
横から見た場合にきれいな“三つのハコ”(ボンネット+車室+トランク=3ボックス)になっていて、全体としては直線が基調になっている。さらに、ボンネットとトランクリッドの高さは同じ(水平)である──。これがどうも、われわれ日本人が共通して持っているクルマについての「美学」であるらしい。そういえば、日本三景と呼ばれる景色は、すべて「海」(水平)がベース。その基調に、島や橋や建物が絡むという構成であった。
そのことをしっかり知っているのが、トヨタでありクラウンで……と言いたいところだが、時に冒険もするのがこのモデルであって、そこもまた、おもしろいところ。実際にもこの次の型では、欧州風のウェッジシェイプを導入するという果敢なトライをした。(クラウンとしては、結果は失敗ではあったが)そして、そんな冒険をしたくなったのも、この8代目のクラウンが、スタイル的にあまりにもキマリすぎていたからかもしれない。
ともかく、このクラウンは、その「水平美学」通りの、端正極まる和風セダンだった。ペリ・フレーム付きの伝統の静粛性は他車を凌駕し、乗り心地の重厚感とマイルドさも特筆ものだった。
これ以後のクラウン、とくに10代目以降は、「走り」もその視界に入れたクルマ作りをはじめる。その意味で、そしてスタイリングにおいても、古き良き時代の空気をたっぷりと呼吸していた最後のクラウンが、この8代目であるだろう。
同時期のサニーは小型の大衆車ながら、このクラウン造型を忠実に縮小したような格好をしていた。“水平デザイン”がいかにこの国で好まれているか。サニーもまた、その「トラッド・サニー」で、そのことを証明したのである。
(「カーセンサー」誌、1995年。「昭和名車伝」より一部加筆)
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クルマ史探索file | 日記
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2015/05/12 21:00:43