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2015年03月04日

日本における「王冠」の座は誰にも渡さない──クラウンV8

日本における「王冠」の座は誰にも渡さない──クラウンV8 §日付けのある Car コラム
§『アクション・ジャーナル』selection

「クラウンのお客様」という現代用語がトヨタにはある。その基礎知識を一度、当のトヨタ側にただしたことがあるが、それは次のような答えだった。

──具体的にと言っても、たとえば年齢層は幅広く、ある一人の人物像に集約させるのはむずかしい。職業や収入などでも、これだと特定はできない。ただ、あえてまとめるならば、さまざまなレベルで、またスケールで、常にいろいろな場でリーダーシップを取っておられる方々。これが「クラウンのお客様」である。

……さすがに「お客様」を語る言葉はきれいだ。その表現の美しさ! 何という寛容さ! ついでに言うと、定義づけはむずかしいとしつつ、しかし、「クラウンのお客様」が確固として存在していること。そして、それをしっかり掴んでいることへの自信には充ちていた。その「客」をどう遇すべきかは完全に把握している、そういう表現でもあった。

そして、現行クラウンのデビュー後、いくつかの事件が起きた。まずは、シーマという無鉄砲なチャレンジャーの出現である。まったくの新機種であること、それ以上に「セドリックの客」なんかいないことを逆に利用しての最速&最高価、日本車の“頂点”(シーマ)という位置に果敢に身を置いた。シーマは「君臨性」というこの種のクルマにもっとも必要な“王冠”(クラウン)をさっさと被って、クラウンを揺さぶった。ついでに、中年殺しのキーワードである“若作り”であったことも、シーマ人気を加速させた。

この下克上を何とかこらえ切ったクラウンに、次にやってきた大事件は、これはちょっとシビアだった。しかも今度の敵は、他ならぬ身内だった。そう、その名はレクサス。海外マーケットにおいて、新チャンネルまで設けて(トヨタという名を捨てて!)高級車路線に打って出ようと、トヨタが総力を挙げたスーパー・サイレント・セダンである。大型のボディ、新設計V8、4リッターのパワープラント。トヨタの最高級車という座は誰が見ても、レクサスLS400だというのが90年代的な現実となった。

クラウンが「クラウンであること」という命題にとって、これはニッサン・シーマの存在以上に、恐るべき侵略者だった。しかもそのレクサスは、何と日本国内でも売られるというのだ。(国内名は「セルシオ」という)

……これ(レクサス)は売れるだろうな、価格なんかは何の問題にもならないな、ベンツだって食えるかもしれないよな。クラウンを買ってた層のうち、かなりの部分がレクサスに流れるよな。これが率直な感想だった。

そして、これでクラウンが「変わる」のだなとも思った。たとえばニッサンは、シーマ以後のセドリックを、例のグランツーリスモSVでもって蘇生させたが、クラウンはどういう手で来るのかなとも思っていた。

レクサス(=セルシオ)の国内販売に少しだけ先だって、クラウンが“動いた”。だがそれは、その逆襲ぶりは、ちょっとぼくの想像を超えていた。何とクラウンは、レクサスの「心臓」を、レクサスから奪い取ったのである。レクサスを買う意義のうちの重要なひとつであったはずのエンジンの魅力(商品性)、それを消失せしめた。こう言い換えてもいいかもしれない。そしてこれはイメージとして、レクサスより俊敏なクラウンの誕生でもある。

すげぇこと、するなあ! しみじみと感嘆し、あのフレーズを改めて想起した。「クラウンのお客様」……。「彼ら」は見事に守られた。ポジションをキープした。トヨタにとって「彼ら」は、それほどまでに大切な客だったのである。

そのロイヤルサルーンG・V8だが、体感的な過激な速さこそないものの、足まわりは締め上げられて、総合性能の高いニュー・クラウンとして登場した。もちろん、静かさは超・一級であり、「クラウンであること」はそのままに、トータルバランスが底上げされた。

数日間、クラウンの借りものの「客」になってみての感想は、このクルマに乗ってると、ずいぶんと図々しい走りが可能になるなというものであった。(割り込める、譲らずに済む!)この「君臨性」の快感が客を呼び、そこからのフィードバックがふたたび、クラウンというハードウェアを作る。そのためにも、自社における最高級パワーユニットの搭載は不可欠で、メカニズム的にも遅れは許されない。クラウンはやっぱり批評なんぞを超越して、そびえ続けるのであった。

ワイドボディを作る際に、日本中の駐車場をリサーチして、現行クラウンに見る如く、ほんの少しだけ、それも下半身のみで「5ナンバー枠」を超えさせたという実績を持つのが、このクラウンだ。おそらく、対レクサス戦略では、あっちは大きすぎて不便ですよ、エンジンは同じですよ……という巧みなセールストークがなされて、クラウンは確実に、そして見事に生き延びるのであろう。

(1989/10/24)

○89年末単行本化の際に、書き手自身が付けた注釈
クラウン・ロイヤルサルーンG・V8(89年8月~  )
◆クラウンもまた、少しずつ、その「客」を変えていこうと試みている。客に気づかれぬように、また、目立たないように。たとえば、シート。これはどんどん硬くなっている。フランス風と西ドイツ風とどっちに近いかといえば、今日ではもはや後者だ。そして、足。乗り心地や静粛性には決して影響は及ぼさない範囲で、コーナリング性能は高められている。よく踏ん張る足であり、とくにこのV8版はそうだ。国際性への静かなるエボルーション。クラウンの「もてなし方」の変化は、考察に値する。
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Posted at 2015/03/04 11:42:50

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