいいとも思う。いや、グロなシーンや目を覆うような場面があるわけではないのだが、何というか、怖いというか凄いというか……。人の世、また人の心がどうしようもなく抱える“刃”のようなもの。この映画は、それを観客の心臓のあたりに向けて重く突き出す。

ただ「女優ジャンヌ・モロー」のファンであれば、もともと、かなりココロが強い方々であると推察するので、問題はないと思う。むしろ、彼女でなければ撮れなかった映画だと、いっそう女優のファンになるのではないか。

ただし、彼女が美しく撮られた映画ではないので、念のため。この映画に比べれば、たとえば『突然炎のごとく』は、何と彼女を可憐に、また華やかに撮った映画だろうか!と思う。しかし、この映画はそうではないのだ。

彼女はこの映画で、ほとんど全篇、あの得意の(?)仏頂面を通す。彼女のファンなら見慣れているであろう、あの表情だが、しかし、この映画は(ここまでやるか……)というくらいのレベルだ。この映画での徹底した“アンチ・ヒロイン”ぶりには、仮に彼女のファンであったとしても、多少の覚悟が要るように思う。

ちなみに、映画の原案はジャン・ジュネ、シナリオはマルグリット・デュラスという組み合わせ(監督はトニー・リチャードソン)。こういう成り立ちの映画にジャンヌ・モローが出ていて、もし未見だったとすれば(私のことだが)そのDVD化は、多くの映画ファンにとって歓迎であろう。

* 

さて、冒頭でも記したようにクルマ側から見ると、映画は全篇を通しても、自動車が登場するシーンは二つだけだ。物語の舞台はフランス某所、おそらくはイタリア国境に近いあたりの小さな村。……あ、でも、パリの話がけっこう出てきたから、田舎ではあったけれども、首都からはそんなに離れていない村だったか。

ともかく、その村には自動車はなく(誰かは持っているのかもしれないが、映画には登場しない)、村内を警察官が行動する際のギアも自転車だ。クルマは、その村に人が来た時、そして人が去って行く時に、それとなく出現する。村が「外部」と接触したことを示すアイコンがクルマであったともいえる。

そんな自動車登場の一度目は、隣村からか近隣の都市からか、ともかく村にはいない(らしい)獣医が、小さなクルマ(2ドアのクーペ、フィアットのトポリーノか)でやって来たという場面。この小型車には獣医が一人で乗ってきたはずだが、しかし、なぜか彼は右側のドアを開けて降りてきた。これはハンドル位置には関係なく、そもそもクルマのサイズが“ミニ”なので、左右どちらのドアからでも降りられたということか。

そして二度目に画面に出現する自動車は、主人公がこの村を出て行く時に使うタクシーとして──。映画はもうエンディングに近く、「クルマが来ますよ」という声を、主人公の女教師(扮するはジャンヌ・モロー)が聞く。

やって来たタクシーは黒一色。既にトランクが開けられていて、そこにドライバーが荷物を収めている。そのリヤシートに乗り込んだ女教師。村の人々はクルマを囲み、花束を贈り、教え子だった子どもたちは手を振る。

黒色のクルマは、ヘッドライト/フェンダー/ボンネットが一体になる前の時代、つまり1920~30年代の造型で、カメラアングルがロングになってフロントが映ると、縦長のラジエター・グリルに、特徴的な「ダブル・シェブロン」があるのがわかる。シトロエンの7CVだ。

この映画の公開は1966年だが、物語の時代設定はいつなのだろうか。原案者であるジャン・ジュネは1910年生まれなので、彼の少年時代(思春期)がストーリーに反映されて、映画の中の「少年」が12~13歳だったとすれば、時代は1920年代半ば頃ということになる。

ただ、タクシーとして登場するシトロエン7CVは、そのデビューが1934年だ。また、もう一台、映画に登場するフィアット・トポリーノ(サイドビューしか映らないが、おそらく)は、フランスでノックダウンされて、1936年に「シムカ5」として発売されたという歴史がある。……ということで、ジャン・ジュネの実際の少年期からは、およそ10年ほど時間をずらした1930年代半ばというのが、この映画の時代設定ではないかと思う。

ここで登場するシトロエン7CVは1934年のデビュー後、第二次大戦を経て1957年まで、11CVも加わって延々と作られた息の長いモデル。また、前輪駆動車の祖として“トラクシオン・アヴァン”と最初に呼ばれた機種でもある。

その黒いシトロエンの後席に収まった主人公“マドモアゼル”は、別れを惜しむ村人たちにウインドーを降ろして顔を見せ、にこやかに笑みを返す。社会人としての愛嬌も織り交ぜてという笑顔だが、そんな表情を見せたのは、実は、エンディングに近いこの時が初めてだった。もう村を出て行くという段階になって、ようやく彼女は、表面的にであれ、村民に笑って見せることができたのか。

とにかく彼女は、この映画の中で笑わない。このシーン以外で彼女が見せた笑顔は、一瞬の笑みが二回だけだった。その一度目は、なぜかその時は機嫌がよく、教師として、生徒の一人(実は彼女がひそかに関心を持っている男の息子だが)に、一瞬だけ笑いかけたという場面。そしてもう一度は、欲望が満たされそうになった時、その悦びと充足の表情に混じった、かすかな笑みとして──。

(つづく)
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Posted at 2014/10/28 07:57:58

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