
§日付けのある Car コラム
§『アクション・ジャーナル』selection
税制の例の変化は、もちろんクルマの世界にもきちんと波及している。クルマという商品が決して“自立”していず、周囲の制度や時代と極めて密着していることが改めて知れるが、では、軽自動車界はどういう現況であろうか?
この4月直前、軽業界での話題の中心は、何といっても「ボン・バン」の将来だった。乗用車と商用車を区別していた物品税がなくなって、商用車=ボン・バン(ボンネット・バン)の経済上のメリットが失せた時、果たして、事実上ほとんど2シーターでしかない“乗用車”(ボン・バン)に未来はあるのか? こういう設問である。
当時のぼくの見解は、こうだった。軽ボン・バンは不滅である。セミ・2シーターでよい。なぜなら、軽はとっくにセカンドカー、サードカーとなっており、パーソナル・ユースとしては必要かつ十分。それがボン・バンであって、その事実は深く浸透した。それが今日である、と。
四人で乗る時? その時はダンナの、また息子用の普通車を引っ張り出せばよいのです。むしろ買い物用としては、リヤにどでかいシートがないボン・バンの方が使いやすいのではないか。新税制で、軽では「バン」と「乗用車」が50:50になる? いえいえ、そんなことはありません。バン優位は続きますね、はい!……
さて、ここに三菱自動車工業調べによるデータがある。税制が変わってから、わずか3ヵ月後だが、89年7月の月間における軽自動車の販売はどのような数字だったか。それは、ボン・バン4万6797台、そしてセダン4万6216台だった。販売比率は50:50。ちなみに、4月の比率は69:31。もちろん、セダンが31だった。
……負けましたね! メーカー筋では、五分五分説やセダンの逆転優位を採る向きが多かったのだが、その通りであり、これはまったくプロの“読み”の方が圧倒的に正しかったということになる。また先ほどの4万台余というのは、軽業界五社の合計の数字だが、このうち、三菱、スズキ、スバルの三社は、はっきりとセダンがバンを上回った。
もちろん、作り手側は自らの“読み”に合わせて、セダン・バージョンの新設や生産拡大をしてきたわけで、それが実際の販売にも反映する(作ったから頑張って売る)傾向はあるのだろうが、でも、それだけじゃ、こうはならないと思う。
そしてもうひとつ、この4月から7月までに現われた軽自動車の傾向がある。それは、需要の若干の冷え──。ミニカ以外は、前年同時期に較べてみな百パーセントを割っているのだ。ウーン、シビアなマーケットだなあ! これが実感である。そして一方では、とても健康な気がする。
フル・4シーター(セダン)でも、ボン・バンとほとんどネダンが変わらない? それなら、乗用車の方にするわよ。車検バンより長いんでしょ? じゃあ、もうセダンだわね、軽は! ……と、つまりは、こういうことなのであろう。
いくら出すと、何が手に入るのか? これがおそらく、軽自動車の永遠のテーマなのだ。いや、軽のみならず、商品というものの永遠のテーマであるはずなのだが、「クルマ」の場は、しばしば、このタガが外れてしまうことがある。このような軽自動車の状況を、あえて“健康”と評すユエンである。
もうひとつの需要の冷えの件についても、同じようなことが言えるだろう。いま、軽自動車の規格が変わろうとしている。とりわけ、排気量のアップというのは、大いに注目すべき変革のはず。エンジンが660ccになって、どんなクルマが出て来るのか。どのように、その新しいレギュレーションが活かされるのか。カネを出す(買う)のは、それを見てからにする。
1990年の春あたりから、新規格の軽自動車は実車として市場に出て来ると観測されているが、ということは、要するに半年の間だけ静観していればいい。そうであるなら、いまはガマンガマン……。これまた、カスタマーとして正しく健康な商品へのアプローチであろう。そういう時期の商品であるなら、まずは、このような判断を下すはずだからだ。
そんな状況のいま、ミニカに新バージョンが追加されたのは、そのような(セダン車型の)好調さと、まだ続いている同車の新車効果を、さらに強化しようという狙いであろう。4WDと5バルブDOHCターボの組み合わせ。また、ノンターボの5バルブ・エンジンの新登場。そして、セダン系の車種拡大。「新規格・軽」までのツナギとしては、なかなか十分な対応と見たが、さて、どうなるか。シビアな市場の反応や、いかに?
(1989/10/10)
○89年末単行本化の際に、書き手自身が付けた注釈
ミニカ・3ドアセダンXF-4/ダンガンZZ-4(89年8月~ )
◆ぼくが軽自動車ウォッチングをやめたくないのは、それがクルマを見る際の格好のサンプルになると思うからだ。たとえば、ボン・バンの衰退、3ナンバー車の増加、高級車の販売の伸び。昨今のこれらの傾向は、みな同じ理由(税制の変更)からである。そして、2リッター+過給(5ナンバー枠)と軽自動車(軽枠)のクルマ作りは、「レギュレーション」内でハードを頑張るという意味で、まったく同根だ。軽自動車はしばしば、日本独自の規格で非・国際的だと“識者”各位からなじられるが、どこの国や地域にもクルマについての規格や法規や税制の枠組みはある。それがその地域なりのクルマを生んで、そして育んでいる。
○2015年のための注釈的メモ
……そうでした、90年代を迎えようとする軽自動車には、サイズとエンジン排気量の拡大という大きなレギュレーション上の変化があったのですね。そんなエンジン部分の強化があったから、じゃあ、若干ガタイの大きな軽自動車もあり得る? そうした判断とともに、“トールで大きな軽”という新コンセプト車へのゴーサインがスズキ内部で出たのではないでしょうか。93年・秋に登場することになる「ワゴンR」には、そんな背景があったと思われます。そして、そうした見慣れない“トール軽”が、あっという間の90年代半ば、軽自動車の主力車型になるなんてことは、93年時点では、ジャーナリズムも、そして当のメーカーも、まったく予測できませんでした。
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80年代こんなコラムを | 日記
Posted at
2015/02/20 18:42:25